※神官ライラの視点
すみません。6話のまえに割り込みで追加してます
(メインの話にはあまり関係ないはなし)
(なんと気高い少年なのだろう)
スキル授与式で初めて彼と会った時、
私は彼の愛国心にとてつもない感銘を受けた。
「国のためにこの身を捧げたい」
そう言って涙ながらに語る少年に、私は心が奪われていた。
成人したといっても、16歳なんてまだまだ子供だ。
そんな子供が国のために力になれない自分を
恥じるように、涙を流すのだ。
(……到底、農民で終わらせていい器ではない。)
彼は王国にとって大きな財産になる。
私はそう確信した。
(なんとしても、彼を王国に引き入れなければ。)
全力で彼を守ろう。
私は彼を擁護するために動きはじめた。
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スキル授与式が終わった後。
神官たちで集まり、今年のスカウト生達の配属先を決定していく。
そんな折、とある神官が彼の話題を出した。
「例の"わからん"の彼。
正直皆さんどう思いますか?」
「あぁ、彼ですか。彼も今講堂にいるのですか?」
「いえ、講堂ではなく外で待たせているようです」
「……まぁ、不安定な立場にいますから仕方ないですね。」
話が逸れてるな…。
私はさりげなく会話を戻す。
「それで…例の彼の評価についてでしたか?」
「あぁ、そうでしたね。
能力の有用さはわからないですが、
有望であることに間違いはないと思います。」
「うむ。
我々教会に最も必要なのは強いスキルよりも、
その人柄や人間力だ。民を思い王国を思える人間ほど相応しい。
そういう意味で、彼ほど教会に相応しい人間は他にいないと思う」
「賛成だ」
「私も賛成です」
「賛成」
評価は上々。
教会の人間のほとんどが彼の採用に賛成していた。
彼の涙を見て、心揺さぶられない者はいなかったようだ。
……しかし。
「ワシはそうは思わん!」
助教が唾を飛ばしながら台を叩く。
彼こそが、スキル授与式で授与を行ったその人である。
「ワシにはわかる!あの涙は真実のものではない!
どうせ昔飼っていたカマキリを死なせたことを思い出して
泣いてるに違いないわ!!
反対だ!断固反対だ!あやつは嘘をついておる!
ワシにはわかる!」
「……」
……無茶苦茶だ。
助教のあまりに横暴な主張に他の神官達は閉口する。
近頃、助教様は様子がおかしいのだ。
助教になってから拍車をかけて横暴がすぎている。
「ワシの決定を伝える!
あやつは今、外に待機しておるのであろう?
すぐにここまで連れてきて打ち首にせい!
あやつのスキルは魔王様を継承した危険なスキルじゃ!
打ち首じゃ!はやくつれてこんか!馬鹿者!」
……この男は、助教という地位を
王様か何かと勘違いしているのだろうか?
とは言え、腐っても助教である。
彼の発言を立てないわけにはいかない。
私は折衷案を提案した。
「それではこうするのはいかがでしょう?
6ヶ月間だけ、雇用してみて経過を見るというのは。
それからでも遅くはないはずです。」
しかし助教の激昂は収まらない。むしろ加速する。
「なんなんじゃお主は!先程から!
なぜあやつをそれほど庇うのじゃ?!
もしやお主あやつに惚れでもしたか??」
この男は……。
「……助教様。それは明確な女性差別です。
撤回していただけますか?」
「ふんっ!どうせ惚れたのだろう?
だからワシは女に地位は与えてはならんと言ったのだ!
女はすぐに政治に私情を持ち込みおる!」
……。
私はチラリと同僚達を見る。
同僚達はコクリと頷いた。
よかった。"証拠"は無事録音できたようだ。
「助教様。最後にもう一度お伺いします。
撤回していただけませんか?
今の私情の話も含めて全て、撤回と謝罪を要求します。
明らかな女性蔑視ですよそれは」
「くどいわ!女は黙っていろ!」
「わかりました。」
……証拠は撮れたのだ。もう十分。
胸の内に湧き上がる怒りをグッとおさえる。
あとは然るべき上位機関に訴えて、
同僚たちの著名と、今回も含めたこれまでの所業のレポートを
不信任として突きつけて、退任を要求しよう。
……しかしそれでは遅すぎたのだ。
後手に回ったことを、私はすぐに後悔することになる。
「わかったわかった。
すぐに打ち首にすることはやめてやろう。
お互いの妥協点を探ろうではないか。
お主はあの小僧を雇って、我々の監視に置きたいのだったな?
ではその通りにしようではないか!」
助教は続ける。
「ただし!小僧に処遇を伝えた時に
もしも奴が断るようならもはや容赦はせん!
危険分子とみなしてその場で切り捨てる!
我々の管理に置かれることに少しでも迷うようなら、
すぐに手打ちにしてくれる!」
なっ…!
「お、お待ちください!それはあまりに」
「うるさい!これでも譲歩したんじゃ!
助教のこのワシが!元騎士なんぞのお主の
言葉を聞き入れたのじゃぞ!?
それにもはや遅いわ!事はすでに動いておる!
騎士団から2人、制裁者を手配済みじゃ!」
こ、この男は!
なぜこんな時にばかり仕事が早いのか!
話がそこまで進んでいるのでは、どうすることもできない。
……せめて、せめてその場に助教がいないようにしなければ。
「すみません、少しトイレに」
助教がいまだに喚き散らしているのを無視して、私は席を外す。
(大司教様にお話ししなければ…!)
助教のことを伝えて、せめてその場に
大司教様がいるようにしないと。
私は慌てて動き始めた。