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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第6章 はじめての冒険者らいふ!
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第77話 満足なその理由 #1

無言。アリアはひたすらに無言を貫いていた。


しかしわかる。

まだ短い付き合いだがよくわかる。

今、アリアはかつてないほどに怒っている。


証拠もある。証言もある。

なのに今、目の前で事実が

無理矢理に捻じ曲げられようとしているのだ。


「……っ!そんなの……!」


アリアは跪いた体勢からガバリと立ち上がると、

怒りを隠しもせず発言しようとした。


が、しかし。

チビのおっさんは無表情に、淡々と。

遮るように言葉を発する。


「しかし勘違いはしないでほしいのじゃ」


チビ議長は言う。


「朕はお主らの全てを

無かったことにしようとしてるわけではない。


貴殿らのはたらきは賞賛に値する。

貴殿らが魔人を足止めしていなければ

魔人が街に出て被害は甚大なものとなっていた。


その点について、朕も王族も

皆とても貴殿らを評価しておるのじゃ」


チビなおっさんは、無表情に淡々と、

しかし目を逸らさずに

アリアの目をじっと見返して答えた。


「だからこその、あの報奨金なのじゃ。

アリア殿。その意味をよく考えて欲しい」



報奨金。

もしも、俺たちの功績を"すべて"無視してるならば。

もしも、報奨金が不当に低いならば。

もしもそんな不遇な扱いを受けたのならば、

俺たちはすぐにでも王国をバッシングするだろう。


しかし実際はそうではないのだ。


俺たちが魔人を倒したという事実。

それに関しては確かに

明確な王国の意思によって歪められようとしている。


しかし、それ以外の部分については、

相応以上の分不相応に高く評価されているのだ。


その結果、俺たちはそこそこの…

…いや、結構な金額の報奨金をもらっていた。


助けを呼びに言っただけのオリビアにさえ、

目ん玉が飛び出るほどの多額の報奨金が出ている。


アリアなんて更にすごい。

ゼロが数えられないほどにもらっていた。


そして。


(……俺に至っては、

アリアよりも遥かに高い額をもらってるからな…)


ぶっちゃけ、家が余裕で立つレベルである。

農民の生涯賃金の何分の何かの報奨金を

俺はもらっていた。


……なぜ、これほどにまで報奨金を貰えたのか。


その内訳には様々な政治的意図が

含まれているのだろうとすぐに察しがつく。


怪我の慰謝料。

魔人を足止めした報酬。

そして……"口止め料"。

この多額の金を受け取った瞬間に、

王国側の諸々の意図を俺は察していた。


王国サイドの思惑。それは、


"多額の報奨金を出してやる。

だから魔人を倒した功績を我々に譲れ。"


"大怪我をさせられた損害も、

損害以上に報奨金で補ってやる。"


"だから、八柱将の偉業作りのためにシナリオを

書き換えさせろ"


この多額な報奨金にはそんな思惑が込められている。


もちろん王国側は明確に言葉にはしない。

だが、多額の報酬金の金額だけは、

その思惑を明確に物語っていたのだった。


✳︎


議長様は淡々と語る。

言外に様々な思惑を走らせながら

チビなおっさんは続けた。


「仮にアリア殿の言う通り

サタケ様がタケシ殿に襲いかかって

大怪我をさせていたのだとしよう。」


「仮にそうだとしても、

朕は金額的な保障は十二分に

できていると思っておる。」


「それらを踏まえた上で、

朕は改めてアリア殿に問いたい。

果たして何が問題なのか?と。

アリア殿は何をこれ以上我々に望むのか?と」


「……」


「……いずれにせよ、こう言ったことは

口頭で話すべきではないでおじゃる。


本当に直訴を考えているなら、

貴殿らの上司に当たる教会側に話してから、

今後を決めるのでおじゃる。」


そして男は立ち上がり最後にこう告げる。


「以上じゃ。

御足労大義であった。もう下がってよい」


チビなおっさんはスタスタとその場を離れていく。


話を切るように去る中央議長を、

アリアは引きとめない。


結局何も言い返せず、

グッと拳を握るばかりだった……。


・・・

・・


「お前なぁ……。

当の本人が気にしてないことを、

お前がそこまで気にしてどうすんだよ」


中央議会場を出た後。

俺は車椅子を進めながら、

ポツリポツリとアリアに語りかける。


アリアが怒ってくれるのは、

俺としては正直救われる気持ちだ。

だが、さすがの俺も一言言わざるを得ない。


今だにむすっとしてるアリアを、

諌めるように話をする。


「だって…」


「だって…悔しいじゃない!

タケシあんなに頑張ってたのに!

腕も切れて血みどろになって…

それでもあんなにがんばってたのに!

それが無かったことになるなんて!」


一向に納得しないアリアを根気強く説得する。


「お前がそうやって怒ってくれるのはさ、

正直ありがたいよ。救われる気持ちだ。


でも今回は部が悪い。相手は国家だ。

けれど、幸運なことに報奨金はたんまりもらえた。

俺としてはこの報奨金で満足どころか大満足さ。

な?あきらめようぜ?」


「……じゃあタケシはこれが100点満点の

結果だって言うの?これで本当に満足しきれるの?」


「……あー。」


ぶっちゃけ、100点満点だ。

報奨金はたんまり貰えた上に、

表面的には、あの時

サタケに勝ってしまったと言う事実、

勇者の力により表面化させてしまったその実力を

無かったことにできたのだ。


正直この状況は、俺にとってメリットしかない。


が、何をもってどう言う理由で

俺にとってメリットしかないのか。

その辺りについても含めて、

勇者やサナのことを話さないと、

きっとアリアはわかってくれないだろう。


「あー……」


チラリとメアリを見る。

するとなんと素晴らしいメイドだろうか。

すぐに意図を察して動いてくれた。


「そういえばタケシ様。

日照り問題の調査の資料をお求めでしたよね。

私が取りに行きましょうか?」


「お、おお!たすかる!」


「それでは」


そう言って、

空気を読んだメアリがその場を去る。


そして残されたのは身内のみ。


俺は、神剣や勇者のこととサナのこと、

そして、サタケとの戦いで見せた実力を

王国に知られたくない理由を語り出した。


・・・

・・



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