第72話 一触即発
「タケツ様ー!みてください!」
【ペタペタ!】
俺の病室にやってくるサナ。
ペタペタと"生身の体で"走りながら
サナが俺の元に駆け寄ってくる。
「アリア様から折り鶴の作り方を
教えてもらいました!」
サナはちいちゃな折り鶴を俺に見せた。
自慢げな様子が子供らしくて実に微笑ましい。
「お、おう。よ、よかったな…」
この前までは幽霊のように
フワフワ足元も透けてる有様のサナだったが
今はしっかりした実体で実在している。
この体は義体。
神の作った神器?とかいう代物らしい。
この器に入れば、サナは現世に顕現
することができるそうなのだ。
……って、いやいや!
今はそんなことはどうでも良いんだよ!!
「……」
そんなことよりも、だ。
俺はサナを避難させるように俺の近くに寄らせ、
離れたベットから、二人を見つめる。
「……」
アリアは扉をあけてから
ずっと固まりっぱなしである。
入り口でピタリと足を止めて、
男の顔を驚きと共にじっと見ていた。
「あなたは………」
「うん?僕のこと知ってるの?」
アリアは一度驚いた顔をした後、
俺とオリビアを順に見てから、スッと表情が変わる。
「……王国民なら誰もが
知ってますよ。あなたの顔は」
"王国民なら誰もが知っている"
メイドのメアリも同じようにそう言っていた。
しかし、アリアのこの警戒する様は、
王国の英雄に対する態度ではない。
「お久しぶりです、八柱将サタケ様。
教会魔人襲来事件以来ですね」
俺が魔人に襲われたあの時あの瞬間、
アリアもあの場所にいた。
俺とこいつの一部始終をアリアは
その目で見ていたのだ。
【ジャキッ…】
アリアは懐からダガーを二本取り出す。
男を睨みつけ、完全に臨戦体勢である。
「またタケシを殺すおつもりですか?
それなら私も容赦しません」
「お?やる気かい?」
「……」
アリアはわずかに逡巡してから、再び男を睨む。
「……戦いたくはありません。
勝てるとも思いません。」
「ですが、あなたがタケシを殺すつもりなら、
戦わざるを得ないでしょう。」
男はそれを聞くと、笑顔をより輝かせる。
さらに笑顔を強めながら、楽しそうにこう続けた。
「じゃあこうしたら、戦う気になるのかな?」
ウキウキした調子で剣を抜く。
「へっ?」と、俺が気づいたときには、
首元に剣が添えられている……!?
「!?」
あっという間もない男の抜刀。
俺の顎には、まるで顎乗せ枕のように
剣が一本添えられる!!
ひ、ひえええええ!剣が!剣がガガガが!!!!
「……離れなさい。今すぐ」
「ふふふ」
い、一触即発の雰囲気である!?
というか、おい!
この剣、両方とも刃ついてるやつやん!?
顎を1ミリでも動かしたら
俺のナイスでシャープな顎が
真っ平らになっちまうんだが!?!?
(だ、だれか!誰か止めて!誰か!)
救いの眼差しでオリビアを見る!
「え…?こ、殺す?タケシを?え?え?」
が、オリビアは困惑しっぱなしであった。
それもそうだろう。
オリビアは、俺とこいつのいざこざを知らないのだ。
彼女から見れば、いきなり知人と国の英雄が
喧嘩をおっ始めようとしているのだ。
そりゃ困惑もする。
「いつでもどうぞ」
「……」
ジリジリ…ジリジリ…
張り付いた空気が火花を散らす。
あかん、これもうあかんわこれ。
戦いは避けられない。
俺が完全に諦めたその時。
そして男が動き出すが出さないかのその刹那。
メイドのメアリが鶴の一声を放つ…!!!
「みなさま。ここは病院です。
他の患者様もいらっしゃるので
お静かにお願いします。」
「……」「……」
無視。互いに睨みつけたまま、
メイドのメアリに目もくれない。
メイドのメアリはそれでも続ける。
「もしも、ここで騒ぎを起こすようなら、
この国で二度と治療は
受けられないと思ってくださいね。」
「……」「……」
「それでも良いなら、どうぞ戦ってください」
「……」「……」
流石にそれは看過できない。
両者どちらからともなく剣を下ろす。
……そして戦いは静かに
幕を下ろしたのであった…。
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