第74話 詰問
「……」
メイドのメアリの一喝により、
一触即発の空気はようやく収まった。
「……」
「……あー」
「……」
しかし、緊迫した空気は変わらない。
むしろより一層の緊張感が、俺たちを支配していた。
……まぁ、この男を除いての話だが。
「うんうん。アリアちゃんも実にいいねー!
戦闘に対する心構えは既に完璧だね!
勝てない相手にそれでも挑もうとするその姿勢!
実に評価が高いよ!」
ペラペラ。
「君は剣士と言うよりは、
アサシンの適性が高そうだね!
うんうん!良い!実に良いね!」
ペラペラ。
俺たちの緊迫した空気など御構い無しに、
男はマイペースに勝手気ままに
アリアへの人物評価を下していた。
「……」
そんな評価をアリアは無言で受け流す。
何も言わずにじっと
男の一挙手一投足を観察する。
右手は常に腰にささる剣の柄に向かっていた。
「いやー、やっぱりアリアちゃんもいいね!
オリビアちゃんも実にいい!
タケシ軍団はいい粒がそろってるね~!」
マイペースに男が褒めちぎる。
「さすがタケシだね!」
バシバシ!
俺の背中をたたきながら男は続ける。
痛い、痛い。やめて。
俺が怪我人ってこと覚えてます?
「……」
無言を貫いていたアリア。
そしてついにその沈黙を破った。
「……サタケ様は」
「うん?」
ゆっくりと、
相手に正しく伝わるように、
アリアは語りかける。
「サタケ様は、どういったご用事で
今日はいらっしゃったのですか?」
……ごもっともな質問である。
誰もが思っていたが、なんとなーく
口にしづらかったその質問。
ついに、ようやく、満を持して、
アリアが質問してくれたのだ。
「用事?」
「はい」
「うーん、まずはあれかなー」
男はその質問に元気よく答える。
「噂のアリアちゃんとオリビアちゃんを近くで
みたかった、って言うのが一番だね!うん!」
俺は一人あのノートの存在を思い出す。
こいつがしきりに書いていた「いつか戦いたいリスト」。
こいつのことだ。
アリアとオリビアを"品定め"することこそが、
こいつの目的のほぼ全てなのだろう。
「あとはー…えーっと、なんだっけ。
あ、そうそう!タケシへのお見舞い!
と、あとは謝るためだね!
ごめんね!右腕きりとばしっちゃって!」
こいつぶん殴っていい?
「あはは。ごめんねー」
本当にどこまでもマイペース。
これほどクズ極まった男を俺は見たことがない。
そんな男の言葉を受けて、アリアはさらに詰問する。
「…謝罪、ですか。
サタケ様にタケシと敵対する意思は
ないということですか?」
「えぇっ?!ないない!
あるわけないよ!?」
アリアは言葉を休めず更に刺す。
「ではどうしてあなたは
教会でタケシを襲ったのでしょう。
なんの権利があって、タケシを殺そうとしたのですか?」
明らかな詰問
その語調には明確な批難が込められている。
もちろん、このニヘラ顔チンパンジーに、
そんな意図を読み取る機能はそなわっていない。
男はその質問を元気に快活に答えた。
「それはもちろん!
タケシと戦ってみたいと思ったからだよ!」
「「「「「……」」」」」
俺、アリア、オリビア、サナ、
そしてメイドのメアリ含めた全員が
何とも言えない表情で男を見ていた。
教会でのあの状況。
魔人を命からがらなんとか倒した味方の人間。
ぼろぼろになっている自国の味方を、
ただ「戦ってみたい」という気持ちだけで、
問答無用に右腕をぶったぎったこの男
か、完全に狂っとりますわ。
「…タケシのことを
魔人呼ばわりして襲いかかった記憶が
あるのですが。」
「そうだね、言ったね」
「魔人と勘違いして切った、
ということではないのですね。」
「ううん?魔人は魔力が独特だから
勘違いなんてするわけないよー。」
お、お前あの時俺を
魔人呼ばわりしてたじゃねーか!!!
「あれはちょっとしたウィットなジョークさ!
そもそも、君たちの戦いはずっと見てたから、
勘違いするわけないじゃない」
「はぁ?ず、ずっと見ていた…?
いつから見ていたのですか?」
「うん?はじめからだよ?」
は?
「タケシ君が剣を外に放り投げたくらいからかな?
結界が消えた後、すぐにここに駆けつけてたからね!」
マ、マジで最初から見てるじゃねーかこいつ!
そんな早く来てたならなんで助けにこなかったんだ!?
「すでに戦いは始まってたからねー。
手柄を横取りするのはダメかなーと思って、
決着を待ってたんだよね」
援軍の意味ってしってる?
「……」
それからアリアは
一通り話を聞いた後、
カチリ
と何かのボタンを押したのだった。
・・・・
・・・
・・
・
「あっ!しまった!そうだった!
もうひとつここに来た目的があった!」
あん?
そういうと、男は慌てて
ポケットから紙切れを取り出した。
「えーっと、王国から招集がかかってるよ!
午後3時に王都の中央議会場まできてくれだってさ」
「……」
「じゃあ、ということで
僕はそろそろ帰るね。アデュー」
男はさっそうと窓から飛び降りる。
つ、つむじ風のような男だ…。
「……って、え?というか午後3時?」
俺は時計を見る。
………もう午後3時じゃねーか!!!!!
・・・
・・
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