第89話 リーダーやらせてください
神官が帰っていったそのあと。
今後についての話し合いが始まった。
サナのおかげでどこを
調査すべきかの目星はついた。
次はいよいよ現地に行って調査に
乗り出す段階に移行する、の、だが……。
「そういえば私たちって
いつ退院できるのかしら?」
話し合いの最中に、
アリアの至極真っ当な疑問が飛び込んだ。
……そういやそうだな。
退院しないことには調査もクソもない。
入り口側に立っていたメアリを振り返る。
「で、どうなの?」
俺の質問にメアリは静か答える。
「アリア様は明日にでも
退院許可を出すことは可能でございます。」
「!やっと入院生活から
解放されるのね!やった!」
と、アリアは嬉しそうに喜んでいた。
……変わったやつだなぁ。
こんな高級ホテルみたいな素晴らしい部屋から
追い出されるというのに喜ぶとは……。
庶民には到底理解できない感情である。
続いてメアリは俺に向き直る。
「タケシ様はあと1週間の治療が必要ですね」
「!!!!やったーー!!!
まだここで暮らせるのか!!!!」
あははは。
そんな俺たちを、
「二人ともめちゃくちゃ対照的だね」と
オリビアとサナに笑われたのだった。
✳︎
さて。
となると、俺を除いた三人は
明日からさっそく動けるようになるわけだ。
「どうする?明日から
私たちだけで調査始めちゃう?」
アリアはヒョコっと俺を見て問いかける。
俺は断固とした様子で首を横に振った。
「ダメだ。
お前らだけじゃ何か想定外のトラブルが
起きた時に対応できない。
リーダーたるこの俺がいない状態で
動くのは絶対にゆるさん」
「……本心は?」
「ぜっっっったいダメだ!!!
俺がいない時にお前らが手柄をたてたら
俺の功績がなくなっちまうだろうが!!!!」
苦笑いとともにアリアは続ける。
「わかった。
じゃあ1週間は待機ってことにしましょう。」
「それでよろしく」
(わたしもそれで大丈夫)
「わ、わたしもです!」
そんなアリアとの押し問答の傍ら、
オリビアがふと思い出したように言った。
(そういえば、私たちって
みんな正式に教会所属の冒険者になった、
ってことでいいんだよね?)
「そうだと思うわよ?」
そしてアリアは少し不満げにこう続ける。
「……ついさっき、どこかの誰かが
私たちの了承も得ずに
勝手に承諾しちゃったからね。」
俺が全員の総意だーみたいなノリで
神官にペラペラ喋ってしまったけど、
一つもこいつらから同意を得てなかったな。
至極かるーい感じで二人に謝っておく。
「あー、すまんすまん。さっきはなんか
ノリと勢いで色々決めてしまったわー」
ははは悪りー悪りー、と軽いノリで笑いかけるが、
二人の表情はどうにも不満げだった。
俺は表情を改め、オリビアとアリアに向き直る。
キリッとしたキメ顔でピシリと問いかける。
「改めて問おう。
教会所属の冒険者になる意思、
お前らにはあるか?」
「…… 」
ついさっき、どこかで聞いたようなセリフが
今度は俺の口から発せられた。
アリアとオリビアはその問いかけに
眉を寄せて不満全開に答えた。
「ここまで進んだ話を今更覆すなんて
できると思ってるのかしら、この人は」
(あそこまで大見得切ったあとに
断るとか絶対無理だよね。)
「うん。もう教会所属になるしか無いと思う」
(うん。もうどうしようもないよ)
あ、あれ!?
「…………す、すみませんでした」
お、思いの外に不満げな様子が帰ってきた……!?
俺は素直に頭を下げて謝罪する!
「お、お、お前らそんなに
教会所属になるの嫌だったの……?!」
も、もしも教会所属になるのが
マジで嫌なら、今からでも
追いかけたほうがいいかもしれない……!!
……と、この後のことを
一気に考え込む俺だったのだが……。
「教会所属になることは別に構わないけど、
タケシ一人で色々決めるのは嫌かな」
(右に同じ)
あっ……不満に感じるのはそこなのか。
それは確かにごもっともな話だ。
反論のしようがない。
全面的に非を認めて、
誠心誠意謝ることにした。
「あ、はい…すみません…おっしゃる通りっす。
今度からはしっかり話し合って
決めるようにします……。」
「うん」(うん)
✳︎
仲間との団結を改めて深めたところで
オリビアが続けてポツリと呟いた。
(私たちってパーティになった、
ってことでいいんだよね?)
なんだその聞くまでもない質問は。
俺は堂々と、胸を張ってその質問に答える。
「おう。俺たちはパーティだ。
俺はお前らのことを家族だと思ってるぞ?」
「……タケシがそのセリフを
言うと胡散臭さ半端ないわね」
「サナに至っては俺の娘のように思ってるぜ」
(胡散臭い通り越して
もはや犯罪だねそれは)
「……」
……よくもまぁ、人を蔑む言葉が
ポンポンと出せるものである。
こいつらの性根は根元の先っちょが
腐っているのではなかろうか……?
だがまぁ、しかし。
こうやってはっきりと事実を言葉にするのは
とても大事なことだと思う。
俺は全員を見回して改めて宣言した。
「改めて言うぞ。
ここにいる全員が俺のパーティだ。
これから先、苦楽をともにする家族以上の家族だと
俺は思っている……!!
これから色々大変なこともあるだろうが、
みんなでいっぱい成果を出して、
がんばって王都で立身出世めざそうぜ!!!!!」
「目指せ立身出世!!
それいけタケシ軍団!!えいえいおー!」
ジーーーー……ンンンン!!!!
き、きまった……!
俺の名演説に観客の視界は
涙でぼやけていることだろう!
サナからは「おー!」と
元気な返事が聞こえてきた!
……が、他二人からは何も聞こえてこない。
なんとも言えない様子で佇んでいるのが目に見えた。
(さっきから気になってたんだけどさ)
「ん?」
(タケシってリーダーなの?)
「ん?」
……何を言ってるのだこいつは。
「俺がリーダーじゃなかったら、
一体誰がリーダーだというんだ………?」
逆に聞きたいけど、
俺以上にリーダーに相応しいやつが
この世界のどこにいる…?
生まれながらにして
人の上に立つべく生まれた俺が、
リーダーにならないわけがなくないか…?
「タケシって
ところどころでリーダー面するわよね。」
「リーダー面じゃない。生粋のリーダーだ。」
どうにも不満げな二人である。
一体何が不満なのかまるでわからん。
(……まぁ、この話を振った私が
言うのもなんだけど、
タケシがリーダーってことに異論はないかな)
「やっとわかってくれたか、このカリスマ性を。
リーダーとしてなるべくしてなったこの迸るDNAを」
(うん。何言ってるかわからないけど、
タケシがリーダーってことでいいよ)
一言多いが、異論はなさそうだ。
「私も異論ないわよ?
問題が起きたら全部リーダーが背負ってくれる、
ってことだからね。任せたわよリーダー」
アリアもなんやかんや言ってるが、
異論なさそうだ。
サナは聞くまでもなく異論はないだろう。
「ということで決まりだな。」
場の空気を変えるべく、
俺はもう一度、高々に宣言する!
「これからも頑張っていくぞー!
それいけタケシ軍団!えいえいおー!」
再び団結の掛け声をあげる!
が、しかし。
「ださい」
(ださいよね)
「え?」
「なにそのタケシ軍団って」
(なにそのエイエイオーって掛け声)
「こ、これは一致団結の掛け声で……」
「わたしそんなダサいセリフ言いたくない」
(わたしも)
「……」
これが16歳女子、ってやつなのかな…。
思春期女子を娘にもつ父親の気持ちを
少しだけ味わった俺は、
小さく小さく「みんななかよくがんばろー…おー…」
と言った。
サナだけは元気よく応えてくれたのが、
唯一の救いだった……。




