第78話 湾曲する歴史
勇者の記憶を見た限り、
こいつが魔人だったなんて事実は全くない。
事実無根もいいとこだ。
だが歴史はいつだって真実を語らない。
物語は都合よく勝者によって歪められる。
今から数百年前、
この勇者は魔人のレッテルを貼られて、
町の人々から迫害された。
そしてその時その瞬間に、こいつの歴史上での
立ち位置は決定したのだ。
"人の姿を借りて、国家転覆を企てた大罪人"
史上最悪のヒール。人心を騙した最大悪。
それこそが、この世界におけるこいつの配役。
勇者が実は魔人だったなんて大事件が、
数百年ぽっちの間に歴史から消えるわけがないのだ。
それほどに勇者の存在は、今なお
その存在を色濃く残している。
その最たる例が"勇者連盟"。
当時、魔王討伐のために各国が敷いた協力体制は、
そのまま1つの国際連盟として発展した。
この大陸における一大組織として、
発展するに至っているのだ。
その勇者が魔人と見なされた闇の歴史が、
廃れるわけがないのだ。
(これだけの事件だ。
アリアやオリビアが知ってる可能性は十分ある)
俺が知らないことから察すると、
もしかしたら俺と同じ農民の出であるオリビアは
知らないかもしれない。
だが、外交を多く務める貴族のアリアは、
知っていても全くおかしくないことだろう。
(……もしもアリア達が
勇者の事件を知っていたらどうなる…?)
歴史上の大罪人が俺に乗り移っていると、
アリア達が知ったら一体どう思うだろう?
そんなもの、心配するなと言うのが無理な話だ。
アリア達が心配しないはずがない。
だが俺としては、アリアやオリビアに
余計な心配をかけたくないのだ。
もちろん、将来的には勇者の身の上や、
こいつの目的、過去の境遇もろもろを
話してやるつもりだ。
しかし今ではない。
今ここで話して、最悪の第一印象を勇者に抱かせる
メリットがまるで見当たらない。
「……」
諸々の考えをまとめてから、
俺はアリアに返答する。
「どうやって俺がサタケを倒したのか、
って話でいいんだよな?」
コクリとアリアは頷いた。
「話せば長くなるんだがな。
神界に行った時、とある別人格が
俺の中に宿らされちゃったんだよ。」
「ふーん?」
誤魔化そう。
今後、勇者とこいつらが絡む場面も確実に
出てくるはずだ。
魔人と貶された経緯や境遇については、
勇気との親睦を深めてから話せばいい。
初っ端から最悪の第一印象を
あたえる意味がまるでない。
ここは適当に嘘をついておこう。
また今度、落ち着いた時に話そう。
だから俺はこの時"嘘"をついた。
嘘といっても、8割くらいは本当の嘘だ。
「そいつはとんでもない武人らしくてさ。
一時的にそいつに体を貸して、
戦ってもらった、ってわけよ」
ペラペラ。
ペラを回して適当に勇者のことを誤魔化した。
……しかし。
「ん?」
アリアは少し不思議そうな顔をして、
俺の顔をじっと見た。あん?どうした?
「いま、もしかして嘘ついた?」
……!?
と、とっさに俺は表情筋を固定させる!
動揺が悟られないように、
いつもの調子を装って返答した!
「え?嘘なんてついてないけど」
「あ、そう?ごめんごめん。
直感的にピンときたものがあって」
「……いや、ええよ」
し、心臓が跳ね上がったことは否めない。
え?なになに?なんでわかった?
(び、びびびびびるわ急に……な、なんだ?
もしかして心読まれてる?)
念のため、俺は頭の中に
裸体のアリアをイメージする。
それから頭の中で、
アリアの巨乳おっぱいを揉みしだく。
さながら陶芸家のようにこねくり回す。
ベロンベロンのぺろぺろに揉み回す。
そして悟られないように、さりげなーく
アリアの様子を伺った。
「?」
なに?という感じでこちらを見てくる。
……うむ。表情に変化はないな。
こんだけ卑猥な妄想を聞かされて、
表情を揺るがさないはずがない。
アリアは俺の知らない何かしらの魔法で、
俺の心は読んでいるとかいう事実はないようだ。
(アリアの勘が鋭かったってだけ…なのかな?)
……まぁいいや。
✳︎
「うん。わかった。
あの時タケシになにが起きてたのかはわかった」
アリアは一通り話を聞いて、
納得したように頷いた。
そんな中、オリビアがポツリつ呟く。
(でもタケシすごいよね。)
「おん?」
(神様に選ばれたってことだもんね。
でもすごいよ!でもすごい!)
「でもってなに?
でもって接続詞要らなくない?」
でもそう言われるのは悪い気はしない。
わりと嬉しい。
「タケツ様すごいです!さすがです!」
当事者(?)のサナも俺のことを褒めてくれる。
やべえ、気持ちよくなってきた!もっとほめてくれぇ!
「アリア。お前も
俺のこと褒めてくれてもいいんだぞ?」
「さすがタケシね!
神様に選ばれるなんてさすがだわ!」
おい!気持ちいいなうおい!
もっと褒めてくれええええ!!
「アリア、もっと褒めてもいいぞ!」
「さすがタケシ!」
「もっとくれ!!」
「さすタケ!さすタケ!」
「もっと!!!!」
「いや、もう十分じゃない?
それで話を大元に戻すけど、結局タケシは
サタケとの一件について、どう思ってるの?」
と、突然現実に引き戻される。
あれ?接待もう終了?
「タケシが魔人を倒した功績も、
サタケにされたことも、
全部お金でなかったことにされたけど、
タケシはこんな結末で良かったの?」
「……」
……ほ、本題ぶち込んできたか。
さすがに気持ちを切り替える。
今までのくだりは、全て
アリアのこの質問に答えるための準備。
俺は一度目を瞑り、気持ちを改めてから
満を持して答えた。
「単刀直入に言う。この結末でいい。」
俺は続ける。
「理由を話す前にお前らに聞きたいけどさ。
俺が神から恩恵をうけた、って話を聞いた時、
俺のことすごい人だって思ったか?」
「思いました!」
何故か当事者のサナが元気よく返事を返す。
おーヨシヨシ…サナはええこやねぇ。
「オリビアは?」
(一瞬「すごい!」って思ったけど、
タケシの顔見てたら別にすごいことじゃないのかも、
って思った。)
「え?どういうこと?」
遠回しに俺のイケメン顔を貶してるのか?お?お?
(わたし、その話を聞いた時ね?
なにか言葉にできない不思議なモヤモヤが
湧き上がったの。
でもその気持ちの正体にすぐにわかった。
例えるなら、
ブランド物の服を着飾ってるけど、
全く似合ってないイキッた人、みたいな。
背小さいのにシークレットブーツ履いて、
必死に身長を誤魔化す人、みたいな。
タケシをその人達と重ねたら、
見事に私のモヤモヤしたイメージと
重なり合ってね?
そう思ったらすごいって
気持ちが消えちゃったの)
「よしオリビア。
お前はそれ以上喋らなくていい。」
こいついつか痛い目みせたるわぁ……。
オリビアはだめだ。続けてアリアに尋ねる。
「アリアはどうだ?」
「私は普通にすごいって思ったわよ?
さすがタケシ!さすタケ!って思ったわ!」
うむうむ。アリアはいいこだねぇ。
俺はオリビアの話は無視して、
アリアの話を受けて話を続ける。




