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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第4章 魔人討伐! 〜初心者編〜
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第56話 決戦 #2

「さて、第2ステージといこう」


額の亀裂は開かれた。

大きな瞳が、ぎょろりと俺を見つめてくる。

魔人は両目をつむったまま、話を続ける。


「いつでもかかってくるがいい。

数秒ともかからぬうちに終わらせてくれよう」


額の目は開かれたままだった。

しかし、顔についた無数の目は例外なく閉じている。

両の目すらも閉じている有様だ。


(さっきの話だと、

目が閉じると能力が失われるって言ってたな…)


額以外の目が閉じてしまったということは、

つまりは、額の瞳の開眼を引き換えに、

その他すべての能力を犠牲にしたということに他ならない。


数十個とある異能力をすべて投げ打って、

それでも手に入れたかった能力。


額の瞳に宿る能力とは一体何か、どんな能力なのか。

どこをどう警戒すればよいのか。まるで見当がつかない。


(おいくそ勇者)


すこしでも情報が欲しい。

俺は物知り百科事典もとい勇者にダメ元で聞いてみた。


『くそはやめて』


(おいあほ)


『君は枕詞に相手をばかにしないと会話ができないひとなの?

…それで?なんの用?』


(アルゴス族の額の目について知ってることってなんかあるか?)

先ほどのやつの話だと、

どうやら額の瞳はかなり特別な力を持っているようだ。


こいつなら何か知ってるかもしれない。

そんな一縷の望みをかけて聞いてみたが、しかし…。


『……ごめん知らないんだ。』


Oh,Fuck。


『アルゴス族が上位五位魔人に入るほどの種族だってことは知ってるけど、

それ以外のことは何もわからないんだ…。ごめんね』


ここぞという時に役に立たない。

知ってることは知ってるが、

知らないことは知らない、そういう男なのだこいつは。


当たり前のことに難癖付けて、俺は怒りそのままに勇者を罵倒しストレスを発散させようとした。


が、それも途中で遮られる。

ゆるりと動き出す魔人に気づき、俺は慌てて意識を切り替える。



魔人はゆらりと短い言葉を唱えた。


「来たれ、光よ」


すると浮かび上がるは光の玉。

紫色の魔法の光球が十数個、魔人の周りに浮かび出す。

 

「……」


魔人の表情は終始穏やかだった。

先ほどまで感じられた焦りや気負いがまるで感じられない。

極めて自然体のまま、魔人は臨戦態勢に移行する。



「全盛期の時以上の力の高まりを感じるよ。

少しは楽しませてみろ、人間」


「人間じゃねぇ。タケシだ」


「……貴様、やはり人間ではないのか?」


「いやいや言葉の綾だよ。

種族でひとくくりにして呼ぶのはやめろって意味だよ。」



…さて、敵方は戦う気満々だ。

となれば、こちらもそれ相応の準備を始めなければならない。


俺は地面に突き刺さる神剣を一瞥し、

魔人の言葉を真似てみる。



「来たれ。神剣」



ふわり。

地面に突き刺さった神剣が、俺の目の前へと浮かび上がる。

……よ、よかったーーーー!!!

ここでもしも神剣に無視されてたら、

俺ただのただのかっこつけただけのガキに成り下がるところだったわ!!



それから神剣は俺の目の前までゆっくりと浮上する。


眼前1メートル。

威風堂々たるオーラを発して神剣は宙に浮かんで停止した。


自らが突き破った屋根の穴から、ちょうど光が差し込むその位置。

まるで讃えるかのように、一筋の光が神剣にむけて降り注ぐ。


黄金の光を反射させ、光を一身にその身に受ける神剣。


そのあまりの神々しさに、俺は一瞬魅入られる。


この剣を使いたい。

この剣で敵をばったばったと倒しまくりたい。

この剣で栄光をものにしたい。


そんな願望が自然と頭にわいてくる。

俺の右手は自然と神剣の柄へと伸びた。


「頼むぜ神剣…」


そして俺は剣の柄をギュッと掴……もうと思ったが、

緑の悪魔の血をポタポタ落とす剣の柄が目に入る。


「………」


持ち上がったモチベーションが一気に下がるのを感じる。

気づいた時には方向転換。

回れ右して伸ばした右手は空を切る。


すんでのところで、右手に謎の緑の液体が付着する事態を

回避することに成功した。


【……】


神剣は、宙に浮いたまま「はよ握ってくれやぁ…」と言わんばかりに俺の側へとにじり寄る。

俺はそれを、やんわり右手の小指を伸ばしてそっと押し返す。


結局俺は剣を掴むことなく、ふわふわ浮かぶ剣の横に並ぶように立ち並んだ。



「……」

「……」



ようやく舞台は整った。


火花が散る睨み合い。魔人と視線が交錯する。

一瞬も目線を外すことなく魔人と向かい合う。


数時間に及ぶ長い闘いもいよいよ最終局面。


準備は全て整った。今までは口八丁でペラペラと話してばかりだった俺が、

ついに直接対決に馳せ参じる……!!



「ちょっといいか」

……わけもなく。


「戦う前に話し合わん?」


小さく手を上げ魔人に提案する。

睨みつけていた険しい顔から一転、ヘラっとした能天気な顔で

俺は魔人に交渉を持ちかけたのだった。



✳︎



「よくよく考えたら、俺って別にお前と戦う理由が特にないんだよね。」

気軽な感じにヘラヘラ続ける。



「できれば戦いをしない方向で話し合いたい。どうだろう?」


和平の申し出。

俺は"予定通り"に交渉を申し込んだ。


「戦うのやめない?

お互いしんどいだけだって。どう?」


「……」



魔人は黙り込んだまま俺の様子を伺う。

何か裏があるのではないかと疑ってるのだろう。


「あぁ、すまんすまん。

こんな剥き出しの剣を持ちながら和平の交渉なんてふざけてるよな。」


「これならどうだ?」




そう言って俺は、

神剣をステンドガラスの外へと放り投げる。




自ら唯一の武器を放棄するという暴挙に、

魔人は驚いたように大きな目をさらに大きく見開いた。


「?!なっ・・・!?」


「もう一度言うぞ。俺はお前と戦うつもりはさらさらない。

これで少しは俺の本気が伝わったか?」


「……」


「信用できないなら、

お前の読心魔法で読んでもらってもいいぜ。」


「……では遠慮なく読ませてもらおう」



これっぽっちも信用していない様子で、

魔人は眉を寄せながらすっと額の瞳を閉じる。


魔法のことはわからないが、まさに今、俺の心を読もうとしてるのだろう。

そして同時に俺は心の中でサナに話しかけた。



(サナ。これからくる読心魔法は防がなくていい。


………あー、いやっ。待った。

本心も何もかも読まれるとまずいから、


「俺がこいつと直接戦う意思はない」ってことだけが

伝わるように防いでくれると助かる。

それ以外の考えは絶対に読まれないようにしたい。


もしも難しいようなら、今言ったことはやらなくていい。

こいつの読心魔法は丸ごと全部防いじゃってくれ)


心の中でそう念じる。

勇者の話によれば、念話を使うと魔人に盗聴される恐れがあるらしい。

その盗聴対策として、サナが心の中を読んで俺の意思を汲み取る…

という手筈になっている。


(…ちゃんと伝わったかな?)


なっているはず…なのだが、

どうにも話しかけてる実感がないので不安が残る。

ちゃんと伝わってるかしらん。


「たしかにお前からは私とやりあう意思は感じられない。」


さすがは敏腕助手サナ。完璧に仕事をこなしてくれたようだ。

疑っていた顔色が少しだけほぐれたのが見て取れた。

サナは指示通りにやってくれたようである。



「俺が嘘をついていないことは信用してもらえたか?」


「わかった。信用しよう。」

魔人はさらに続ける。


「……ふっ。

お前のおかげで私はアルゴス族の

念願ともいえる額の瞳を開眼することができた。


お前の頼みというならば、見逃してやってもいい。」



魔人はにこやかに頷く。

その表情は実に紳士らしく真摯さすら感じる表情だ。

ぱっと見では、俺の話を理解してくれたような面をしている。


が、こんなの誰が見たってわかる。

こいつは俺のことなど一つも信用していないし、生かして返すつもりもない。

どう油断を誘い、どう寝首を搔くか、そんなことしか考えていないだろう。



(だがそれでいい)



問題ない。何も支障はない。

魔人が信用してようとしてまいと心底どうでもいい。

この交渉で何かを得ようなんて考え俺にはさらさらない。


カレイとヒラメの違いくらいに、どっちでもいい。

どちらに転ぼうとも関係ないのだ。


作戦はすでに完了している。

賽は既に投げられた。俺の最大にして唯一の役目は

ついさっき完了したのだ。


あとは時間稼いで、来るべきタイミングに備えるだけだった。


・・・

・・

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