第67話 2度目の決着
「勝負は、一瞬で決まるから」
勇者はボソリと俺に向けて呟いた。
不敵に笑いながら
こちらに向かってくる男。
剣を空へと放り投げた体勢のまま
棒立ちでいる勇者。
そして男の猛攻撃が始まった。
まっ直線。俺の体を縦に2つに分けるように、
男は大きく剣を振るう。
【ヒュン!】
剣は鋭く空気を切り裂いた。
素早く早いその太刀筋を、
勇者の視界は超スローモーションで
見事にその軌道を捉え切る。
【スッ…】
勇者はボロボロの体をゆっくり動かして、
すんでのところで剣を避ける。
まさしく紙一重。俺の目の前数センチを
鋭い刃が猛スピードで駆け抜けていく。
避け切ったその瞬間に、
勇者もついに攻撃に転じた。
「フォール」
短いその言葉と同時に、
先ほど上に放り投げた神剣が、
真下に向かって落下する。
男の死角をついた
不意打ち気味な攻撃だ。
「ふふふ」
男めがけて神剣が接近する。
しかし男はニヤリと笑うと、神剣を見もせずに、
首を軽く捻る。
ただそれだけの所作で、
男は神剣の刃を避けてしまったのだ。
「そうくると思ってたよ。
君と魔人の戦いは初めからずっと見てたからね」
はぁ!?いや初めから見てたなら
もっとはやく来いよ!
つーか、お前俺が魔人じゃないって
わかってるじゃねーか!!
……言いたいことは山ほどあるが、
言葉で解決できる段階はとうの昔に過ぎていた。
互いに互いの攻撃を
紙一重で避けるギリギリの攻防。
男は勇者の攻撃が終わったと見るや、
二撃目を再び放とうとする。
「……」
……しかし、男は気づかない。
勇者の攻撃がまだ終わっていないことを男は見逃した。
「フッ!」
そして勇者は動き出す。
ボロボロの体を、絞り出すように、
早く、大きく、動かした!
【シュン!】
まるで金魚すくいのような動きで
勇者は左腕を振るう。
なんと勇者は
猛スピードで落下する神剣の柄を、
すくい取るように握ったのだ!
「…!?」
超猛スピードで落ちてくる神剣の柄を
掴むなんて神業、
飛んできたスズメの小さな足を指でピンと
つまむようなものだ。
しかし勇者はこともなげに実行する。
勇者の超スローモーションの視界が
それを可能とした。
全てはこの時この瞬間のためのスローモーション。
勇者は最初に言っていた。
『この体では、剣を振るったとしても
十分な速度も威力もでないだろう』
と。
ならば速度と威力を出してから振ればいい。
はなから神剣で不意を打つつもりは毛頭ない。
全てはこの時のため。
この左腕で神剣を振るうための
布石にすぎなかったのだ。
そして勇者は剣を掴んだと思うと、
剣のその凄まじい勢いを殺すことなく、
剣ごと体を回転させる。
グルリと360度。
神剣は勢いそのままに、男の体を
真横に大きく凪いだのだ!
「ガッ……!!」
すでに攻撃モーションに移っていた男は、
その攻撃を避けられない。
神剣の攻撃をもろに横っ腹に受ける。
そして男の体は真横に吹き飛ぶと、
そのまま礼拝堂のアイロンの壁へと激突した!
「ふんっ!」
勇者の攻撃は続く。
そのまま回転する体を止めることなく、
ハンマー投げのごとく、神剣をぶん投げた!
壁にぶつかった男の身に
トドメを刺すように神剣がぶっ刺さる!
【ドゴオオオオオオオオオオン】
大きな音ともに礼拝堂の壁は崩壊。
土煙がぶわりと辺りを埋め尽くす。
(たお…した…?)
男が立ち上がる気配はない。
た、たおした?
やっと倒したのか!?
と、またも俺はフラグたてまくりなセリフを
口にするのだが、それでも男に反応はない
「うん。倒したね」
勇者は疲れ切った声でそう言った。
勇者のお墨付きだ!
こ、これは……これはーーー………!!!!
(や)
(やったああああああ!!!)
歓喜の声!
ついに勇者は勝利したのだった!!!
そしてそれと同時に
俺の体は限界を迎える。
【プツン】
「あ、あれ…?」
耳に何かが切れる音がする。
そして俺は、電源が切れるように
意識を失ったのであった…。
・・・・
・・・
・・
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