らく
この作品はフィクションです。
「あーーー、」
「楽して生きたいなぁ。」
「正解。」
「当たっちゃったよ。」
「凄いんだよ。キミには寿司職人の才能がある。」
「どの辺から割り出された才能かな?」
「楽して生きたいでしょうよ?」
「それはそうだけど。」
「苦しむために生まれてきたんじゃないんだよ。どれだけ楽して生きられるかって、大事なことだと思うんだよ。」
「大事なことは、楽をすることで出来た余裕の部分で、何をするか、だと思うけどな。」
「出た。」
「?」
「魂。」
「出すなよ。」
「危うく死ぬところだったんだよ。」
「ちゃんと体の中に納めておきなさい。」
「魂だけの存在になったら楽だと思わない?」
「なんだ急に。」
「肉体があるから、怪我や病気に悩まされるんだよ。魂だけの存在なら、怪我や病気もしないと思われるんだよ。」
「その代わり、死ぬときは事前告知なしで一発アウトだろうけどな。」
「まさかの落とし穴。」
「肉体は魂の防壁だからな。」
「出た名言。」
「そんなでもないだろ。」
「コンビニはライ麦畑の公民館だからな。」
「聴覚検査をお勧めしよう。」
「拒否!もしくは拒否!」
「一緒じゃねぇか。」
「聴覚検査はよろしくないんだよ、私にとって。」
「どこが。」
「楽じゃないから。」
「楽だろ。」
「えー?」
「耳にイヤホン当てて、音が聞こえたらスイッチ押すだけだろ?」
「私は耳にイヤホンを当てると、太古の亡霊の漫才が聞こえてくる体質なんだよ。」
「ちょっと聞いてみたいじゃないか。」
「天地開闢!」
「………何それ。」
「お約束のギャグなんだよ。」
「歴史を感じる。」
「もはや名人芸なんだよ。」
「笑いじゃなくて拍手が起こるタイプか。」
「ソースわかめ、」
「?」
「間違えた。そんなわけで、」
「間違え方。」
「ギャグを考えてみようじゃあないか。」
「どうした急に。」
「ギャグの一つでも持っておけば、急に何かをふられた時に対応が出来て、気持ちが楽なんだよ。」
「お前は芸人じゃないだろ。」
「芸人は大変だからね。楽とは程遠い職業なんだよ。」
「確かに。」
「どこかにないかねぇ。」
「楽して稼げる職業か?」
「私の魂。」
「また出たのか。」
「天地開闢した時に抜け落ちたんだよ。」
「なら、今のお前は魂が無い状態なのか。」
「まさしく。」
「普通に生きているように見えるのだが。」
「今は予備魂に切り替えてるからね。」
「便利な時代だな。」
「楽を求める人間は、ついに命をも余分に持つようになったんだよ。良いことかどうかは知らんけど。」
「楽を得る代わりに、価値は失われる、なのかもな。」
「何を真面目っぽいことを言っておるのかね。」
「ごめんなさい。」
魂は厳重に保管しておきましょう。