第52話 恥将ディアルガス #1
誤字報告ありがとうございます!
20190724 像→象
「この状況で最も厄介な存在はなにか」
そう聞かれた時、俺ならなんと答えるだろう。
「危険」と言う意味であれば魔人一択なのだが、
「厄介」という意味においては答えは変わってくる。
今現在、最も厄介な存在とは?
そう聞かれれば、俺は迷わずこう答える。
ティタノデビルの集団こそ最も厄介である、と。
✳︎
ティタノデビル。
巨大なサメ頭に、体長10mに届かんとする巨大な体。
俺の最大戦力であるアリアでさえ、
たった一匹のそいつに「絶対に勝てない」と
言わしめた。
そんな悪魔がなんと未だに三体もいるというのだ。
アリア1人しか戦力がいない俺たちにとっては、
あまりにも多勢無勢。
ライオン1匹 vs 象3匹のスペシャルマッチの結末なんてやるまでもなく見えている。
加えて、礼拝堂にはまだ人が沢山いる。
悪魔どもが散り散りになって攻撃でもし始めたら、
もはや手のつけようがない。
集団としての強みに加えて、単純な個としての強さもかね揃える。
厄介だ。ほんとに厄介だあの集団。
なんとしてもあの三体を排除する必要があった。
最優先でなんとかしたい。しかし策は何も浮かばない。
三体のつよつよ悪魔を相手どれる戦力が単純に足りていないのだ。
(力の勝負じゃ絶対勝てない。もっと別の可能性を考えないと…)
悩んでいたそんな時に、
魔人のことを詳しく知る勇者との会話をきっかけに
俺は奇跡的に"活路"を見出した。
それはほんとに気まぐれ。なにも期待せずに、
魔人について知ってる話を全て勇者に話させていた時のことである。
「……え。まじか」
『うん。まじ』
その会話の中で、にわかには信じられないエピソードを俺は知る。
『〜〜〜というようなことで、ディアルガスは
過去に"こんなこと"をしてたんだよ』
「あのキモい悪魔相手に"そんなこと"やってたの…?
趣味悪いってレベルじゃねーだろおい。」
『いや、そうでもないよ?
君が思い浮かべてる悪魔って、羊とかサメとか、獣じみた外見だろ?』
「うん」
『あまり知られていないけれど、
実は彼らには本体があってね?本当の本体というのは…』
「?ほうほう」
・・・
・・
・
そこから聞かされたエピソードこそがまさしく活路。
そして俺は秘策を胸に動き出す。
勇者との会話を思い出しながら、俺は魔人相手にペラを回す。
プロペラばりのフル回転に回していく。
「どうしたーディアルガスー?
恐れが顔にそのまま出てるぞー?
ディアルガスー?ディアルガスー」
ディアルガスは、俺に名前を呼ばれてからずっと困惑しっぱなしである。
そこに付け込まない俺ではない。
モイスチャーシャンプーばりの毛根浸透力で、
俺は魔人の隙と言う名の隙間を侵略していく。
「ディアルガスー?
おーいディアルガスー?どうしたー?返事しろー。
ディーアールーガースー」
「それ以上その名でわたしを呼ぶな!!」
ディアルガスは悲痛に叫ぶ。
こいつの顔が歪めば歪むほどに、俺の顔も愉悦に歪む。
名前を呼ばれるのを何故嫌がるか、
俺はその理由をよーく知っている。
勇者から聞いた話を、あたかも最初から知っていたような面で、
俺はペラペラと悪魔を責め立てる。
「お前のことはなんでも知ってるぜぇ、ディアルガス。
智将ディアルガス。
顔についてるその沢山の目は、あらゆるもの見通す力を持ってるらしいじゃん。
その全知の目は、勇者達からはそりゃもう
恐れられたんだろう?ええ?」
さながら串焼き屋自慢の伝統のツケダレ。
足しては付けて、
足しては付けてを繰り返す。
言葉をとくとくと足していく。
タレを絶やすなどんどん入れろ!
ほいさほいさと足し入れる!
「お前の眼力はまさしく全知全能。
その絶大な眼力は、文字通りに全てを見通し、全てを把握する千里眼。」
足す。
「どんな攻撃だろうとどんな戦略だろうと、
立ち所に見抜くことができるらしいじゃねーか。
いやー、大したもんだよ」
足す。
「ほんと敵わんわ!お前の目の前では全てがまんまる素っ裸!
お前の全知の目の前じゃ隠し事なんてできやしねぇ!」
足す。
ついでに、"本題"に向けたジャブのパンチも注ぎ込む。
「その強大すぎる力は、人間どころか
"お前の仲間達でさえも"恐れられていたらしいな!
そうだろ?ディアルガス」
"お前の仲間でさえも"。
そのワンフレーズにスタッカートをかまして強調していく。
「……」
魔人は無言である。今更知らぬふりをかますつもりでいるようだ。
だがそれでいい。俺の狙いはお前じゃない。
物言わぬ後ろの本命。
サメ悪魔の様子をさりげなく伺いながら、
俺は更に言葉を足していく。
「へいへーい、ディアルガスゥー。
なんで身内の連中からそんなに恐れられてたんだー?
仲間からしたら頼もしいことこの上ないはずじゃないか!
尊敬されこそすれ、恐れられるなんてちょっと変だよなぁ。
なんでだー?教えてくれよーディアルガスー」
クールを装うとしていた魔人だったが、
みるみるうちにその顔は恐怖と怒りで引きつっていく。
「き、貴様……貴様は一体どこまで知っている……!?」
「ん?俺は知ってることしか知らないよ?」
のらりくらりと質問を交わす。
そして俺は再びティタノデビルの集団に目を向けた。
「……」
臨戦態勢で息巻いていたサメ頭の悪魔たちは、
今やすっかり攻撃性を潜めている。
悪魔たちは、無表情のサメの顔でじっと己の指揮官を見ていた。
(興味津々、って感じだな)
食いついた。狙った魚がようやく餌に食いついた。
しかしまだ本題は出さない。竿を引き上げるにはまだ早い。
俺はルアーをクイッ、クイッ、と挑発させる程度にとどめておく。
釣りとは駆け引きだ。サメなんて大物を釣るからには、
それ相応の準備というものが必要なのだ。
「にしても本当に便利だよなぁ、お前の力。
ある時は、敵の弱点や能力をその目で見通して、
敵の不意をつく策を編み出して…。
またある時は、味方のコンディションや適性すらも見通して、
適切な戦力コントロールを行なって…。
それはもう大活躍だったらしいじゃねーか!
えぇ?めちゃくちゃ優秀じゃんお前!」
「……」
「お前ら魔王サイドからしたら誇るべき偉業だよ。敵ながら天晴れだ!
…ん?どうした?何故はずかしそうに体を曲げて怯えてる?
何を恥じる必要があるっていうんだよ!!
胸を張れ!お前はすごいよ!俺が保証する!
正直俺はお前の能力がうらやましい!羨ましくて仕方ないよ!!!」
「や、やめろ……」
ピリッ
「まじですごい!
全てを見通す力なんてお前、男のロマン、男の夢の魔法だからな!」
「やめろおおおおお!!!」
ピリッピリッと。
何か電流のようなものが体を走る感覚。
しかしそれはすぐにパッと消えて無くなった。
「なっ!?」
ん?こいつもしかして何か俺に魔法をかけようとしてるのか?
密かに何かに驚いている魔人だったが、
裏で何が起きてるかなんて俺にはなんのこっちゃわからん。
特に体に異変はないので、お構い無しにベシャリをつづける。
(さーて、そろそろ打ち込むかぁ)
三体の悪魔の様子をもう一度確認する。
サメの顔の表情なんてわからない俺でも、
「興味津々続きはよ!」な感情がありありと浮かんでいるのがわかる。
よっしゃ。そろそろ本題を打ち込むか。
「全てを見通す全知の目。
それは文字通り全て見通すんだろ?
お前の前じゃなにもかもが素っ裸。素っ裸ーニバルだ。
隠し事もなにもできたもんじゃない!」
悪魔どもよーくきけ!
これがお前の上司の犯した過ちだ!
耳かっぽじってよーくききやがれ!!
「それはもちろん、心の中だけには止まらない。
物理的なものだって何でも見通し見透す!」
「いいかよく聞け!
こいつは実は一度、お前らの魔界から追放されてる!
こいつはその昔、女子更衣室の中をその目を使って部下のパンt……」
「皆の者聞けええええええええ!!!」
肝心の話をしようとしたその直後、
ディアルガスは俺の言葉を強引に遮りにかかる!
「この男は嘘偽りで、我々を謀ろうとしている!!
そもそも私はディアルガスではない!
お前らも知っての通り、ディディガルスが私の名前だ!
いいか!騙されるな!こいつが今から言おうとしてることは全て嘘だ!」
すかさず俺は割り込んだ。
「へえ!名前変えたんだ?」
「っ!」
「いいアイディアだな!
あれから何百年も経ってるわけだし?
名前変えて、何百年も経っちゃえば
昔の"不祥事"なんて誰もしらなくなるもんな!
やるじゃん、考えたな!さすが智将ですわ」
パチパチ、と俺はわざとらしく拍手する。
お前のターンはもう来ねえ。ここから先はずっと俺のターン。
言葉を詰まらせた隙を見逃さず、俺は更に更に言葉を足す。
「どう?"あれだけ"の不祥事やらかしてからも
同じ職場にいるみたいだが、うまくやってけそうかい?
昔のお前がしでかしたことは、まだ職場にバレてないのかい?ん?」
「全員耳を閉じろ!
奴は何か催眠スキルを発動しようとしている!
いいか!耳を閉じろ!命令だ!!」
「……」
「……」
「……」
三体の悪魔は顔を見合わせ何事かを相談し始める。
すると、一際大きな一体の悪魔が一歩前に出て呪文のような言葉を喋り出した。
「"武装解除"」
ギャーでもビーでもギギギでもない。
悪魔から聞こえてきたのは流暢な言葉。
GyaGyaと叫んでいたのが嘘のように、凛とした"女の声"が聞こえてきた。
「お、おぉ…?」
俺はその意外すぎる光景に、感嘆の声が漏れる。
勇者から"その話"を聞いてたとはいえ、直に見ると驚かざるを得ない光景だ。
唱えられた"武装解除"のその言葉。
すると、分厚く大きくまとわれていたサメ悪魔の体が、
シールを剥がすが如くぺりぺりと剥がれていく。
10mはあろう悪魔の上半身の大半は、
今や解かれたテープのようにバラバラになっていた。
「指揮官殿。その命令は従うことはできません」
そして中身が晒された上半身。
サメ頭の悪魔の上半身から現れたのはひとりの"女"だった。
肌は人間と変わらないピンクの肌。
ツノや羽、尻尾も生えていて見るからに人間ではないのだが、
それ以外の体の作りは人間と全く変わりはない。
生真面目そうな顔をしたわりに、ボンッキュッボンなエロむちむち悪魔女が
突如姿を現した……!
(……エロくね?)
いや、あれ?つーか、これ思ってたよりも、
思ってたよりも、え、エロ、え、えろえろなんやがぁぁぁ……?
「ば、ばかもの!!
戦闘中に"武装"を解くバカがどこにいる!!
は、はやく武装を身につけろ!」
「いいえ、できません。
この武装をつけたままではマトモに喋る事もできないので」
そう言うと、悪魔女は俺の方をジロリと睨む。
早く続きを話せ、と言わんばかりのきつい眼差しである!
ぱっと見清純派!
黒髪ロング!真面目そうなビジュアルのくせして
体がとことんエロムチムチガール!
そんな彼女からきつい目線で睨みつけられたのでは、流石の俺も敵わない!
彼女と出会ってから、俺の潜在的なドM心がふるふると震え出して止まらない!
悪魔女の目線に屈服するように、
俺は智将ならぬ恥将ディアルガスの過去をつまびらかにしていった…!
作者を助けるつもりで是非ブクマとポイントよろしくお願いします!




