第82話 地道な調査 #1
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次の日の朝。
アリア、オリビア、サナの一同が
改めて部屋に集まった。
「こちらが資料になります」
「おう。ありがとう」
昨日メアリに頼んでいた資料を受け取る。
ささっと読んでちゃちゃっと行動に
移したいところ……なのだが、
(わっ。分厚い)
その資料の量が想定外に半端なかった。
厚さが10センチくらいはある。
気軽に読むのは明らかに不可能な量だ。
【ドサッ】
どさりと俺のベットの上に置かれたそれを、
俺は目を白黒させながら見つめた。
「か、関連する資料とりあえず全部
詰め込みましたーって感じだな…」
ざ、雑だなー……。
これ絶対要らないやつとかも混ざってるだろ。
「はぁ…」
これぞまさしくお役所仕事…。
読む側の気持ちを一切
考えない仕事っぷりである…。
ため息をついてから
俺は顔を上げて全員を振り返る。
「……めんどくさいけど手分けして読もうか」
「うん」「はい!」(ん)
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それから俺の病室にて作業がはじまった。
ベットを囲うように椅子を並べ、
黙々と分類分けしながら資料を読み漁る。
「こっちは水魔法使いの要請で、
こっちは今年の税の削減要請の嘆願書ね」
「ほいほい、と」
要望内容やら地域やらで分類していく。
資料の大半は、農民からの嘆願書だ。
内容は今年の長期にわたる日照りの被害に
関するものがほとんどだった。
どの嘆願書にも、
日照りで今年の収穫が厳しいことが
切々と記されている。
「かなり範囲が広いですね…」
サナには地域ごとに書類を分けと、
どこから嘆願書が届いているか
地図にシールを貼ってもらっていた。
「うわっ。めっちゃくちゃ広いな…」
サナの作った地図を覗き込む。
思いのほかポイントがかなり散在しているようだ。
「王国の領土全体で起きてるみたいだな」
「ですねー…」
満遍なく広がる分布。
それを見て思わずため息が漏れてしまう。
こうやってシールを貼って地図で見れば
何か傾向が見えるかと思ったが、
この感じだとあんまり
期待できないかもしれんなぁ…。
ヒョコッとオリビアも俺の隣から覗き込む。
(調査って、このポイント全部
調査しないといけないのかな……?)
「……」
そんなもん絶対無理だよなぁ。
【はぁ…。】
四人のため息が自然とシンクロした。
✳︎
「自然現象の可能性が
高いんじゃないですか?」
サナは地図を見ながらそう言った。
「そうかもしれない。
…けど、そうじゃないかもしれない…。」
我ながらフワッとしたこと言ってるなー、と思う。
「……個人的な印象としては、
人為的な現象に一票いれたいとこなんだがなぁ」
実際に日照り被害を受けた農民の一人としては、
この日照りが自然現象とはどうしても思えないのだ。
今年の日照りは期間が尋常じゃないほど長く、
また、気温も前例にないほど暑い。
もう秋の季節だというのに、
半袖を着ないと暑くてやってられないくらいの
異常な暑さだ。
(わたしも普通の自然現象ではないと思う…。
まぁ、農村育ちの勘だけど)
オリビアも俺と同じ意見のようだ。
少なくとも、農民的には過去に前例がないのは
間違いないことなのだろう。
……だが、断言ができない。
「人為的な現象だ!」と言い切れるだけの
根拠が見当たらない。
断言したくても仕切れない、
そんな気持ちが俺に曖昧な発言をさせてしまう。
「あれ?そういえば…」
そんな折、ふと随分前に
アリアとした会話を思い出した。
「そういえば前にアリア言ってたよな。」
「ん?」
「日照りが発生してる地域は
綺麗に円状になってるー
みたいなこと。」
「あー、言ったわね」
あれはそう、
確かアリアと初めて会った時の会話だ。
地域的な特徴があったとかなんとか当時は言っていたはず。
アリアはサナの隣に座り込むと、
シールを何枚か手に取った。
「私の元実家の
領地の人たちから聞いた話だとー…」
アリアが別のシールをペタペタと貼っていく。
「ここと、ここ。
あと、ここと、それから……って感じね。」
赤いシールをペタペタと貼っていく。
たしかに貼られたシールは、
綺麗な円状に分布していた。
「なるほどー」
サナがその中心部にポンと人形を置いた。
この前アリア達に買ってもらったお菓子の
おまけの人形だろう。
「確かに、円状ですね。
ここの中心に何かあるんでしょうか?」
真ん中に置いた人形をチョンチョンしながら、
サナは話した。
「そんな気がしてくるわよね。
……でも、これだけのポイントの数をみてると、
偶々この時はこう見えた
だけなのかもしれないわね…」
うーん……と押し黙るサナとアリア。
「……」
「……」
………沈黙が重い。
どうしようもない手詰まり感が場を支配する。
(この停滞感はよろしくないな……)
……空気を入れ替えた方が良さそうだ。
ちょっと話題の方向を変えよう。
「この中心地はここからどれくらいの距離なんだ?」
「ドラゴン超特急で2時間くらいね。」
なんとも不穏な名前のする馬車だな…。
しかしまぁ、2時間程度なら、
今から行ってみてもいいかもしれない。
「その辺りって魔物とか出たりすんの?」
「出ないわよ?
特に最近はさっぱり出ないみたい。」
特に最近は…?
引っかかる言い方だが、
脱線しそうなので、とりあえずスルーしておく。
停滞感をなんとか払拭するべく、
俺は新たな提案をした。
「それじゃあ分担しようぜ。
その怪しい場所を調査する組と、
書類の整理と分析をする組に別れよう。」
俺は右手を上げながらみんなを見渡す。
「フィールドワークしたいやつは手あげてくれ」
はい!と手をあげるアリア。
他二人はふるふると首を振っていた。
「わかった。それじゃあ、
俺とアリアは試しに怪しいポイントに行ってみる。
サナとオリビアは、書類の整理よろしく」
「わかりました!」
(うん)
そして俺は車椅子を動かして
部屋から出ようと……したところで、
メアリが目の前に立ちはだかった。
「タケシ様もアリア様も入院中です。
特例でない限り外出は許されません」
……そういや俺たち入院中だったな。
渋々と、俺とアリアは定位置に戻ったのだった…。




