第71話 観察する目
王国がこいつらを国の英雄として
祭り上げようとする魂胆が見え隠れするその逸話に、
俺は内心冷め冷め萎え萎えである。
一方、オリビアは。
(す、すごい…!絵本でみた人に
出会えるなんて感激です!サ、サインください!)
初めての八柱将様との会話に大興奮。
すっかり感動しっぱなしである。
「あはは、いいよー。どこにかく?」
朗らかに男は答える。
俺も同様、優しくオリビアに笑いかけた。
「オリビア。俺のサインも要る?」
(ちょ、ちょっと待ってくださいね!
たしか紙とペンがカバンに…)
「オリビア?俺のサインは?」
オリビアはどこから出したのか、
紙とペンを男に手渡した。
男はペンの蓋をキュポンと外して紙を取る。
「ここに書けばいいの?」
(はい!おねがいします!)
「俺はどこにサイン書けばいい?」
(あ、あのサタケ様!できれば名前付きで
オリビアさんへ、って書いてもらえると…!)
「いいよー」
「オリビア?俺の声聞こえてる?」
男はささっと手慣れた手つきでサインを書いた。
そんな様子を、オリビアは
少し頬を赤くさせながらじっと見ている。
「俺のサインはどこにかく?」
(……)
「オリビア?オリビア?」
(要らない)
バ、バッサリである…。
この世紀の大英雄(予定)
に対してこの塩対応である。
「……」
頬を染めて嬉しそうに
してるオリビアをじっとみる。
うーん……面白くない!
実に面白くない!面白くないなおい!!!
それから俺は、こっそりと
サインを書く男の後ろに回り込む。
こいつのことだ。
頭悪そうだし字も頭が悪いに違いない!
俺は後ろから覗き込んだ!
【サラサラー】
……ふ、普通にうめえなおい!?
思わず感想が声をでる。
「て、手慣れてますね!?」
「うん?あー、うん。
なんかよくこういうの書いてくれって
頼まれるんだよねー。」
……そういえば、メイドのさっきの話だと
こいつは国民からすごい人気があるんだったか…。
こうやってサインを求められることが
多いのかもしれない…。
後ろからじっと観察する。
そして男が書き終えたのをみるや、
俺はすぐに声をかけた。
「サタケ様。次は俺の番ですよ。」
「え?うん」
そういって一式を借り受けペンを持つ。
そして俺もさらりと一筆入魂。
それからオリビアに返却した。
「ほれ、書いておいたぞ」
(!?な、なんでタケシもサインしたの!?)
「え?要らないの?」
(要らないよ!?)
スパコーン!
オリビアに引っ叩かれた!
ジョ、ジョークやんこんなの!怒ることないだろ!
(もー!タケシは
大人しく座っててよ!もう!)
くそ!くそ!くそー!
面白くないなくそおおおおおおおお!!!
・・・・
・・・
・・
・
(私たちと同い年くらいですよね?
その年で八柱将なんてすごいです!尊敬です!)
「そう?でも八柱将なんて
そんな大層なものじゃないよー?」
(そんなことないですよ!すごいです!)
「本当にそんなことないんだけどなぁ…」
・・
・
「……」
蚊帳の外である。
向こうの方で二人が楽しげに
会話をしているのが見える。
(さみしい…)
遠くから、俺は麦茶をちびちび飲みながら
二人をただ眺めていた。
オリビアが取られてしまった…。
昔のオリビアは、よく俺のことを
タケシ様タケシ様ースキーカッコイー
と言って慕ってくれたものだ。
しかし時は無情である。
今じゃすっかりこんなものだ…。
昔は「タケシ兄ちゃんお風呂はいろ?」と
小さな背で俺の足にくっついて
せがんでくれたものだが、もう見る影もない。
そんな話をメイドのメアリにとくとくと話しかける。
「仲のよい兄妹だったんですね」
「そうさ。でも今じゃすっかりあんな様子さ。
寂しいもんだよ」
「……心中お察ししますよ、タケシ様。」
「ありがとう、メアリ…」
メアリが開いたグラスに麦茶を注いでくれた。
俺のことをわかってくれるのは
メイドのメアリだけだ…。
メアリはうんうんと優しく頷いてくれた。
(記憶を捏造しないでください。
1週間前に会ったばかりじゃないですか私たち。
そんな過去はないです)
「……」
離れた場所からオリビアの声がする。
「……」
それでもメイドのメアリーは何も言わずに
俺の麦茶に氷を足してくれた。
今日の麦茶は、やけに冷える…。
・・・
・・
・
(うぅ…サインももらえるなんて感激です…
ありがとうございーー……応援してますー……)
「うんうん。よかったねー」
そして男はスッと切り替える。
「……で、ところで話は変わるけどさ?」
(え?はい)
男は神妙な表情で話題を変える。
「君が……オリビアちゃん、なんだよね?」
(は、はい!オリビアです)
ふーん、と言いながらオリビアの周りを
ぐるっと回る。
「うんうん。話には聞いてたよー。
噂通りたしかに"すごい"ね!
とりあえず握手してもらってもいい?」
(え?は、はぁ…)
そう言って、言われるがままに
手を差し出して握られる。
そして男は今までにない静かな調子で続けた。
「………なるほど。本当にすごい魔力だね。」
(えっ)
「自然放出されてくる魔力の量も質も尋常じゃない。
これがあの強靭な結界を壊した魔力なんだね」
(あっ。結界は………
その、私は何もしてないです。)
「?どういうこと?」
(壊したのはアリアちゃんです…。
私はただアリアちゃんを
おんぶして運んだだけなので…)
聞いた話によれば、
魔力の強いオリビアがアリアに常時触れていた
おかげで、アリアの魔力が普段の何十倍にも
強化されたらしい。
その結果、アリアの魔法で
結界を破るに至ったそうだ。
「たしかに彼女も素晴らしい。
2回目に結界が貼り直されたあと、
僕らも、彼女がしたことと同じように、
オリビアちゃんの魔力で結界を
破壊しようとしたけど、
魔力が強すぎてコントロールが
まるでできなかった。」
男は滔々と語る。
「彼女の魔力をコントロールする繊細な魔力技術は、
王国にはないものだ。
彼女独自の魔術理論は間違いなく本物…
実に稀有な人材だよ。
でもそれ以上に、君の魔力は天才級だ。
本当に人間が疑いたくなるようなレベルの魔力だよ」
反応を伺うような、そんな視線。
一方オリビアは困惑しきりで
目を白黒させているだけだった。
……静かに男は語っている。
珍しく真面目な様子だ。
だが、どうにも分析されているようで
薄気味悪さを感じて仕方ない。
「オリビアちゃんは、魔法って使えるんだっけ?」
(ね、念話くらいしか使えないです…)
「あ、そういえばこれ念話だったね!
全然気にならなかったよ。
最初の時から思ってたけど、
君の念話ってすごく変わってるよね」
(あっ。も、もしかして
聞き取りづらかったりしましたか…?)
「その逆だよ!
念話って少しボヤけたり混線するのが常なんだけど、
君の念話は実にクリアだ!
もしかして普通の念話と違う術式で
やってたりするの?」
(そ、そうですね。式は特に変えていませんが、
おでこの少し奥の方?に響かせるような
イメージでやってるので、そのおかげかもしれません)
「……ほー。ちなみに、念話の精度向上は
自分で研究したのかな?」
(け、研究?いえ。なんとなーく、
こうしたらいいのかなーくらいのかんじで…
研究なんて大それたものじゃないです。)
「………なるほどなるほどー」
ん?なんだ?
そう言いながら
男は何かをメモ帳に書き込みはじめた。
何かいてんだ?こいつ。
(…?サタケ様?
何を書いてるんですか?)
「うん?秘密だよ〜」
……あやしい。




