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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第3章 神界へようこそ!
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第43話 今度こそ脱出

2019/7/13

最後の三行を追加

あれから俺は、勇者との交渉の末に

喋る権利を手に入れることができた。


そして再び戻ってきた元の部屋。


手のひらをグーパーと開いては閉じてみる。


手も動かし耳も聞こえた。

どうやら、動かせるのは声帯だけではないらしい。

声だけでなく体も自由に動くし、音も聞き取れるようだ。


完全なる五体満足。


(か、かんぺきだ……!)


ここまでは超順調!

思い通りに事が進んでいる!

そして意気揚々と、俺は最後の切り札を取り出した…!!



「コ、コール……」


「イグ……イグジッ……」



絞り出すのはあの言葉。

サナがこの部屋から出る時に使ったあの言葉だ。


(この言葉さえ唱えられれば、ここから脱出できるはず…!)


ここから脱出して、全てを終わらせよう!

その一心で、なんとかしてあの呪文を口にしようする!

……す、するのだが。



「イグジ…イグジッ……」



しかし言葉は途切れ途切れ。

どういうわけか、うまく発音できないのだ。


(う、うまく喋れねえ!

主導権を奪われた影響なのか!?クソッ!)


焦る。焦る焦る焦る焦る。

歯がゆい気持ちで試行錯誤していたそんなとき、

女神の声が聞こえてきた!


【タケツ様!?タケツ様なのですね!?】

「……イグジッ……ト……」


【何か伝えたいことがあるんですね??

どうぞおしゃべりください!頑張って!】

「イグジッ…ト……」


【ふれー!ふれー!タケツ様!

がんばれー!がんばれー!できるできる!】


「……」



うるせえええええ!!!

すでに頑張ってるやつ頑張れ頑張れ言うのやめろや!!!!


(こいつだけは許さない…こいつだけは…!!!)


"絶対にいつか、復讐してやる。"

俺は心にそう誓う。


俺が勇者に体を奪われるに至った原因は

どう考えてもこのクソ女神にある!


この女神が勇者パックを俺に勧めてさえいなければ

こんなことにはならなかった!


この勇者パックを使うと人格を乗っ取られるなんていう

致命的すぎるバグが存在しなければ、

こんなことにはならなかったのだ!!


元は自分がしでかした不始末を、

自分は頑張らずに、他人事のように

俺にばかり頑張らせようとするクソ女神に、

俺は内心ブチ切れていた!


(許さん絶対に許さん……いつか絶対に、俺が味わった以上の苦労を

こいつに押し付けてやる……!!)


加速する女神への怒り。そして図らずも、

その怒りが俺を前へと突き動かす!



(気合いだ!気合いで乗り切れタケシ!

要は気持ちの問題だこんなものは!

できる!俺ならできる!やってやれ!!)


【がんばれ!できるできる!気持ちの問題だよタケツ様!

タケツ様ならできる!】



気合いを入れたタイミングで、俺が考えたことと

おなじような論調で女神が横槍をいれる。


もはや女神の応援は怒りの燃料でしかない。

俺は更に怒りのボルテージを高めていく…!


そしてついに!


「コール……イグ、ジット、コマンド……!!」



✳︎



や、やった!言えた!


『"コール : exitコマンド"』

それこそが俺の隠していた切り札!


サナが部屋を出るときに唱えたこの言葉、

この言葉さえ唱えれば、サナのようにここから脱出できるはず!


(さぁ唱えたぞ!!

さっさと俺をここから脱出させろや!!)


しかし


(あ、あれ?)


変わらない。

俺が必死に叫んだ後、部屋は刹那の沈黙に包まれる。


(な、なにも起きないぞ?)


えっ……ま、ま、まさかここに来て、

この呪文じゃ脱出できないとかそんなことないよなぁ?なぁ???


何も起きずに絶望している俺に、

女神がハッ!と驚くように声をかける!



【タ、タケツ様がなぜ神界コマンドを知ってるんですか!?

そのコマンドは、神界の者しか知らない我々専用の

門外不出の専用コマンドのはず…!?

なのにどうして…?!】


門外不出…?

いやお前の愛弟子がふつうに俺の前で使ってましたけど。



【と、とにかくタケツ様!その発想はめちゃくちゃナイスです!!

なるほど、まだexitコマンドがありましたね!】


【ここから外に出れば、黒い指輪と神界サーバーとの接続が切れるので、

勇者からの干渉も受けずに済む…!


ナイスですタケツ様!

それなら、スキルの転送も止まるはずです!

その発想はありませんでした!】



「で、で…も、な、にも」

(翻訳 : でも何も起きてねーじゃんどういうこと!?)



【タケツ様の現在の権限レベルではそのコマンドは使えないんです!

このコマンドを使えるのは、管理者権限を持ってる人だけなので!】


権限…?

なんか知らんがはやくその権限とやらをあげてくれ!!


【待ってくださいねー!

いまタケツ様の権限を "最高レベル" に引き上げてくるので!!】


最高レベル…?

いやまて!最高レベルはやめろ!

なんかまた面倒なタネになりそうだ!やめて!


「さい…や、やめ……」


しかし今の俺の言葉は届かない。

そういうと、女神はガタガタと何かを漁る音を

響かせながら、マイクの前から消えてしまう。



そして図らずも、時間にゆとりができた。

最高レベルに引き上げられるのはそれはそれで気になるが、

今はそれよりも優先すべき事がある。


(待ってる間に、俺もやることやっとかんと)


女神が何やら準備をしている間、

部屋から出た後のことに備えて俺はサナを呼び寄せる。


「サ、ナ……こっちに……来、い……」


途切れ途切れの言葉でサナを呼ぶ。

そういうと、サナは素直に俺のところへやってきた。


「そ、こ、の……神剣を、俺の腰に、さしてく、れ…」


神剣エターなにがし。

女神に渡されてから、地面に置きっぱなしにしていたその剣を、

腰のベルトに無理やりさしてもらう。


「あり、がと、う」


「……」


サナに礼を言う。


…?しかしサナは終始無言だった。

おまけに表情もずっと無表情のまま。

どうにもさっきから様子がおかしい。


『それは、"絶対服従"のスキルの影響だと思う』


(あん?)


頭に響く見知った声。この声は……勇者か?


『サナ・アルカナは今、服従スキルのせいで洗脳状態にある。

サナの洗脳を解除してあげて。そうすれば元どおりになるよ。』


(へぇ?)


突然の勇者の声に驚いたが、

俺はすぐにいつものペースで返事を返す。


(へぇ。アルカナっていうんだ?

サナはそんな苗字なんだな。よく知ってるなぁお前。)


『……』


探るように聞いてみたがスルーされる。

まぁいいや。


(お前の言う通りにしたいけど、

でも言葉がうまく喋れなくて言える気がしないんだわ。


お前これの原因知らないか?

なんとかできないか?)


『……』


(……つーか、ぶっちゃけ

未だにうまく喋れないのって、

お前がなんかやってるからだろ?


話がちげーじゃねーか。はやくなんとかしろや。

これじゃサナを解放できねーぞ。)


『……わかった。』


「あ、そこは素直なんだな」


『うるさい!

ほら、直したよ。はやく解放してあげて』



勇者がそう言った途端、

かけたピースが合わさったような、そんな不思議な感覚がやってくる。


"喋られる"

そんな確信が訳もなく湧き上がる。

そして俺は息を吸い込み、サナに語りかける。



「サナ。服従はもうしなくていいよ。」


(ピクッ)


サナの体がピクッと小さく震えた。

……これで服従状態は解除されたのかな?


(うーん)


なんとも判断がつかんな。

俺は更に言葉をつなげる。


「服従はしなくていいし、

今後はサナが思う通りに、自由に行動してくれ。

誰の命令にも嫌々従う必要はない。好きなようにやれ」


少し間を置いて、更に繋ぐ。


「でもその代わりに、

俺にベタ惚れしてめっちゃ懐いてみてくれ。

俺のことはお父さんと考えてもらって構わんからな。


困ったらいつでもお父さんに相談しなさい。」


『はぁ!?!?!?』


勇者が戸惑いの声をあげたその直後、

サナが俺の方をガバリと見上げる。その顔は真っ赤に赤く染まっていた!


「!?!?!?」


見上げて俺の瞳をじっと見ていたのもつかの間、

ボッとさらに赤面したサナは、

俺の視線から逃れるように、すぐに顔を伏せる。


頬に手を当てながら、困惑したようにそっぽを向くサナ。

そんなサナの頭に手を置いて、俺は優しくなでなでした。



「うむ。洗脳は無事解除できたみたいだ」


「タ、タタタタケツ様???

え?え?こ、これはいったい??こ、この気持ちは……??」



そっぽを向いて恥ずかしがるサナに、

俺は再び語りかける。



「サナちゃーん、サナちゃんは今日もかわいいねえ」


「……?!?!?!」



サナは絶好調に頬を染める。

自分の感情が理解できないように、最高に困惑した顔でいた。


そんな俺たちの様子を見守っていた勇者が

漏らすように言葉をつぶやく。



『きみは……』


「ん?どうした?何か不都合でもあるのか?」


『……べつにないけれど』



さて、服従スキルだったか。


便利だなーこれ。ちょっと便利すぎて怖いくらいだわ。

"最後の仕事"をしてもらってから、このスキルには退場してもらおう。


「あー、あとついでに勇者さん。ついでに命令しとくぞ。


金輪際お前が俺に危害を加えることは許さん。

俺の命令には基本従え。嫌な時は応相談だ。


もう一度言う。これは"命令"だ。

服従しろ、勇者イレブン。」


『なっ……!?』



よし。完了。

何かが俺と勇者の間につながった感覚。

服従完了、ということだろう。


あーよかったー…。

これで後顧の憂いも断てたぜ。


(はー、すっきりした。)


あまりに簡単に問題が解決していく様に、

驚きで言葉を失う勇者。


そんな勇者を放置して、俺はようやく一息ついた。

これでなんとか次の段階に行けそうだ。



【タケツ様ー!タケツ様ー!】



そしてようやく女神が戻ってくる。

勇者を無視して俺は女神に声をかける。


「どうだった?」


【成功です!

タケツ様の権限レベルを一気に上げておきました!

今ならさっきの言葉を使えるはずです!

ささ!お使いください!】



(よっしゃ!

これであとは唱えるだけだ!楽勝ゥ!)



なんか色々あったしバタバタとしてしまったけど、

最終的には上手く目的が達成できたなー。


腰にさした剣と、サナの頭を見下ろして俺は

満足したように頷いた。


ついでに、服従スキルによって繋がった俺と勇者の

見えない"線"もたしかめる。


(うむ。これだけあれば、

あの悪魔どももなんとかできるな、きっと)


あとは、イグジットコマンドを唱えて、再びあの礼拝堂にもどるだけだ。

それだけで俺の目的は達成される。



だがその前に……。


「そんじゃさっそく、帰らせてもらおう。



………ということで、帰らせてもらうけど、それでいいか?」



【え??もちろんいいです……というか、

早く変なスキルいれられる前に帰ってください!!】


いや、お前に話してるんじゃねーよ。


『……』


もちろん話しかけてるのは、俺の中にいる勇者の人格。


「なんか言うことあるんじゃねーか?なぁ、勇者さん」


『……』


「"お前なんかじゃこの状況から脱出できない"

って散々言ってたけど、

なんかあっさり脱出できそうだぞ?


いまどんな気持ち?ねえねえどんな気持ち??」


煽る。煽る。煽る。

さっきまでの煽りは戦術的な煽りだけど、

これは完全に私怨からくる煽りである。


「これが、お前と俺のやり方の違いだよ。

お前は良心なんていう曖昧なものに頼った結果失敗した、

俺は確固たる戦略で挑んだ結果、成功した。


どうどう?どんな気持ち?どんな気持ち?」



おらぁ!悔しがれ!悔しがれ!!

無様に悔しがって、カタルシスを俺にくれぇ!!


『……別に、なにも。


あ?


『君の好きにするといいよ。

もう僕に抗える手段はない。どうすることもできない。』


ポツリと拗ねたようにつぶやく勇者。

……もっとわかりやすく悔しがれやぁ…!!!

俺はもう少しだけ、煽ってみる。



「絶対服従のスキル、だったか?

そんな便利なスキルが使えることを俺に教えたのは明らかな失策だったなー。


あほー、あほ勇者ー。

あほーあほーって鳴いてみそ」



『そうだね。失敗だった。』

勇者は続ける。

『でも別にいいさ。

"最低限のこと"は果たせたしね』


「……あ?最低限のことだと?なんのことだ?」


『教える義理はない』


……こいつまだなんか企んでんのか?


「お、おい!わ、わかってるよな??


服従のスキルの効果で、お前は金輪際俺に危害与えることは

もうできないんだぞ!」


『わかってるさ。危害なんて加えるつもりはない。』


「……。」

ふ、不安だ。超不安。

え?なにやったの?なに企んでるの?まじで。


『……まぁ、安心していいよ。悪巧みとかではないからさ。

多分君からすれば本当に些細なことさ。

小さな小さな…些細で瑣末な僕の願望を叶えただけだから』



訝しむ。訝しみに訝しむ。

口ぶり的には、本当に悪巧みのつもりはないのだろうが、

当然俺としては看過できない。


こいつの中では危害にならないと言う認識でも、

こいつの想定外のところで危害になる恐れもある。



「……お前、俺がまだ服従スキル使えることを

わかってないみたいだな?」



なにを企んでる?全て話せ。

そう言おうとしたその直後、勇者は被せるようにこう言った。



『君もまだ、わかってないみたいだね。

今の僕は、君のためになることならなんでもできるんだよ?』


「はぁ?なにを言って…」


そう言うと、勇者はあの言葉を口にした。


『"コール : exitコマンド"』


「ええっ!?」


お、お前が言うの!?


再びペラペラと勝手に喋り出す俺の口先!

そしてその途端、俺の目の前の景色はガラリと変わっていったのだ!



・・・・

・・・

・・


薄れゆく意識の中、

俺の耳にはカタコトな日本語が残った。


(PiPIPi 記憶と人格の神力の追加インストール、完了しました)


そして俺の意識は深い闇に沈んでいった……


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