第48話 結界対策 #2
「あ、いけそうですね。」
「マジか」
思わぬ事実である。
黒い指輪は古代文字の書き換えできるようだ。
神力とかいう謎パワーしか書き換えられない不便なものとしか
思っていなかったので、中々にびっくりな発見である。
(他にも色々できるのかもな、この指輪)
サナはこの黒い指輪の機能を
「読み込み」と「書き込み」と言っていた。
今回のように神力以外でもそれらを発揮できるのなら、
他の事にも活用できるかもしれない。
(興味深え…)
しげしげと指輪を眺める。
どんなものをどこまで書き換えられるか、実験したさがあるな。
「どう変更します?」
……とと、いかん。
別ベクトルに思考が飛んでいた。
「複雑なのは無理ですけど、ある程度なら書き換えられますよ?」
さてどうしよう。
古代文字は複雑らしいし、できるだけ簡単そうなお願いの方がいいだろう。
簡単に、簡潔に結界を無効化する方法…。
「…そうだな。それなら、
結界の範囲を変えることってできるか?」
「それなら簡単ですね。
ロジックはいじらずに、範囲の長さの定数を変えるだけなので」
「じゃあそれで頼む。
範囲の長さはその石と同じくらい…。
いや、少し大きいくらいの範囲で頼みたい。
できそうか?」
「できます。」
少し物足りなさげにサナは続ける。
「……他にはなにか要望ありますか?」
「いや、それで十分だよ」
それだけ範囲を小さくできれば
結界は実質無くなるようなものだ。
加えて、あの悪魔がこの石をどうにかしようとしたとしても、
結界が邪魔をして余計なことはできないはず。
なんせこの結界は、援軍も寄せ付けず、
協会の助力要請の魔法も弾いたつよつよな結界だ。
亀の殻にこもるがごとく、結界で包んで仕舞えば、
何物も干渉できない魔法の石となるだろう。
一石二鳥、いや、簡単に加工もできることも加味して、
一石三鳥くらいはある作戦である。
「そうですか」
非常にコスパのいい良い作戦だが、
サナはどこか不満げ。物足りなさげに頷いた。
なんとなく、サナの心情を察する。
「……もしかしてもうちょい書き換えしてみたかった感じ?」
「いえ、そんなことは」
「正直に言っていいぞ」
「…………もうちょっとだけ
いじってみたいかなー、とは思いました」
ふむ。
さっきの反応的に、サナもこの黒い指輪が魔法文字を
書き換えられることを知らなかったのだろう。
この指輪がどれくらいのことができるのか、
試してみたいのかもしれない。
俺としてはその気持ちは大変共感できる。何か考えてみるか。
「そうだなぁ…」
うーん。
「例えば、俺の周りにだけ結界張れるように改造してくれ、
とか言ったら対応できるか?」
「!!時間をいただく事になりますけど、
やろうと思えばできると思います!!」
ぴょこんと嬉しそうに跳ねるサナ。
どうどう、と落ち着かせるようにサナの頭に手を置いた。
「どうします?やってもいいですか??」
なでなで。
「時間はどれくらいかかる?」
「2時間くらいです!」
ちょっと長いな。
「ちなみに、その間ももちろん精神は止めていられるので、
悪魔の人達のことはきにせずに作業できます!」
サナは元気よく答えた。
いくらでも精神を止められるというのは大変良い事だし、
時間を気にする必要はないのかもしれないが…。
「2時間後となると……日没が始まってるな」
この礼拝堂は、日没が始まると方角的にモロに西日が差す位置。
あの悪魔が夕日を目にしたら、
体内時間と実時間とのズレに気づいてしまう。
「夕暮れまでかかるとなると、日の光で
悪魔たちが時間のズレに気づく可能性が高くなる。
俺としては、結界に小細工をいれてる今こうしていられる時間、
この空白時間の存在をあいつに悟らせたくない。
何か細工をされたかも、って疑念を抱かれること自体、リスクになるからな。」
「それは、そう、ですね…」
「だから、あいつらに時間の経過を悟らせることは避ける方針で動きたい」
おそらく、あいつらの頭の中では
今もなお結界は稼働中という認識のはずだ。
その勘違いは正したくない。
勘違いしてるなら、そのまま結界が動いていると思い込ませたい。
その勘違いでどうこうするつもりはないが、
情報は新鮮さが命。新鮮な情報で戦況が左右されることは往々にしてよくあることだ。
情報的なアドバンテージを得て損はないだろう。
「……うん、そうですね。仕方ないですね」
見るからに物足りなさげである。俺は頭をなでなでしながら伝える。
「2時間は流石に無理だ。なげーもん。
でも10分くらいならいじってもいいぞ」
「!ほんとですか?!」
「うん。
あ、でもその前にひとつ仕事をやってからな」
「わかりました!なにをすればいいですか??」
どうどう。
ゆさゆさと跳ねるサナの頭を落ち着かせる。
「前にサナに索敵してもらった時に
周りに一人だけ人間がいる、って言ってたよな?
そいつが今どこにいるか俺に教えてから、
好きなようにやっちゃってくれ。」
「わかりました!」
うずうず、うずうずと早く指輪を使いたそうに揺れるサナ。
ついでとばかりに俺はとあるお願いも追加する。
今後においてめちゃくちゃ重要なお願いもさらっと織り交ぜる。
「あぁそうだ。
ついでに、そいつに念話で俺の伝言を伝えてくれないか?」
「やります!」
「ありがとう。内容は、
『礼拝堂まで来たらなんでもいいから合図を送れ。』
『あと、悪魔にお前の存在を絶対に気取られないように動け』
でたのむ。」
「はい!わかりました!」
今にも駆け出しそうな勢いでサナは続ける。
「ほかに何かあります??」
「もうないよ。始めちゃってくれ」
「わかりました!」
"あぁっ!もう1分経った!急がないと!"
そんなことをつぶやきながら、サナはワタワタと
元気よく先ほど唱えていた索敵の魔法を唱え始める。
素直なええ子ですわぁ…。
そしてそれから十分ほど、
俺はサナが楽しそうに指輪で改造してるところを眺めて時間を潰した。
・・・・
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非常に私ごとの報告ですが、7/25発売の某公式アンソロの漫画にアオノテ名義で参加することになっています。
発売されたらタイトルを言いますが、ご興味のある方は是非お買い求めください。




