けいけんできないこと
この作品はフィクションです。
「というわけで前回、平行四辺形の面積の求め方が諸行無常であるという話をした訳なんだけど」
「はい捏造。」
「今回は、この世の中には、経験したくても出来ないことがたくさんあるという話なんだよ。」
「例えばどんな。」
「ワープ。」
「なるほど。」
「空間転移は、魔法世界やSFでは当たり前のように存在してるけど、現実世界では現在のところ不可能なんだよ。」
「まぁ、不可能だよな。一度粒子レベルに分解してから別の場所に転送して、転送先でその粒子をもう一度全く同じ形に組み立て直す、って、考えただけでもハードル高いし。」
「あー、そのパターンのやつね。」
「自分はそういう感じのやつしか知らないんだが、他に方法ってあるのか?」
「あるんだよ。もしくは、あるんだよ。」
「なんで2回言った?」
「仕方ないなぁ。ならば、そんな無知で無教養で無感情なキミのために、」
「否定せざるを得ないことばっかり言うな。」
「もっと気軽に手軽にワープできる方法を教えて新参者いらっしゃい。」
「はいはいいらっしゃい。」
「まず秋刀魚を用意します。」
「一時停止。」
「なんぞ。」
「もうおかしいんだけど。」
「どの辺が?」
「ワープする方法で秋刀魚を用意するって意味わからないんだけど。」
「…ワープさせる対象が無いと説明できないでしょ?」
「…秋刀魚をワープさせるって話?」
「そう。ギミックじゃなくてターゲット。」
「なんでちょっとカッコよく言った?」
「とにかく。早とちりで話の腰を折るのはやめてくれたまへ。訴えるぞ。」
「そんなに?」
「じゃあちゃんと説明するんだよ。本当にキミは無知無教養無感情で無尽蔵なんだから。」
「何が?」
「まず、ワープさせるための秋刀魚を用意します。」
「はい。」
「それを適度に焼きます。」
「はい?」
「大根おろしとお醤油を用意します。」
「あの、」
「白飯も用意します。」
「おい、」
「食べます。」
「一時停止。」
「無視します。」
「しないで?」
「見事、秋刀魚が別の場所にワープしました!」
「それはワープとは言わん。」
「粒子レベルに分解できるくらいよく噛んで食べたよ?」
「めっちゃ噛むじゃん。」
「キミが文句を言ってくる意味がまるっきりわからないこともない。」
「多少わかるのかよ。」
「でも、よくない?これ。秋刀魚をワープさせることができた上に美味しいと言うおまけつき。」
「それだと、転送先で同じ形に組み立て直す、っていうのが出来ないだろ。」
「小学生にそんなハイレベルなものを求めるんじゃないよっ!!」
「なんで怒られたの?」
「ま、キミは無知無教養無感情無尽蔵無味無臭かつ無味乾燥だからね。許してあげよう。」
「どんだけ無なんだよ。」
秋刀魚の旬の時期じゃないことはご愛嬌ってことで。