始まりの奇跡
奇跡というものは
滅多に起こらないようで実は
そこら中に転がっているのかもしれない。
寝坊した訳では無い。
いつも通り家を出ていつも通りの道を歩いて来た。
ただたまにある、ずっと赤信号に
引っかかり続ける日のように、
今日は何かしら妙に足止めをされる日だった。
ふと時計を見ると、乗らなければいけない電車は
あと二分後に発車だ。
急げばまだ間に合う、そう思い僕は走り出した。
発車まで約30秒。
ホームの階段に差し掛かった時だった。
焦ってもつれた足が階段を大きく踏み外す。
悪いことというのは
どうしてこうも重なるのだろうか。
「あぁ、電車間に合わないなぁ」と
妙に冷静な頭で僕は次に訪れるであろう痛みを
待ち構えていた…………はずだった。
もふっ。
「……あれ?痛……くない?」
確かに僕は今しがた階段を踏み外したはずだ。
それになんだ?
このもふもふした触感は……
ずっと触っていたい……
もふもふ……
「おっもーーーーーーーい!
ちょっと!あなた殺す気ですか?!
せっかく命を救ってあげたのに!」
と、声が聞こえてきた。
僕はその声がする方向に目を向ける。
すると、僕の真下にはもふもふの……
もふもふの……これはなんだ??
モンスター??
もふもふの……何かがいた。
「あっ、ごめん。」
つい反射でその物体に謝り、僕は立ち上がった。
「あ、ありがとう…?君…はえっと命を救ってくれたということは……天使……とかなのかな?」
何だかもふもふで、ふわふわだし……。
人の形してないけど……
「悪魔です。」
「やっぱそうだよね……って……えっ?!
あ、悪魔って言った?」
「そうです。」
「え?じゃ、なんで僕の命を……?」
「そもそも、悪魔が、みんな命を奪いに来るものだと思ってるなら、大間違いです!」
「…………その…あなたが階段を踏み外したのは、
私のせいなので、せめて命は助けなきゃと思って……」
「よく分からないけど、君は優しいんだね……」
自分は悪魔だと言い張る、
そのもふもふの優しい悪魔と出会った奇跡が、
僕の未来にどんな影響を与えるかは
この時の僕はまだ露ほども知らなかった。
これは、僕の身に巻き起こる
数多の奇跡の最初のお話。