わすれっぽい
この作品はフィクションです。
「まゆげとまつげの違いは」
「新しいテーマで話すんじゃなかったのか。」
「そうだっけ?」
「忘れたのか。」
「忘れたねぇ。」
「前回の話だぞ。」
「そうだねぇ。」
「大丈夫か。」
「最近忘れっぽいんだよ。」
「その歳でか。」
「ついこの間あった出来事がもう思い出せない。」
「まずいな、それは。」
「うん。」
「昨日の食事の内容を思い出せないとか、そんな感じか?」
「あ、それは大丈夫。」
「そこは大丈夫なのか。」
「食い意地張ってるからね、」
「堂々と言うことではないけどな。」
「彼。」
「誰?」
「昨日の食事はねぇ。」
「続けるのか。」
「朝が、たい焼き風カスタードマイルドブロッサム天婦羅の山芋入りパーフェクトストライク。」
「一時停止。」
「なんぞ。」
「いろいろと聞きたいことはあるが、まず聞いておきたい。」
「拒否!」
「そんなのあるのか。」
「んで、昼が、」
「続けるのか。」
「コロンビア的アフリカ風インドネシア産伊勢海老をふんだんに隠し味に使用したつもりのおにぎりっぽいおむすびらしきサンドイッチのパスタ。」
「一時停止。」
「なんぞ。」
「いろいろと」
「拒否!」
「早くないか。」
「んで、夜が、」
「続けるのか。」
「笹。」
「一時停止。」
「拒否!」
「早くないかって。」
「拒否はすればするほど早くなっていくんだよ。それこそ、ファーストフードの店員がお辞儀をするスピードよりも早いんだよ。」
「お辞儀の速度は普通だろ。」
「普通に見えるとしたら、それはキミの目が正常な証拠なんだよ。」
「それはよかった。」
「ところで。」
「なんだ。」
「何の話してたっけ?」
「忘れたのか。」
「忘れたねぇ。」
「ついさっきの話だぞ。」
「そうだねぇ。」
「大丈夫か。」
「最近忘れっぽいんだよ。」
「その歳でか。」
「なんか偉い人の名前が全然思い出せない。」
「ふんわりしてるな。」
「ほら、あの、ほら、あの人。」
「誰だ?」
「世界で初めて、三角定規の真ん中に丸い穴を開けた人。」
「誰だ。」
「世界で初めて、シャープペンの上にちっこい消しゴムを装着させた人。」
「誰だ。」
「世界で初めて、笹を食べた人。」
「誰だ。」
「同居人。」
「なんだ。」
「キミも忘れっぽいのかい?」
「これは、忘れっぽい、じゃなくて、知らない、だ。」
「あー、要は知識不足か。」
「嫌な言い方するな。」
「まぁまぁ仕方ないんだよ。一人の人間が蓄えられる知識量には限りがあるんだから、そんな風に偉い人が言っていた気も、しないでもない。」
「ふんわりしてるな。」
「それくらいが丁度いいんだよ。」
「かもな。」
覚えてなきゃいけないこと以外は、案外忘れちゃっても大丈夫なのかも。