第60話 決戦 #6
【タケシの視点】
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地面までの距離はゆうに50メートル。
そんな高さをアリアは落下する。
普通の人間がこの高さを落下したら
当然ただでは済まされない。一生看護生活確定だ。
(け、怪我じゃ済まんぞおい!!!)
大慌てで落下するアリアを目で追った。
しかし同時に、焦る一方で、
この危機的状況を"チャンス"だとも俺は捉えていた。
(サナ!聞こえるか!
結界石をつかえ!結界の範囲を変えるんだ!)
頭の中で指示を出す。
念話でも発話でもない。ただただサナに向けて言葉を思い浮かべる。
(…………つ、伝わってる??)
読心魔法を利用した意思疎通。
魔人の盗聴対策にと仕方なくこのやり方で
コミュニケーションを取っているが、
どうにも不安で仕方ない。
…………それから数秒待つ。
結局サナからは何のアクションが返ってこなかった。
(俺の言葉が届いてないのか!?お、おーい!)
問いかけるが当然返事はない。
この意思疎通の手段は、サナから俺に意思を
伝える手段が準備されていないのだ。
しかし、素直で賢いサナのことである。
もしも俺の心を読んでいるなら、すぐに俺の意図を察して行動に移すはず。
何も事態が変わらない現状を踏まえ、
そこから導かれる結論は……
(だ、だめだこれ!確実に伝わってないわ!)
やばい、じ、時間がない。
サナから何もアクションが起きない今、
別のコミュニケーション手段を取らざるを得なかった。
(お、おい勇者!サナと念話が繋がってたはずだったよな?!
念話で話しかけたいからアシストしろやオラ!!)
やむを得ず方針変更。
俺は大慌てで勇者に指示を出す。
勇者からはすぐさま返事が返ってきた。
『たしかに念話の準備はできてるけど……。
でもいいのかい?魔人に会話を傍受されるかもしれないよ?』
(かまわん!背に腹は変えられねえ!)
もしもサナとの会話を盗聴された場合、
魔人はサナという、もう一人の協力者の存在に気づこととなるだろう。
サナの存在に気づかれること、
それはつまり、サナが魔人の攻撃対象に追加されるということだ。
ハイリスクハイリターン。
だが、リスクを背負ってでも、この"チャンス"を
ものにしなければ俺たちにもはや活路はない…!!
(ここで終わらせる!これで終わらせられれば、
リスクが有ろうと無かろうと全て解決する…!!)
即断即決、即時実行。
俺はすぐさま決断を下し行動に移した!
勇者のアシストを受けて、
再び俺はサナへと語りかける!
(範囲を変えろ!アリアの真下に!はやく!)
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……そこからの展開はまさしく一方的だった。
サナは指示通りに結界を展開してくれた。
青い球状の結界が、魔人とアリアを囲う。
最初に魔人の攻撃を防いだ結界よりも、さらにさらに大きな結界だった。
「っ!」
アリアと魔人を包み込むように展開された結界。
結界の最下部が、丁度アリアの足元すぐ下に出現する!
「ナイ……スッ!」
そしてここぞとばかりにアリアは踏みつける!
結界の床を踏み台にして、そのままひとっ飛びに飛び上がったのだ!
「ぬっ!?」
魔人の不意をつかれたように声を上げる。
落下したと思っていた相手が、今度は下から飛び上がってきたのだ!
今度はアッパー気味に神剣が振り上げられる!
「ごふぅっ!?」
顎先にクリーンヒット…!!
普通なら脳震盪の1つでも起こしそうなものだが、
相変わらず魔人の笑顔は崩れない。この様子だとダメージは期待できないだろう。
(だが、それでいい。)
これでいい。
攻撃が効かない?致命傷に至らない?
それなら攻撃の手数を増やせばいいだけだ。
こいつ相手に手の込んだ作戦など必要ない。
手数の量で圧倒する。それで十分だ。
「ふっ!」
アリアの体は勢い衰えずそのまま上へと舞い上がる。
それからすぐに、アリアは結界の天井、球体の最上部へと到達した!
すぐ目の前には結界の丸い天井。
ぶつかるかぶつからないかのその寸前、
すかさずアリアは空中で小さくその身を回転させる!
そして両足が天井に向くように、体勢を大きく変えたのだ!
【ガッ!】
頭は下に、足は上へ。さながら重力が逆転したかのような、そんな体勢である。
アリアの両足が、結界の天井をガシリと捉えた。
【ジュゴンッ!】
その刹那、割れんばかりの力を込めて、
アリアは結界を蹴り飛ばす!
その様はまさしくミサイル!
上へと舞い上がったアリアの体が、今度は下に向かって急降下!
蹴り出す力と重力加速、2つの加速度が生み出す爆発力!
かつてない猛速度でアリアの体は弾丸となって疾走した!
「ぐおおっ…?!」
下から来たかと思えば今度は上だ!
魔人は上を見る間も無く神剣に切りつけられた!
今までで一番の重みの乗った一撃。
攻撃を受けるたび、その場で震えるばかりだった魔人の体が
ついにその威力に耐えきれずに、外へと弾かれた!
それからアリアは勢いそのままに結界の床に向かっていく。
衝突するその寸前、再び先程と同じ要領で、
その身をくるりと回して、両足を結界の床へと向ける。
そして体勢を崩してよろめく魔人めがけて、結界を蹴り上げる。
今度は横から掻っ攫うように魔人の腹を切り裂いていったのだ……!!!!
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そこから先はこれの繰り返しである。
さながら、透明な球の中に入ったスーパーボール。
球の中を、縦横無尽にスーパーボールが跳ね回る。
結界を蹴っては魔人に向かって飛び上がり、
そしてふたたび結界を蹴っては、魔人に急降下する。
延々それを繰り返す。
「へへ……へへぇ……」
魔人の表情は相変わらず笑顔だが、
見るからに体に傷がつき始めている。
アリアの猛攻撃に、ボロ切れのようにボロボロになりつつあったのだった!
(……いける!いけるぞこれ!勝てるぞ俺たち!)
ボロボロな魔人を見て、俺は勝利を確信するのであった!




