第79話 神に選ばれた男の話
「俺ことタケシは神に直接出会い、
そして神から恩恵を授かった。
そんな話を聞けば、誰だって
俺に畏怖と尊敬の念を抱くだろう。」
「この事実が公に出れば、
英雄の再誕だ!なんて騒ぎ立てるバカも
かならず出てくるはずだ。
なんせ神様から直接力を授かった男だからな。
これは驕りでもなんでもない。
そう思わせるだけのネームバリューが
今の俺にはある。」
「よ!英雄タケシ!さすタケ!」
「さすタケです!さすタケ!」
「声援ありがとう」
さながら選挙演説である。
パチパチと聞こえる拍手に、
俺は片手を挙げて応援に応えた。
「だが実際のところ、
俺はなんにもすごくないんだ。
女神と直接会ったし、会話も交わした。
女神から大層すごい神剣ももらった。
だけど、俺は剣なんて
握ったことすらない平凡な農民だ。
すごい剣を貰っても一人じゃろくに扱えない。
特別なスキルを持ってるわけでもない。
魔法のセンスもひとつもない。
肩書きは立派だが、中身はひとっつもすごくない。
それが俺の英雄性。ハリボテだらけの英雄像だ。」
「ん…?」と疑問げにアリアは眉をあげて尋ねた。
「でもタケシは武人の人を
乗り移らせれば戦えるんでしょ?
しかも八柱将並みの実力で」
「……八柱将並みかどうかは置いておくとして、
たしかに、武人に俺の体を貸してやれば、
俺の実力は跳ね上がる。
だが、あれは金輪際やらない。
やらない、というかやれないんだわ。」
「えっっっっっ。どうして??」
アリアはいぶかしむように眉を片方あげる。
「入院してからようやく気づいたんだけどな…。
めちゃくちゃ大きな代償があるんだよあれ。
アリアは俺とサタケの戦い見てたんだろ?
魔人との戦いで俺が怪我した箇所を
ちょっとあげてみてくれ」
「え?えーっと…
目を失明したんだったわよね。
あと、右腕が切り落とされたのよね。」
「そうだ。そしてそれに加えてもう一つ。
脚もめちゃくちゃダメージ受けたんだよ俺。」
「えっ……?」
アリアは俺の車椅子姿を一瞥してから、
「はて?」と首を傾げた。
「アリアは戦闘を見てたからわかると思うけど、
俺が脚を攻撃されたところなんて
全く見てないだろ?」
「……見てないわね」
「俺の脚に甚大なダメージを受けたのは計2回。
それは、武人に体を貸して
攻撃を避けもらった時の2回分だ。」
「あー……」とアリアは思い出したように頷いた。
俺も同調するように頷いてから、話を続ける。
「魔人の最後っ屁を避ける時と、
サタケのクソ野郎の攻撃を避ける時の計2回。
俺は後ろに数メートル一気にジャンプしたんだ。
たったそれだけ。
それだけで俺の脚は車椅子を使わないと
いけないくらいに一気にボロボロになったんだよ。
しかも、目も腕も治ったのに、
それでもまだ治らないレベルのダメージをな」
俺は続ける。
「お前らみたいな戦闘民族からすれば、
あれくらいの動きは当たり前なのかもしれない。
でもそれ、感覚狂ってるからな?
普通にありえないんだわあんな動き。
助走も何もなく、魔法による強化もなく。
後ろに向かって数メートルを
一気に飛び下がる。いやそれもうバッタやん。
ろくに鍛えてない俺の体で、
そんな芸当できるわけがねえ。
相当な"ズル"をしない限り、絶対にできない。
だから武人はあの時ズルをしたんだよ。
俺の脚の大腿筋のリミッターを
無理矢理に外して攻撃を避けたんだ。
そしてその代償として、
俺の脚は尋常ならざるダメージを受けてしまった、
というわけだ」
……そろそろまとめよう。
俺は一呼吸置いてから、一同を見渡す。
「要するに何を言いたいかというとな?
たしかに武人に俺の体を操らせれば、
俺は絶大な実力を手にすることができる。
だが、体がその実力にまるでついていけてないんだ。
その力を使うたび、俺の体は毎回車椅子生活だ。
今回の戦いは短く済んだからよかったが、
もしも長期戦にでもなれば、多分途中で
体が限界を迎えて死ぬと思う。
だから、武人に乗り移らせて戦うのは、
ほんとのほんとに最後の手段だ。
おいそれと使える便利な技じゃねーんだ」
「さて結論だ。
仮に、アリアの言う通りに王国に対して
サタケにされたことを話したとしよう。
だがその場合は、
俺がどうやって八柱将を倒したのか、
どうやってあのクソ野郎から生き延びたのか
っていう、至極真っ当な疑問にぶち当たるわけだ。
実際、あのチビの議長もそこを聞いてきたしな。
そうなると、俺は女神に見初められた事を
話さなきゃいけなくなる。
もしも今話した事実を王国に話してみろ。
農民の手柄を大人気なくぶんどって、
八柱将を英雄として担ぎ上げようとする連中だぜ?
まず間違いなく、八柱将の次に俺を祭り上げて
ヒーローに仕立てようとするだろうよ。」
「そしたら俺は間違いなく、
この国のスーパースターだね。
なんせ、神から直接力を授かった男だからな。
この事実が知れ渡れば、俺はあっという間に
スーパースターの英雄確定ルートだ。
八柱将を英雄に仕立てあげようとするこの国のことだ。
王国も超ノリノリで俺のことを祭り上げる。
演劇の題目が作られる勢いで、
俺は英雄に仕立て上げられるぜきっと」
俺は一旦間をおいて空気を変える。
論調を転じさせる。
「……だが現実の俺は英雄足り得ない。
なぜなら、英雄たる武力がなさすぎるからだ。
何度も言うが、乗り移ってもらって、
武人の力を使おうものなら、
俺の体はあっという間に壊れちまう。
言わば、俺が手にした力は、
捨て身の馬鹿力だ。ほいほい使えるもんじゃねえ。
だが俺を英雄とみなした国民は、
そうは思わない、思おうともしない。
王国が勝手に作り上げるであろう、
"神の加護を受けた男"という空想だらけの
作られた英雄像しか、国民は見ようとしない。
自分の都合のいい理想像を押し付けて、
戦えねーつってるのに、戦いを強要する。
人は都合のいいものしか見ようとしない。
絶対に、な」
勇者が町の連中にされた事を思い出しながら、
俺は滔々と語る。
「もしも町のピンチになった時、
俺は間違いなく全力ダッシュで逃げるね。
だって戦えるだけの力が俺にはねーもん。
だが国民がそうはさせない。
なんとしても、大英雄の俺を戦わせようとする。
そしてもしも失敗した時、今度は連中は
手のひら返しでバッシングを始めるわけだ。
……そこまで確定したバットエンドの
見通しが立っていて、それでも
サタケを告発するなんてアホな真似
するわけがねえ、って話だ」
「だから俺はお前の質問にこう答える。
『タケシはそれで満足してるの?』
答えはもちろん、イエス、だ。
いままでの仮定の話では、
俺の英雄性を向こうが認知してる前提で
話をした。だが実際は全く違う。
連中はまず間違いなく、俺が何をしたかなんて
ひとつも認知してないし、これっぽっちも興味がない。
俺と女神の関係性に少しでも気づいてたら、
あいつらは絶対に俺をヒーローとして
担ぎ上げるはずだからな。
しかし実際は、
担ぎ上げるどころか手柄をぶんどり、
事情聴取すらしない。
それは、向こうがひとつも
詳しい事情を把握していない証拠だ。
いまこの状況、俺に関心がないこの
状況は本当に都合がいい。
今まで話したリスクは絶対に起こりえない上に、
その上、報奨金もたんまりだ。
好い事づくめだわ。」




