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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第5章 魔人討伐のその後
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第72話 尋ね人来たる

【カキカキ…】


さっきのオリビアとの会話をメモしているのだろう。

男はこれ見よがしにメモを取っている。


そんな様子を、

俺は遠くから訝しむように観察した。


(なんだ…?なにを企んでる?)


あ、あやしすぎる……。

オリビアへの一連の質問、

俺たちを探るような言動が

どうにもきな臭くて仕方ない。


朗らかにオリビアと会話する男を見ている間、

常に俺の頭には1つの事象があった。


それはとある揺るがない1つの事実。


"こいつは俺の右腕を切り落として、

瀕死の状態に追いやった。"


こいつが八柱将だろうと、

どれだけの大人気のスーパーヒーローだろうと、

何者であろうとも、その事実だけは決して揺るがない。


オリビアやメイドのメアリの

発言や対応を聞いていると、こいつがまるで

ご立派な英雄のように見えてくるが、

俺の右腕の手術跡は一生消えることはないのだ。


(……警戒しておこう)


"今は繋がっている"俺の右腕をさすりながら、

俺は改めて気を引き締めたのだった。



✳︎



【パタン】


一通りメモが終わったのだろう。

男はノートをパタンと閉じた。


「大体なんとなーくわかったかなー」


うんうんと満足気に頷くと、

オリビアの肩をポンと叩いた。


「将来性はEX!

総合評価はこれからに期待!って感じかな!」


(は、はぁ)



アァ…?何いきなり人様に評価下してんだ?ア?

お前は人様に評価できるほど立派なんか?ア?



「でもおめでとうオリビアちゃん!

君は全体評価はB−だよ!

Aを目指してがんばってね!」


(???は、はい。が、がんばります…?)



わけのわからん評価を下され

オリビアは困惑しっぱなしである。

一方男の方はというと、

そんなことなどお構いなしに話を続けた。



「オリビアちゃんは戦闘魔法って使えるんだっけ?

もし使えるなら一度僕と模擬戦やってみない?」


!?な、なんという危険な提案を!?

や、やめろやめろ!危ないことしようとすんじゃねえ!



(え、えぇ!?模擬戦!?)


オリビアもびっくりしたように答えた。


(む、無理です無理です!できません!

戦闘魔法なんて使えません!)


「あ、そうなんだ〜。」



少し残念そうに男は続ける。

それでも目を爛々と輝かせながら

続けてこんなことを提案した。


「じゃー、もしも戦闘魔法1つでも覚えたら

僕のことを呼んでよ!実験台になってあげるからさ!」


(あっ……)


ピクリ。

その言葉にオリビアの肩が僅かに震える。

それから心底申し訳なさそうにこう続けたのだ。


(……すみません。

そのお願いは叶えられないかもしれません…。)


「え?どうして?」


(実はわたし喋ることができないんです。

詠唱魔法をそもそも使うこともできないので………)


「……え」


その直後、である。

男のそのあまりの"変貌"に

側から見てる俺すらも、戸惑いを隠せなかった。


「……」


詠唱魔法を使えない、

そう知ると、途端に場の空気が一転したのだ。


今まで流暢に喋っていた男が

途端に無言になる。

ただそれだけのことで時間が止まったかのような

そんな静寂が病室を支配した。


「……」


数秒にも満たない沈黙なのだが、

妙に長く重苦しい。


それから男はようやく喋り出す。


「……そうなの?」

「は、はい」


「ふーん……そうなんだ」



目の色が変わる。

その色が、その温度が一瞬にして失われる。


一切合切の興味を無くしたような冷たい目。

男は見るからに失望するような顔つきに変わったのだ。


「詠唱魔法が使えないとなると……

大概のどの魔法も使うことは難しいね……」


「どうして君ほどの逸材が、

条件付きで雇用されたのか不思議で

しかたなかったけど……そういうことなんだね」


(ご、ごめんなさい…)


「……」



あまりの変わりように困惑するオリビア。

横で聞いてる俺も、男の情緒の

トップダウンの差にガチ困惑である。


……なんだ?どうした?

なんでこの男はここまでテンションが下がってる?


(ご、ごめんなさい…。)


オリビアは、

男の異様なテンションの下がり方に、

つられるように謝罪する。

いやいや、お前が謝ることないだろ別に。


「……」


(念話のような簡単な魔法なら

きっと扱えると思うんですけど……。

すみません。ごめんなさい…。)


しきりに謝るオリビア。

…って、本当になんでそこまで謝罪すんねん!

こいつがお偉い立場だからって、

そこまでへり下る必要ないだろ!!


無性にムカッときた俺は、

オリビアをフォローをしようと

俺が立ち上がろうとする。が、その直後、

男はガバリ!と勢いよく俯いた首をあげたのだ!



「!?か、簡単な魔法!?」

(え?)


「ね、念話が簡単だって言ったの……??」

(は、はい……す、すみません……?)


直後、下がったと思ったら今度は上がる。

男のテンションが再び高まっていったのだ。


「な、なるほどねーーー!!

や、やっぱり素晴らしいねオリビアちゃんは!」


「?????」


終始疑問符を浮かべたままのオリビア。

男はそんなものは御構い無しに

再びメモを取っていた。


「うーん……す、すごい魔法のセンスだ……。

念話魔法を簡単だなんて言うとは…。

これは将来性EX+は堅い…!?」


またも男はノートに何か書いている。

なにやらブツブツと呟きながら、

オリビアに背を向けてメモをしている


そんな様子を側から見ている俺の感想は

たった一言である。


(こ、こいつあやしすぎん!?)


背を丸めて目の前でしきりにメモを取る様は、

もはや疑ってくれと

言ってるくらいに怪しさ100%である!

こ、こんなに怪しいやつ世の中におる?!


(なに?マジでなにがしたいんだこいつ?!

もしかして、王国の連中から秘密裏に何か調査でも

頼まれてたりするのか?!)


俺はじっとそのノートを見る。

そしてふいにノートの表紙の文字が視界に入った。


「……!?」


表紙に書かれた一文。

そこに書かれていた文字は、

俺が思っていた以上の「不穏さ」を

漂わせて、俺の視界に飛び込んできたのだ。



『いつか戦いたい人リスト』



その一文を見た俺は、全てを察してしまう。


こいつが詳しく探ろうとしたのは、

自分と戦うにふさわしい相手か見極めるため。


こいつがさっきあれほど落ち込んだのは、

オリビアがそもそも戦えるステージにすら

立ってないことがわかったため。



こいつが実は王都から送られてきた調査員とか

そんな大層な事実は隠れていなかった。


こいつは根っからの"戦闘狂バーサーカー"。

こいつの頭の中には、自分を楽しませてくれる

戦闘相手を探すことしか初めから頭になかったのだ。


(今までのやり取りは要は"品定め"ってことか…?!)


俺は一人戦々恐々である…!!


つ、つまり、こいつに見定められたら

俺の時と同じように、こいつに

襲い掛かられるってこと……?!?!


・・


そして男はノートを再び閉じるとこう言った。


「さてと。ところで

アリアちゃん?は今どこにいるのかな?」


「…………あ、いや、その」


「?」


「いや、アリアはこの病院にはいない、んじゃ、

ない、ですかねーー……?」


「え?うそ?

となりの病室だよね?」


「い、いや……」



くそ、どう誤魔化そう…。

しかし無情にも、俺の病室の扉が

自ずと開かれる…。



「タケツ様ー!みてください!」


それはサナの声。

そしてすぐ後ろからもう一人。


「タケシ!

隣人が遊びにきたわよ!」


その威風堂々たる偉そうな口調。

顔を見ずともわかってしまう。


今一番きてほしくないタイミングで、

渦中の人物が到来したことを、

俺は悟ったのだった……



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