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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第6章 はじめての冒険者らいふ!
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第88話 平気で詐欺まがいのことをするクズです


「調査範囲はとてもとても広大です。

おまけに納期は短く、しかし私たちは

未だ入院の身で動けません。」


「なので、何人か人を貸して欲しいのです」


被害者ヅラしたことで得られたイニシアチブ。

この俺がこのビッグチャンスを

活かさないわけがない。


「ご協力いただくことはできないでしょうか?」


そして俺は動き出す。


この調査における最大の難所。

"最も面倒ごとになりかねない問題"を、

こいつらに押し付けるべく、

ペラをペラペラに、プロペラばりに回し出す。


「お願いいたします。」


そう言って俺は真っ直ぐ頭を下げた。


口では願いを請うように問いかけているが、

神官の答えは聞くまでもなくわかっている。


神官は元気よく俺の懇願に応じてくれる。


「もちろん協力させてくれ!

今回に関しては協力は惜しまないつもりだよ。

どんな要件で人が必要なんだい?」


俺たちに負い目を感じているこの神官が、

謙虚の塊たるこの俺の申し出を

断るはずがなかった。


内容も聞かずに迂闊に同意する神官に、

内心ほくそ笑みながら、

俺はコクリとクソ真面目に頷く。


そして素知らぬ顔で本題の話を切り込んだ。


「ありがとうございます。

それがですね…」



・・


そしてその傍ら。

神官と話をするその一方で、

俺はこっそりとサナに目で合図を送る。


(そこの地図を元の普通の地図に戻してくれ)


頭の中に文章を思い浮かべながら、

サナをチラチラとチラ見した。


それからすぐに、パチリとサナと目線が合う。


交差する視線。

サナは不思議そうに首を傾けている。


普通の人間相手なら、

アイコンタクトだけじゃ意図は伝わらない。

だが、ことサナに限っては事情は変わるのだ。


サナが気づいたのを見て、

俺はもう一度、頭に言葉を思い浮かべる。

明確に、そして具体的に指示を言語化させる。


(神官に俺たちが見つけた情報を知られたく無い。

そこの地図を元の普通の地図に戻してくれ。)


声にならない思考の言葉。


本来なら伝わりようの無いその思考だが、

読心術を使えるサナならば話は変わる。


俺が何かを伝えようとしてると気づけば

すぐに読心術で心を読んでくれるはず……!!


「!」


サナはハッとした表情でコクリと頷くと、

トトトと地図に駆け寄って、

四角い装置のボタンをポチりと押した。


それから俺を見て、

もう一度しっかりとサナが頷いたのが見て取れた。


うむ。地図の方は大丈夫そうだな。


(ほんとサナちゃんは

よく気の利くいい子やデェ…。)


まさしく以心伝心。

俺の意図は無事伝わったようである。


これで地図をタッチしても何も起こらない。

神官に正体不明の何者かが動く軌跡が

伝わってしまうことはまずないだろう。


俺は安心して、神官に次なる交渉を持ちかけた。



「神官様。この地図をご覧ください。」



ぱっと見はシールがたくさん貼られただけの、

なんの変哲も無い地図を神官に紹介する。


神官は少し驚いたように

その大きな地図を見上げていた。



「おぉ…す、すごい。

これ全部日照りが起きてる地域かい?

よくあれだけの資料をまとめたね!」


「ええ、まぁ。

人手はそれなりに居ましたからね。」



しげしげと地図を触る神官に、

俺は話を続けた。


「この地図は、嘆願書の内容をまとめたものです。

シールを貼ったことでいくつか

調査したいポイントが見つかりました。」


「うんうん」


「神官様にお願いしたいのは、

我々の手の余ったポイントの一部を

他の人にも調査してもらうように手配して

いただきたいのです」


「なるほど。了解したよ。

それじゃあどこを調査したらいいかな?」


全く疑問を挟まない神官。

俺は地図のポイントのいくつかを指差した。


「ここと、こことここ……。

あとは、ここですね」


「えっ。ここでいいのかい??」


「はい。もちろんです」


俺の指差したポイントを見て、

神官は少し驚いた様子で声をあげた。



「こんなに近い場所の調査でいいのかい??」



そう、俺が指差したポイントは、

王都のすぐ近くのポイントだったのだ。


神官は俺の脚を見ながら話を続ける。


「てっきり、脚の怪我のせいで遠出ができないから、

遠方の調査を頼まれると思っていたよ」


「ははは」


今の俺は車椅子がなきゃ歩けない状態だ。

神官がそう思うのも自然なことだろう。


「正直なところとしては、

遠方に行っていただきたいところではあります。


ですが、一番大変そうなポイントの調査を、

人様頼みにしてしまうのは私の良心が許しません。」


キリッとした顔で神官の顔をジッと見る。


「遠方の国境付近は治安が悪いし、

長旅になるでしょう。


そんな"面倒な場所"に行ってくれだなんて

お願いは私にはできませんよ」


キメ顔真面目フェイスで、

いけしゃあしゃあと俺は答えた。


神官はそんな俺に感慨深そうに

何度も頷きながら、こう言った。


「さすがはタケシくんだね。

君の意識の高さと責任感の強さは、

心の底から尊敬するよ」


「いえ、そんな」


謙虚オブ謙虚の俺は静かに畏る。

……しかし、身内からの視線は辛辣だ。


先程からオリビアの視線が痛い。

"よくもまぁそんなことが言えたなぁ…"と

言わんばかりの視線が、オリビアの方から

さっきからずーっと飛んできている。


その理由は言わずもがな。


この調査における最大のリスク。

それは、日照りなんていうトンデモ現象を

引き起こせる何者かと遭遇してしまうかも

しれないことである。


王都全域にわたって

とんでもない迷惑行為を行う謎の存在。

こんなことを平然としてしまう奴が

まともな訳がない。

極力関わり合いたくないのが当たり前の思考である。


では、この謎の日照りの原因と

エンカウントする可能性が最も高い場所はどこだろう?


そんなものは日照りの軌道を

見れば一目瞭然だ。


正体不明の何者かはまっすぐに王都に向かっている。


この謎の何かは、確実に王都の近くにいる。

今最も危険なのは王都のすぐ近所なのである。



✳︎



神官は無事俺の願い通りに、

王都に最も近く、

そしてもっとも危険な場所の調査を了承してくれた。


【じーーー……】


……オリビアの冷たい視線が俺の右頬に突き刺さる。


【じーーーー……】


……アぁ?なんだその目は!?

文句あるなら今ここで言えばいいのだ!

ここで俺を止めないお前もすでに同罪だからな?!


と、オリビアに目線で訴えてから、

俺は再び神官と向き直る。


神官は、俺の謙虚な有様に

しきりに感心している様子である。


……さて、無事に俺の思惑通りに、

一番めんどくさそーーーな

ポイントの調査をお願いすることができたわけだが、


これで後から、俺の知らない誰かが

そのポイントに調査しに行って、

日照りの原因に殺されたーだとか、

そんな問題に発展したら、あまりに気分が悪い。


なので念のためにいくつか保険も打っておく。


「日照りの正体はわかりません。

ですが、もしも意図的に行っている何者かがいるなら

相当な実力者だと思います。


協力していただく人は

ベテランの方にしておいた方が

いいかもしれません」


アリアが前に言っていた言葉をそのまま借りて、

俺は神官に保険を打つ。


「そうだね。

地図を見るとかなり範囲が広そうだし、

もしも意図してやってるなら相当な手練れだろう。

人選は慎重に行うよ。」


「ありがとうございます。」


よし。これで大丈夫だろう。

ひとまず最大の目的は達せられたな。


そして更なるもう一つの目的を達成するべく、

俺は神官に頭を下げる。



「……すみません…。」


「?どうして謝るんだい?」


「……褒められた後にこんなことを言うのは大変

恐縮なのですが、もう一つお願いがありまして…」


「なんだい?」



"最大の目的"はたった今達せられた。

次はおまけに色々要求しておこう。


背中からオリビアの

ジトーっとした目線を感じながら、

俺はさらなる要求を続ける。


「怪我が治ったら、私たちも

調査に行くつもりなのです。


ですが、何分病み上がりでしょうから

できれば、腕の立つ回復術師様を

つけてもらえるとありがたいなー……なんて」


それに対する返答は………

言うまでもなくOKであった。




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