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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第4章 魔人討伐! 〜初心者編〜
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第51話 厨二の剣

「それでは、タケツ様の体をもとに戻しますね」


時はきた。いよいよ時間が再開される。


「タケツ様の精神が戻った直後に、悪魔たちの精神も動き出します。

心の準備は大丈夫ですか?」


「おう」


「……一応、念のために言っておきますが」


サナは俺のすぐ目の前にいる悪魔を見ながら話を続ける。


「精神が体に戻ったら、

真っ先に神剣の名前を呼んでくださいね?

そうしないと、あの悪魔4体倒せませんからね?」


「わーってるよ」


「フルネームでですよ?ちゃんと言えます?」


非常にどうでもいい事実だが、

実は俺の口からあのクソダサ厨二剣の名前が口にされたことは一度もない。


サナはそれに気づいているようで釘をさすように言ってくる。


「タケツ様、結局一度も神剣の名前言ってませんよね?

練習したほうがいいんじゃないですか?」


「いらん」


「練習した方がいいですって」


「いらんて」

何度も叫びたくないわあんなダサダサネーム。


「はぁ…」

そして俺は長い溜息を吐いたのだった。

「………言いたくないなぁ。」


「それでも言うんです!」


「もういいよ。はやはじめてくれや」


「もう…あとから後悔してもしりませんからね?

それじゃあいきますよ?」


「おう」


「3、2、1……はいっ。」

サナは指をパチンと鳴らす。


「……んおっ!?」


すると、俺の体を未知の浮遊感が襲ったかと思えば、

スルスルと、俺の体は自らの体へと吸い込まれていったのだった…!



・・・・

・・・

・・


【パチン】


再び聞こえる指の音。

俺の意識は朝普通に目を覚ますように覚醒する。


「はガッ!」


その途端、ずっしりとした重みが体を襲う。

幽体として浮いてた時には感じなかった確かな質量。

手足を動かすと確かに感じる空気の感触。


実感する…!

これだ…!これが俺の体だ!!


(戻ってこれた…!!

戻ってこれたんだな俺の体に!!)


精神だけ切り離されたり、幽霊みたいな状態にされたりと散々な目にあったが、

なんとか無事に戻ってこれたのだ!


「おぉ、愛しのマイボディ……!」


感無量!俺は己の体をひしと抱きしめる!

無事に体が戻ったことに俺は感激した!


「Gyaaaa!!!」


「ととと!?感激してる場合じゃねえなぁ!?」


「Gyaaaa!!!」

「Gyaaaa!!!」

「Gyaaaa!!!」

「Gyaaaa!!!」


感慨に浸っている時間はない!

止まっていた時間はすでに動き出したのだ!


迫り来る悪魔の魔の手。

数メートル先には既に4つのサメ頭!



(や、やばい!思いの外はえーなこいつら?!)



サメなんて所詮は魚類!

陸に上がったサメなど恐るるに足らず!

……とタカをくくっていた過去の俺はもう死んだァ!


なんかこいつらやけにはえーぞおい!?

はやく神剣の名前を呼ばないとマジで死ぬこれ!?


恥ずかしがってる暇もなく、俺は大慌てでその名を叫ぶ!



「エターナルブレイブブレードフォーエバー!」



あぁ……っ。声高に叫びながらつくづく思う…っ。


(やっぱりダサいなこの名前!口当たり最悪だ!)


そして俺は名前を呼ぶと、

すぐさま身を守るように体を縮こませた。


(後は任せた神剣様ァ!

なんでもいいから俺を助けてクレメンスゥゥゥ!)


名前を呼べばなんとかなる。サナも女神も確かにそう言った!


しかし……!しかし事態は変わらない!

剣が助けてくれると言っていたのに、まるで助けてくれる気配がない!


「Gyagya!」


あれーーっ!話違くなーーーいい!?


そしてあっという間の1メートル!悪魔の爪はもうすぐそこだ!

お隣さんの幼馴染がベランダの窓から手を振って朝の挨拶をかますくらいの親密☆距離感!

友人にしても近すぎる距離感で、悪魔のサメ頭が肉薄してくる!



(は、話がちがう!違うぞおおおおおおおおお!)



神剣がなんとかしてくれるんじゃなかったの!?


あぁ、もうだめだ!ここで死ぬんだ!

完全に諦めかけたまさにその時、「正義の味方」が鮮烈に参上する!


「!?」


その瞬間、俺の感情は「驚愕」の二文字で占有される。


そして俺の脳裏にサナの言っていたあの言葉が蘇る。

「正義の味方はいつだってピンチの時にしか姿を見せない」

その言葉の真意を、俺は自らの体で実感することになるのである。



✳︎


変化は音となって現れる。

聞こえてきたのは謎の声だ。


【Yes!Execution of Your Justice!】


「えっ!?」

「Gya!?」


それはあまりに劇的。あまりに陶酔的。


突如空から響き渡る謎のアナウンス。

超大音量のその声が、広い礼拝堂をグワングワンと震わすほどに反響する。


声というにはあまりに不粋、あまりに不快。

声とは名ばかりのその"騒音"が、

俺の耳めがけて全力タックルをかましてきたのだ!


【Yes Justice!】

【Yes Justice!】

【Yes Justice!】


低くて渋いダンディズムなその"声"に、

その落ち着いた声質とはあまりに不釣り合いなその"騒音"に、


戦っていることも忘れ、俺と悪魔はポカンと2人して空を見上げた。



【Stand by.Reay.....Go!】



そして状況は一変する。

謎の館内アナウンスを皮切りに、事態は大きく急変したのだ!


「お、おぉ…?」


まずは音。

ヒュルヒュルー…と、打ち上げ花火が打ち上がるような不思議な音だ。


【Yes Justice!】

【Yes Justice!】

【Yes Justice!】


空に見えるは黒い星。

空に浮かぶは小さな黒ボクロ。

謎のセリフが軌跡を描いて参上する。


俺は呆然と空を見上げて、その黒い点をじっと見つめる。

その黒い点が空へ空へと登っていき、そして……静止。


しかし止まっていたのも一瞬のこと。

その黒い点は今度は、徐々に徐々に大きくなりはじめるのだ!


「あれ?この黒い点もしかしてこっちに近づいてない?!」


そう気づいた時にはすでに眼前!


【ヒュンッ】


空気との摩擦音が耳に入り込む!


それが一体どんなものでどんな大きさか、

それすら視認できないほどの超高速!

そいつはあっという間に俺の元へと落ちてくる!


「お、おぉ…」


さながら雷。一直線に地上に落ちる雷だ。

上から下へ。空から地上へ。

写真に写りこむスカイフィッシュのごとき残像。

俺の視界が一本の"線の軌跡"を映し出す。


必死に目で追おうとした。

見上げた首を慌てて下へと振り下ろした。


しかしまるで間に合わない。

"それ"はあまりにも早すぎた!

火のついた綿が燃え上がるほどのその早さで、

超速度そのままに"そいつ"は地上へ突き刺さる!


「Gy…?!」


悪魔の悲鳴は虚しく途中でかき消される。

ズドン……と地面を震わす大振動。

空気とともに礼拝堂ごと震わす重い音が、礼拝堂の音全てを支配する。


「い、一体何が…?」


一緒になって空を見上げた悪魔の姿はもういない。

ひらけてしまった目の前の視界。

画面を占有していた悪魔の姿は気づけばどこかに消え去った。


俺の頭はフリーズする。

僅か数秒の間に起きた出来事にまるでついていかない。

ただ呆然と、悪魔のいなくなった景色を眺めていた。


しかし、そんな時間も一瞬だ。

ハッと我に帰り、俺は遅れてようやくこの事態を把握した!


「そ、空から神剣が悪魔めがけて降ってきた……?」


そう言うや否や、俺は慌てて墜落した先を覗き込む。


「うわぁ」


「……」

「……」

「……」

「……」


見なきゃよかった…

そう思った時にはすでに遅い。

ステンドガラスから見下ろすその光景は、あまりに凄惨だった。


(うわぁ…グロォ……)


例えるなら、地面に刺さった焼き鳥のつくね。


焼き鳥屋のおっちゃんが3つの肉玉のついたつくねに、

一つだけ玉をオマケしてくれたような、

そんな有様のつくね棒が地面に突き刺さる。


もはや悪魔たちに発される言葉はない。

地面に縫い付けるように、悪魔の体は

神剣によって地面に深々と突き刺されていたのであった。


グロい……グ、グロいんですけどぉぉぉ!?



【OK……This is your Justice……!!】



地面に突き刺さった剣がなんか言ってる。


神剣の剣身はまるで自慢でもするかのように、

悪魔の血でその身をコーティングし、キラリと光を反射させる。


悪魔の緑の血に着色された剣の柄を見て、

密かに俺は心の中で誓った。


(よし。ここに宣言する。

あの剣の柄を握ることは金輪際ない)


絶対に握らない。何が何でも心に誓った。

あんな柄さわったら絶対なんか病気になるわ…グロ汚ねぇ……。


そんな緊張感のないことを考えながら、

ちらりと俺は悪魔の親分に目線を向ける。


「!?!?」


悪魔の親分は、それはもーーー驚いていた。

目を見開いて俺を……いや、神剣をじっと見つめていた。


「そ、その剣はまさか…?!

なぜ貴様がそれを持っている!?」


おん?その口ぶり的に

この剣のこと知ってるのか、こいつ。


「おー。さすが古参の魔人ディアルガス。

こんな大昔の剣のことも知ってるんだな」


「!?き、貴様なぜその名前を……?!

なぜ昔の俺の名前を知っている…?!」


ウヒョゥ!驚いてる驚いてる!



「なんでだと思う?

ねえねえなんでだと思う?」


ニヤニヤしながら俺は顔を上げ、

初めて見せるその悪魔の動揺顔を、心の中にしっかりと記録する。


ここからずっと俺のターン。

よくも今まで好き勝手やってくれたなぁ……ええ?悪魔さんヨォ……

勇者から聞いたお前の黒歴史、徹底的に有効活用させてもらうからなぁ!!


一転攻勢。

ニヤリと俺の口元が上がった。



完全に私事の報告です。

2019/7/24発売の手品先輩のアンソロにアオノテ名義で参加しました。よろしくお願いします。

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