かんどうのしーん
この作品はフィクションです。
「うっ、うっ、うっ………。」
「…?」
「うっ、うっ、うっ………。」
「どうした?」
「うわぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーんっっっ!!!」
「…何を遠吠えしてるんだ?」
「それはーーーっ!もちろんーーーっ!かんどーしてるからーーーっ!なんだよーーーっ!」
「…とりあえずうるさい。」
「なんだよぉ。同居人は冷めてるなぁ。」
「だってうるさいし。」
「キミはあれかい?感動とかしないタイプかい?あるいは近藤とか名乗らないタイプかい?」
「俺の名字は同居だからな。」
「………そうだったっけ?」
「覚えてないのかよ。」
「てっきり同居だと思ってた。」
「覚えてるのかよ。」
「…感動するよね、こういうの。」
「………どこが?」
「記憶をなくしていた主人公が記憶を取り戻すシーン。」
「あー………、うん。なんか、いろいろ間違ってる。」
「どの辺が?」
「名字を忘れていたのは記憶をなくしていたのとは違うし、結局知ってたっていうのは記憶を取り戻したのとは違うし、そもそもこの作品は感動とは無縁が過ぎる。」
「とりあえず無視します。」
「長々と喋らせた挙げ句に無視するなよ。」
「とーにーかーくーちーのーてーんーきー!」
「全国的に晴れで。」
「希望だね。」
「希望だ。」
「感動のシーンを見て感動することは精神衛生的に重要極まりないと言わざるを得ない。」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。うちの知り合いなんて、感動のシーンを見て感動して震えが止まらなくなって、それが寒気に繋がって風邪を引いて三日寝込んだ。」
「ダメじゃねぇか。」
「精神衛生的にはよかったんだけどねぇ。肉体的に誤解が生じた。」
「その震えは体調不良からくる震えじゃないんだぞ、って?」
「そうそう。マカロニグラタンはマカロニから作られるグラタンじゃないんだぞ、って。」
「マカロニグラタンはマカロニから作られるグラタンだろ。」
「そうなの?」
「そうだろ。」
「じゃあチキンカレーはチキンから作られるカレー?」
「それはちょっと違うかも。」
「軍艦巻きは軍艦から作られる巻き?」
「それはかなり違うかも。」
「バックドロップは頭から落ちてるのにバックドロップ?」
「背中側に落とされるんだから、バックドロップでいいだろ。」
「ブレーンバスターは背中から落ちるのにブレーンバスター?」
「脳も衝撃受けるだろうから、ブレーンバスターでいいだろ。」
「残念。垂直落下式なら結構ブレーンバスター。」
「垂直落下式じゃなくてもブレーンバスターはブレーンバスターだ。」
「じゃあブレーンバスターが」
「いつからプロレス技の話になったんだよ。」
「プロレスにも感動のシーンあるじゃない。」
「あるけど。」
「急所攻撃から丸め込んで3カウント取るシーンとかね。」
「それは感動しない。」
感動の仕方は人それぞれってことで。