いきょうのち
この作品はフィクションです。
「知らない場所への旅は、様々な感情が入り交じるんだよ。」
「そうだな。」
「それは、ワクワク、だったり、ドキドキ、だったり。」
「うん。」
「ソワソワ、だったり、アセアセ、だったり。」
「うん?」
「次の駅に止まるまであとどれくらいか確認したり、ただただじっと我慢したり。」
「トイレだったら我慢せずに行ってこいよ。」
「行って来ました。」
「早っ。」
「いやぁ、スッキリサッパリツヤツヤスベスベ。」
「シャワーまで浴びてきたのか?」
「残念。入浴もしました。」
「烏も真っ青の行水っぷり。」
「ふふふ。果たして本当にそうかな?」
「そうだろ。めちゃくちゃ早かったし。」
「キミが、トイレだったら我慢せずに、の台詞を言ってから、私が次の台詞を言うまでの間に、どれくらいの時間が経過していたかご存じか?」
「一瞬だろ?次の台詞なんだから。」
「8時間経過してました。」
「長っ。」
「其れだけ時間があれば、トイレに行って入浴するくらい余裕なんだよ。ついでにおやつも食べてワイドショーまで観ちゃったんだよ。」
「そんなに時間が経過した気がしないんだが。」
「そりゃそうなんだよ。ここは異郷の地なんだから。」
「いつの間に?」
「ここは、時間の流れを自在に変えられる地。この地の時間の流れは、流れを変えたいと思う者の意思に従ってその速さを変える。」
「思うだけで変えられるのか?」
「思うだけで変えられるんだよ。」
「思う奴が複数いたら?」
「………。」
「いや、だって、普通に考えたらそういう疑問にぶつかるだろ?」
「お答えしましょう。」
「答えてくれ。」
「時間の流れを変えたいと思う者が複数いた場合。その場合は、最も変えたい意思の強い者の意思が優先されるんだよ。」
「どうやって比較するんだ?意思の強さって。」
「……………。」
「いや、だって、普通に考えたらそういう疑問にぶつかるだろ?」
「お答えしましょう。」
「答えてくれ。」
「この異郷の地、の、隣の異郷の地、が、見えない力を数値化出来る地、となってるから、そこで計測するんたよ。」
「わざわざ隣の異郷の地まで行くのか?」
「その通り。時間の流れを変えたいなー、と思ったら、まずそこに向かい、自分の意思の強さを数値化して、それを村役場に申告する。」
「申告制なの?」
「3つほど部署をたらい回しにされる。」
「それは決まり事なの?」
「三日ほど経過すると受理されたかどうかの連絡が入るから、それを確認したら、改めて意思を持つんだよ。強く持つんだよ。じゃないとキャンセル料取られるから。」
「いろいろとツッコミたいことはあるが…、時間の流れを変えたいときは三日くらい前から準備しなきゃならないのか?」
「勿論。」
「お前は準備してたのか?」
「勿論。」
「この日、このタイミングを予測して?」
「勿論。」
「予知能力でも持ってるのか?」
「これは私の力じゃないんだよ。これは、この異郷の地の向かいにある、数日先の出来事を予知できる異郷の地、に行っていたからなんだよ。」
「特殊な異郷の地どんだけあるんだよ。」
「自分が知らない場所は全部特殊な異郷の地なんだよ。」
「じゃあ、一度行ったら普通の異郷の地になるんだな。」
「その場合は、この異郷の地の真裏にある、記憶をリセットする異郷の地に行くことで」
「もういいよ。」
故郷ではない場所は全部異郷になるのかな。