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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第3章 神界へようこそ!
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第42話 帰還…したいなぁ #4

(よくこいつここまで言われて怒らんな。

俺なら速攻でブチ切れてるわ。)


……とまぁ、ここまで、

勇者に対して散々責め気なことを宣ってる俺だが、


戦略のためにこいつをけなしてるだけであって、

実は意外や意外、俺の本心としては非常にこいつに同情的だった。


こいつの人生、中盤まではハッピーエンド一直線だったが、

終盤にかけてはマジであまりに悲惨なのだ。


ストレスをかけたいがために、知らないふりしてわざと記憶の説明をさせたが、

終盤の記憶についてだけは、実は俺もちゃんと覚えていた。

あまりの不憫さに思わず見入ってしまうほど、

可哀想なやつなのだこの男は。


・・・

・・


物語の終盤。


起承転結でいう「結」は、

魔王を倒したその後の記憶からはじまる。


国王は魔王を倒した勇者として大いに讃えた。

しかし、讃えたのはほんの数日の間だけ。


国王のその心の内は、すぐに嫉妬と不安に満ちていく。


元々、その国は先々代の勇者の功績で国を立ち上げた国だった。

王族の現在の権威は、ご先祖様の勇者の威光で成り立っているといっても過言じゃない。


しかし、自分の息子ではなく、王族の血筋でもなんでもない人間が、

勇者として成功してしまった。

当然、王族としては快く思えるわけがない。


加えて、加熱していく勇者の人気っぷりに、

国王は自身の地位が揺るがされるのではないか、と不安を抱き始めたわけだ。


それから国王はすぐにとある命令を部下にくだす。

勇者の悪い噂を街に広めよと命令を出したのだ。



"勇者は魔王よりも恐ろしい力を持った化け物"

"強大な魔王を倒せたのは実はこの男が魔人だから"

"いつかこの男は魔人として必ずこの国に災いをもたらす"



そんなありもしないデタラメを国王は街に吹聴させた。

もちろん、そんな話は誰も信じない。


「勇者様がそんなことをするわけがない。」

「きっと誰かの嫌がらせだろう。」


しかしそれから数年後、事態は大きく変わる。

魔王を倒したことで、魔獣の数が激減してしまったのだ。


多くの市民にとって、それはとても喜ばしいことのはず。


しかし皮肉なことに、世の中とは必要悪に満ちているもの。

どんなに悪いものでも、その悪いもののおかげで成り立っているものも存在した。


それこそがまさしく王国。

魔獣の素材や護衛などの冒険者業で財政を立てていた王国の経済は、

魔獣の減少とともに大きく傾き始める。


それから徐々に、

住民の勇者へのバッシングがはじまった。


「魔王が死んだというのに私たちの暮らしは全くよくならない」

「むしろ悪くなった」

「なぜ魔王を倒したのか」

「勇者さえ余計なことをしなければ」

「勇者は魔王を倒した報奨金で悠々自適に

暮らしてるらしい」

「許せない」

「許せない」


その日から、勇者への露骨な嫌がらせが始まる。


家の壁には落書きが書き殴られ、夜になると窓ガラスから石が投げ込まれる。


それでも勇者は、町の人を信じて王国に居続けた。

「きっといつか、わかってくれる」

そう信じて、勇者は国民のために身を粉にして頑張り続けたのだ。


しかし、それも長くはもたなかった。



「そういえば数年前、勇者が化け物の生まれ変わりだという噂があったな。」

「私も聞いた」

「俺も」

「俺もだ!」

「勇者は魔人で、この国に災いをもたらすともきいたことがあるぞ!」

「!?ま、まさにその通りじゃないか!

あいつは魔人だったのか!?」



……そこからの展開はもはや凄惨の一言に尽きる。


とある日の深夜。

外がやけに騒がしかったので、不思議に思った勇者と妹は外に飛び出る。


すると、なんということか、

自分の家がメラメラと燃えているのだ!


慌てて寝ていた妹を叩き起こし、一緒に飛び起きて外に避難する。


すると、何十人もの武装した町の人たちが、勇者の家の前に集まりはじめる。


「ど、どうしたのですか?こんな夜中に」


問いかける。しかし返事はない。

武装した街の人たちは、何も言わずに手に持った"何か"を上に掲げた。


掲げられたそれは"何者かの首"。

今さっき切ったのか、血は延々と垂れ流れ続ける。


そして勇者は気づいてしまう。

暗がりの中、目を凝らしてその首をよく見れば、

その首は苦楽を共にした勇者の仲間たちの首だったのだ。


……その夜、勇者一派を魔人の仲間と思い込んだ街の連中は、

闇討ちを仕掛けて不意をつき、数に任せて殺して回ったというのだ。


それから勇者は、妹ともに飛び出すように

町から逃げ出していく…。


・・・

・・


(か、か、可哀想すぎるやろ!!!)


この時点でめちゃくちゃ可哀想なのだが、

こいつの不幸はまだまだ続く。


(この後、勇者を慕っていたハーレム集団が、

勇者を裏切ったり、勇者擁護派として処刑されたり

散々な目にあうからなぁ…)


本当に可哀想。マジでかわいそう。

助けた人全員に、報復とばかりに裏切られるからなこいつ。


鬼のタケシと呼ばれた俺でも涙ちょちょぎれる。

流石の俺もちょっとだけ手を差し伸べたくなる。


差し伸べたくなるがー……しかし、

それらを承知した上で、俺はこの勇者に情けをかけない。


未だに過去から学ばないこのアホ勇者を、

正面からぶった切る。



「いい加減そのスタンスやめようや。

お前のその、人の善心を信じきるスタンス。」


「いやわかるよ?

基本人間なんてのはいいやつばっかりさ。


お前はそんな人間が好きだから、

きっと今までボランティア精神で見返りもなく人を救ってきたんだろうよ。


でも、人間は善心と同時に悪い心だってもってるんだよ。

そんなもんお前、子供だってわかることだ」



「そ、それは…だって…」



「いい加減学習しろ。同じことを繰り返すな。


今だってそうだ。

お前、俺の良心と同情心に期待して話を持ちかけただろ?


『何の打算もないが、きっと話し合えばわかってくれる』

そんかことを愚直に信じて、

何の交渉材料も持たずにお前は一世一代の勝負に出た。



人情とか思いやりとかさぁ…。

確かに人間なら誰だって大なり小なり持ち合わせているもんさ。


もちろんそれが原動力になることは認めるが、

そんなものはきっかけにしかならないんだよ。

人を本気で動かそうと思ったら、もっと別の何かがいるんだよ。」



「そ、それは……それはでも……」



「学べ。学習しろ。何回同じ歴史繰り返すつもりだ。

わかってるのか?お前が過去にしでかしたことを。


人の善心を信じすぎた結果、神にも人にも見放されて、

最後は大切な妹まで失ってんだぞ?お前。


こうして奇跡的にチャンスを手に入れたって言うのに、

まーたお前は同じようなことしてるんだよ。」


「そ、それはだって、そ、それは……」


「あーあ。かわいそう。

お前みたいなクソ野郎を兄にもった妹ちゃんマジ不憫。

俺なら絶対救えたのになー。

俺ならお前と違って人間ってものがちゃんと見えてるから、

絶対に上手くやれたわ。


あほだなーお前」


「こ、この……き、きみは……!」


「あほーあほー。あほ勇者ー」


そして勇者がついにキレる!


「………い、いわ、いわせておけばっ!

き、きみは!きみは!きみというやつは!!」


おっ


「何を偉そうにさっきから!

ハッ!君なら妹を救えたって?ハッ!笑わせるなよ!!!


この状況すら打開できない君なんかに、

救えるはずがない!君なんかじゃ絶対無理だ!君なんかじゃ!!」



おうおう随分下に見るやんけえ。


(ようやく正体みせてきたなぁ……。)

……やっと思い通りの展開になってきた。

俺はニヤニヤしながら再び煽る。煽るに煽る。



「あぁ、たしかに今の状況は俺には打開できないね。

流石に無理だ。だってあまりにも姑息すぎるんだもんやり方が。」


「こ、こそくだと…?」


「こんなん卑怯以外の何者でもねーわ。

あまりにも突然お前に乗っ取られたから、

こっちからしたら対策のしようがないもん。」


「さすが極悪人の勇者さんですわ。

相手の逃げ場なくすのが上手いねー。


お前の家に火放った街の連中よりも悪人のセンスあるんじゃない?きみ」


「なっ……!?はぁ?!」


「あの街の連中は、ご丁寧にも大勢でやってきて、

大きな音をたてながら騒いでくれたからな。

あれなら逃げる隙があったし、実際お前は逃げられた。


その点お前はすごいよー。

俺まじでどうしようもなかったもん。

気づいたらこの状況。ひとつも逃げ場なし。


姑息すぎてすごい。逆にすごい!

やることが卑怯すぎて逆に尊敬する!尊敬する逆に!


こんなクズ野郎俺見たことないよ!

サインもらっていい?ティーシャツの上でいいんで!」


ペラをペラペラとペラ回しにペラ回しを重ねに重ねる。


「あーあー、せめて喋られればなー。

高望みはしないよ。せめて喋られれば、

こんな状況簡単に打開できるのになー。


アホなお前よりも俺の方が有能なこと証明できるのになー」


論点を少しずつ変えていく。


「………」


「喋ることさえできりゃ、

お前がいかに無能さで愚かさなのか全部証明してやるよ。


でも無理かー。卑怯で姑息で極悪人なお前が

俺の話を聞いてくるわけないよなぁ。


プライドの高いお前が、俺なんかにしてやられるなんて屈辱、

許すわけないもんなぁ。

勝てない勝負に挑むなんて真似、極悪人のお前がするわけねーよなー。」


正義の塊のような男を極悪人と罵り続けたその結果、

勇者は震える声で激昂した!


「ぼ、ぼぼぼくは極悪人じゃない!

さっきからなんなんだ!?君は!??

勇者だぞ?!僕は!!」


自分が勇者であること、

それこそがこいつのアイデンティティの主軸。

たぶん俺が思ってる以上に、こいつの中での「正義の味方像」は重い。


それとは真逆のことをいいつづけた結果が、

ようやく現れる。


「はん!わかったよ!

それなら君の言う通り、喋れるようにはしてあげよう!


それだけでこの状況を変えられるとは到底思わないけどね!」


「おう。頼むぜ」


我が意を得たりと俺はニヤリと笑った。


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