第6話 スカウト #2
ようやくスカウトされました。オメデトウ!
あれから少しして、俺たちは教会の中心にある礼拝堂に到着した。
グラウンドのように広い部屋が俺たちを出迎える。
王都の礼拝堂はとにかく全てにおいてスケールがでかいのだ。
数十メートルはありそうな高い天井、
天井に届かんばかりの大きな青胴の女神の像、
子供用のお風呂に使えそうなほど大きな燭台。
なにもかもサイズが大きい。
巨人の世界に紛れ込んでしまったような、
そんな錯覚すら覚える。
「よくきてくれた。
暑い中待たせてしまってすまないね。」
人の良さそうな爺さんが出迎える。
スキル授与式で俺にスキルを授けたクソジジイとは別のジジイである。
「念のため確認するが、きみがオリビア殿かね?」
「……」コクリ
神官は改めて一同を見渡し確認する。
「そしてきみがタケシくん」
「はい」
なんで俺だけ君づけ?はいタケシです!
「そして貴方が…」
「わたしはアリア。
アリア・アリシエル・ムーンよ!」
「もちろん存じております。
つい十分前にお伺いしましたからね」
こいつ最初の説明会に呼ばれてたんだっけか。
まぁ結局それも途中で抜け出したようだが。
「それでどうしてアリシエル様がここに?
はっ!も、もしやお気持ちが変わられたのですか?!」
「いいえ、違うわね!」
「そ、そうでしたか。
お気持ちが変わるようなことがあればいつでもいらしてください…」
「ええ、わかったわ!」
頭をがくりと落とす神官。相当な落ち込みようである。
よっぽどスカウトしたかったのだろう。
でもこいつアホそうだし採用しなくてよかったと思いますわ。
「それで今回はどう言ったご用件で?」
「私に用事はないわ。
友人の付き添いで来ただけだから」
「ほっ、ご友人…。左様でございましたか。」
友人ってだれのこと?
出会って十分も経ってない知り合い未満の少女が、
こちらを見てしきりウィンクしてくる。
俺は不良の溜まり場を素通りするよ時のように、
俯いて気づかぬフリをした。
「ごほん。それでは改めて。
オリビア殿、タケシくん、今回は来てくれてありがとう。
そしてスキルの獲得おめでとう。
新たな信徒の誕生に、最高神アリル様もさぞお喜びだろう。」
「ありがとうございます」
「……」ペコリ
「ここに来てもらったのは
君たちを王国の官吏として採用するため」
「おぉ!」
「ではなく」
「あぁ…」
あげて落とすなよオオオオオオオ!!!
頭の中で、俺は長ネギを抜く要領で神官の長い白ひげを全て引っこ抜く!!
「す、すまぬ。別にからかってるわけではないのだ。
完全にダメというわけではない。
ただ、君たちの能力には未知数な部分が多いから、
能力の判断がつくまでは正式な官吏として採用することができないのだ。」
……まぁ、それもそうか。
というかそりゃそうだよな。
頭の中では出世街道に乗って王子になった俺が、
姫様とハネムーンの旅に出かけるところまできていたが、
冷静になって考えてみれば、神官の言ってることは全くもって正しい。
一人雇うのもタダではないのだ。
将来性だけで誰でも彼でも採用できるはずがない。
(……まぁ、いい夢見させてもらったと思うしかないよな)
なんかもうどうでもいいや…実家に帰って畑でも耕そう…。
「わかりました。それでは失礼します……」
しにたい…
「ま、待て待てどこへ行くのじゃ!
話はまだ途中じゃぞ!」
え?
「すぐに採用は難しいが、我々教会としては、
試用期間ありで君たちを採用したいと思っている。」
お?
「試用期間は6ヶ月。
もちろんその間に給与は出すし、衣食住も無償で提供しよう。」
お、おぉ?
「王都での仕事だ。
居住の移動や家族のこともあるだろう。
その辺りの費用は全て我々が負担するつもりだ。
それから、仮に君たちの能力が官吏たる基準に達していなかったとしても、
この6ヶ月間は国が必ず保障するつもりでいる」
お、おぉぉぉ!?!?
「……と、いう条件で君たちを雇用したいのだがどうだろう?」
神官はこちらの様子を伺っている。
こ、これは、破格なんじゃないか?!
仮に使えない能力でもある程度保障はしてくれるみたいだし!!
タケシA(迷う必要は無え!いっちまいなタケシ!)
タケシB(そうだ!いっちまいな!)
タケシC(うんこしてぇ!)
心の中の自分に問いかけ、気持ちを固める。
よ、よし!いっちまうか!
「そうですね。それじゃあ是非よろs…」
クワシッ!!
「待ってタケシ!」
「ホングッ!?」
ホングホワァ!?
ア、ア、頭を急に後ろからむんずと掴まれる!
支点力点作用点に従って俺の体は華麗にムーンサルト!
さながら海老反りのように俺の背中は湾曲した!
(痛えええええ!?!?
力つえーよ!?あと呼び捨てにするんじゃねえよ?!?!)
絞り出すようになんとか笑顔を貼り付けて、
錆びついたボルトのネジのごとく、ギギギ…と貴族女の方を振り返る
「な、なんでしょうか?アリア様……?」
「どんな仕事をするかも聞かずに承諾するのは危険だと思うわ!」
はぁ?!そんなこと!
それはっ!……それは、まぁ、たしかに。
「これだけの高待遇には理由があるに決まってるじゃない。
その理由を理解してから、判断すべきだと思うわよ?」
ふ、ふむ。そうだな。
「ついこの前、王国は大陸との戦争が終わったでしょう?
結果は王国は勝利したにはしたけれど、八柱将軍を四人も失い、
そのほかにも多くの兵が失われてしまったわ。」
へー。
「国対国の戦争は終わったけれど、
大国の敗北を機に、新たな覇権を狙って地方の小国が続々と武力蜂起しているの。
本来なら戦争に勝った私たち王国に覇権を握る権利がある。
でも、今の王都には地方の争いを力でねじ伏せられるだけの戦力が足りていないの。」
「まぁようするに、
今現在王国は戦力という名の人手が足りてないわけね。」
ふーん
「タケシも知ってるんじゃない?
この前、大規模な兵士の募集があったわよね。
身分、経験問わずかなり大規模な募集。覚えてる?」
あー、村の役場にそんな募集の張り紙があった気がするな。
あの時は未成年だったから応募できなかったけど。
「雇用された人達は、最初王都の護衛の任務だと聞かされて採用されたの。
実際、最初の1ヶ月は王都勤務だったわ。
でもすぐに、その兵士たちは内紛が起きている各地域に飛ばされた。
クワしかもったことのない平民も含めて全員ね」
畑しか耕したこと人間が
いきなり戦地で人間相手に剣で耕せなんて言われる気持ちは想像に難くない。
まぁ、そうなる可能性も込みで兵士になったのだから
自業自得と言えるかもしれないが。
「いまこのタイミングで王国に採用されることは、
すぐに戦地に送られる可能性がとても高いわ。
だからよく考えてから選択すべきだと思う」
アリアは真っ直ぐに俺の目を見つめる。
吸い込まれるように、俺もその眼差しを見つめ返す。
不真面目な態度で話を聞いていた俺だが、
こうも正面から説得されたのでは、
流石に考え込んでしまう。
戦争に巻き込まれるかもしれない、か。
それは嫌だな…俺農民だし
剣の握り方もわからないど素人だし…。
「……うん。そうですね。
ありがとうございますアリア様。おかげで気持ちが固まりました。」
俺は背を伸ばして神官に向き直る。
「それでは神官様」
「う、うむ…」
「そのお話…………
是非受けさせていただこうと思います!!!!
今後ともよろしくお願いします!!!」
「えぇぇぇぇぇぇ?!な、なんでーーー!?」
貴族女が驚いている驚いてる!!
ふん!ざまあみろ!!!
俺がお前のいいなりになるわけねーだろうがァ!!!
お前に後ろから引っ張られた痛み絶対わすれねーからなぁ!!!!
金持ちの驚く顔は見ていて気分がいいぜーーー!!!
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……この決断に取り立てて大きな理由はない。
「長々と偉そうに説明する貴族女に従うのが嫌だった」
ただそれだけの理由で、少年は今後の人生を左右する大きな選択をした。
この選択をきっかけに、
少年の人生、ひいては国家の命運すらも大きく変革していくことを、
この時はまだ誰も知らない…