第8話 波瀾の幕開け #1
若い神官さん(女)が
助教とのこともあったので必死に説得してます。
(第6部分 ※神官ライラの視点を参照)
ちなみにこの人女なんですが、
タケシはアホで思い込み強いので、ずっと男だと思い込んでいますね
「少しだけ、私の話を聞いてはもらえないだろうか?」
白いひげの神官の次は、若い神官の登場である。
聞くだけ無駄だと思うがね。
俺の意思はもう固まったぞ?
巌のごとく硬い決意とは言わないが、木工ボンドくらいには固まってる。
まぁ話したいなら聞くけれども。
…と、いう本音は置いておいて、
俺は本音と建前トークで神官に向き合う。
「えぇ、もちろんです。お話をお聞かせください」
ありがとう、と一つ頷くと、若い神官は語り出す。
「アリシエル様の言う通り、
王国が戦闘経験のない平民も含めて
大量の兵士を雇用したのは本当のことだ。
戦地に農民を兵士として送った話も全て事実。
西国の捕虜の話も含めて全てね。」
や、やっぱり…!
適当に雇った後にこいつら俺を使い潰す気だったんだ!
父さん都会はこわいところです!
「けど厳密には、それを行なったのは
我々ではなく騎士団の派閥なんだ。
アリシエル様がお話した事について、
我々は一切関与していないんだよ」
派閥とか知るかよ!王国は王国やろがい!
あたし実家に帰らせてもらいますから!
「いいかいタケシくん。
この国は4つの勢力でなりたっているんだ。
「王族」「騎士団」「教会」とそれから…」
「冒険者ギルドよ!」
アリアの横槍がはいる。
「そう、冒険者ギルドだ。
騎士団の派閥は軍事的な国と国とのいざこざを解決するための活動を行うのに対して、
私たち教会は、王国の民の生活を維持するための慈善的な活動を行なっているんだ。
だから、教会に所属する限りは、
さっきの話に出てきたような軍事に
関わることは早々起きない。そこは安心してほしい。」
む……。そうなのか。
それなら安心かもしれない。
貴族女の横槍(2回目)
「ちなみに、騎士団と教会が国営に対して、
冒険者ギルドは民間の組織ね!
冒険者ギルドの仕事内容としては、
教会がやることも騎士団がやることも、依頼されればなんでもやる感じ!」
うん
貴族女の横槍(3回目)
「ついでにいえば、冒険者ギルドは民間だから、教会とか騎士団とかそういう縛りは一切ないの!
大きな権力に依存せず、独立した存在であろうとするのが、冒険者ギルドの理念なの!」
うん
貴族女の横槍(4回目)
「さらに補足させて貰えば、
各国にある全ての冒険者ギルドは横で繋がっていて、
冒険者ギルドはいわば世界規模の超巨大なコミュニティとも言えるのよね!
だから規模は王国や騎士団なんかよりもずっと大きいし、色々融通もきいて便利なの!」
うん
貴族女の横槍(5回目)
「ね?冒険者ギルドに入りたくなったでしょ??」
うん…うん…うん…
あ、おはなしもう終わったかな。
ちょっとだけ、お話がながかったね、アリア様。
それからね、わかってないようだから言うけれど、
実は今は教会の話をしてるんだよね。
冒険者ギルドの話はこれっぽっちもしてないの。
だからちょっと黙っててもらえるかな?
……という諸々の気持ちを表情に込めて、
俺は貴族女にアルカイックスマイルな
ひとつまみの愛想笑いで受け流す。
ホトケのタケシと言われた俺も、
これにはさすがに呆れ気味である。
「あと、冒険者ギルドは世界中でつながってるから、
もしもすごい活躍をすれば、世界的に
あっという間に有名になれるのよね!
それはもうモテモテよ!」
…………………え?まじで?
ホトケのタケシと呼ばれた俺でも
それは看過できない。くわしく
「……あー、ごほん。会話が逸れ出してるね。
教会の話に戻していいかな?」
どちらかというとモテる話の方が……
あ、いえすみません。どうぞ続けてください。
「とにかく、教会は民の生活を維持するための活動をしているんだ。
仕事の内容としては、
冒険者がやってることと同じ物を想像してもらっていいよ」
仕事は冒険者と変わらないのか。
それならモテる可能性がわんちゃんある冒険者ギルドのほうが…。
神官は、俺の心が冒険者ギルドに傾いているのを察してか、
少し強めの語気で言葉を紡ぐ。
「仕事の内容は似たようなものだけれど、
冒険者ギルドの冒険者としてやっていくのと、
教会の冒険者として仕事をすることでは、
大きく違うところが一点あるんだ。
それは「命の保証」があるかないかという点だ」
命の保証??
「そうですよね、アリシエル様」
若い神官はアリアに話題を振る。
「ん?……そうね。
それついては全くもってその通りだと思う」
珍しくアリアが余計な口を挟まない。
本当にその通りということだろう。
ていうか命の保証ってどういうことだ?
「すみません。命の保証というのは具体的にどういうことで…?」
「そうだね…。
それを説明する前にまずは冒険者の死亡率について触れようか。
アリシエル様、冒険者の月の死亡率はご存知ですか?」
「月に200人は死んでるわね!」
200人!?
「そ、それはいくらなんでも死にすぎなんじゃ」
国滅ぶやろそんなん…。
「いや、アリシエル様のいう通りだよ。
王国の冒険者ギルドでは実際にこれだけの数の人が死んでいる。
まぁ、死亡者のうち王国民に限定したらもう少しすくないだろうけどね。」
し、死にすぎだろ……
「これだけの人が死ぬ理由は至極単純で、
冒険者の多くはしっかりした回復手段を
持ち合わせていないからなんだ。
回復薬は高価だし、治癒魔法を使える者は多くない。
死亡した冒険者の大半は、治療が遅れたことや、後遺症が原因で死んでいるんだよ。
……ですよね?アリシエル様」
「……概ね異論はないわ。」
若神官は再びアリアに会話を振る。
それをアリアは渋々な様子で同意した。
……あぁ、そうか。
さっきからやたらアリアに話題を振ってるなー、と思っていたけれど、
この人わざとやってるのか。
あえて自分から話題を振ることで、アリアの横入りを妨害している。
しかも振る話題は答えづらそうな話題ばかり。
確実に故意にやってるのだろう。
この神官、結構やりおるわ。
「ただこれだけは、一応冒険者の名誉のために言わせてほしいわ」
アリアは静かに反論する。
「冒険者は回復手段の準備を怠なるなんて愚かな真似は絶対にしない。
冒険者イコール無鉄砲な命知らずを
イメージしがちだけど、そんなことは全くないの。
冒険者なら品質が低くても必ず回復薬は
複数用意するし、しっかり安全マージンを取って活動してる。」
苦虫を噛み潰したように、アリアは続ける。
「……冒険者はしっかり準備してるの。
それでも死ぬ、それが冒険者なの」
アリンコのごとき小さな人間が
どれだけ必死に対策を練ろうとも、
それでも死んでしまうのが冒険者の世界なのだろう。
切々と語るアリアの真剣な表情を見て
俺はようやく、心の底から決意した。
父さん、俺きめたよ。
優柔不断な俺だけど、今回だけは心が決まった。
俺やっぱ冒険者なるのやめるわ。
教会所属の冒険者もやめる。
王国直属の官吏なんて俺には夢がでかすぎたんだ。
農家で平和にほのぼの過ごすって今決めた。みんなありがとう。
「でも…そうね、そういう意味では
教会所属の冒険者はすごく安心ね。
復薬がたくさんもらえるんだもの」
……ほう?
「僕もそう思う。我々教会は戦闘力こそ少ないが
治癒にかけては大陸一の技術があるんだ。
当然、教会所属の冒険者はその恩恵を受けられる。
最高品質のポーションに、最高レベルの治癒魔法師を連れて冒険に出ることが可能なんだよ」
ほうほう!!!!
「君は農民の出だったよね?
厳しいことを言うようだけど、農民必須のスキルもないんじゃ、
これから先は冒険者としてやっていくしかないと思う。」
言葉を一つ一つ区切って、
神官は丁寧に丁寧に俺に語りかける。
「でも今なら、特別に、
普通なら毎月200人が死ぬ職場を、
命綱付きで、しかも安全帽と言う名の
治癒術師も付きで、冒険に出られるんだよ?
これほど恵まれた環境はないと思うんだ。」
ほうほうほうほうほう!!!
いや、これもう決まりでしょ?!
優柔不断すぎて自分が情けないが、これはさすがに決まりだろう!
神官の言葉にはもはや納得する所しかないんだが!
「たしかに教会所属は安定するけど……
でも賃金は多分タケシが思ってる以上に安いわよ?
まぁ衣食住が無償なだけマシかもしれないけど」
安いの?…安いのかぁ。
安いのはちょっt「ま、まったタケシ君!」
うおっ!?きゅ、急な横入りである!
神官があわてた様子で俺の両肩を掴んだ!
「よーしよし!君はほんとーーーに優柔不断な男の子だね!
ちょーーっとだけこっちに来てもらえるかな?!」
あっちにふらふらー
こっちにふらふらーしている俺を、
神官は肩を掴んだままグイグイと部屋の端に連れて行く。
「……タ、タケシ君?君今自分がどういう状況に置かれてるかわかってるかな!?」
「へ?」
どうした急にあわてて。
よくわからんので素直に思ったことを述べる。
「両手に華、みたいな気分ですかね?
冒険者も教会所属もどちらも選べるーみたいな」
「いやいや違うから!
さっきの大司教様の反応きづいてないの??」
きづいてないぜ
「君は今とても……いや、一触即発のめちゃくちゃ危険な状況にあるんだ。
スキル授与式での我々の会話を覚えてるかい?」
「あぁ、
『もしかしたらこの者は第二の勇者かもしれない!いや、そうに違いない!神の子再誕だー!うわー!』
って言ってたことですかね?」
「ちがうよ!真顔で凄い嘘つくねきみ!
『もしかしたら、この者が魔王になり
神すらも脅かす存在になることもあるかもしれません』
って言ったことだよ」
「あぁ、そっち…」
「……あのね?
単刀直入にいわなきゃ
伝わらなそうだから、はっきり言うけれど」
若い神官は一呼吸置いてとんでもないことを言い出した。
「もしも君が僕らの申し出を断ったら……
その瞬間、君殺されるよ?」
「……はい?」