第35話 謎スキルの真相 #4
白い部屋にピピと響く電子音。
【あ、診断が終わったみたいで……す、ね?】
言葉尻が途切れ途切れになる。
音を鳴らし続ける黒い腕輪。
赤い警告色を激しく点滅させながら、大音量でピピピピと鳴り響く。
見ていて嫌な焦りを感じさせる様子だった。
「…なんか変じゃないか?」
とても尋常な状態には見えない。
幼女がトトトと駆け寄る。
『ちょ、ちょっと拝見させてもらいますね』
【どう?】
『………』
女神が幼女に語りかける。
そして幼女はゆっくりと黒い腕輪に浮かび上がる文字を読み上げた。
『タ、タイムオーバー、と書いてあります』
タイムオーバー…?
『時間がかかりすぎて処理が自動で止まった?みたいです。』
女神が鋭く声を上げる。
【完了予定時間は?】
『か、確認します!』
黒い腕輪を触って何かを操作する。
そして幼女は驚きを隠しきれない様子で答えた。
『………1506年24時間15分20秒、とあります』
「な、1506年!?」
な、ながすぎないかそれ!?
たかが調べるのにそんなに時間かかるもんなのか?!
【……異常、ですね】
打って変わり、緊張した声で話す女神。
【わたしが直接見てみます。
サナ、準備をお願いします。】
『は、はい』
ただ事じゃない雰囲気の中、話は進んでいく……
・・・
・・
・
【なるほど】
数分後、いや、十分は経っているか。
ひたすらに無言だった女神からようやく声が聞こえる。
「どうだった?」
【……結論から言えば、
黒い腕輪の言っていた通りですね】
【タケツ様の中に、膨大な…あまりにも膨大な神力が検知されました。
膨大すぎる神力の計測に時間がかかりすぎるため、
機能が止まったと思われます。】
「ぼ、膨大な神力??」
女神は解説する。
【前の例えでいうなら、
神力とはスキルという機能を
実際にどう動かすかが細かく書かれたメモ帳のようなものです。
今のタケツ様は、そのメモ帳に
スキルの詳細な実装内容が山のようにたくさん書かれている、
という状態ですね。】
【全体としては、単純計算で数百個以上のスキル分の
神力が書かれていました……。】
「す、すうひゃく…?!」
普通の人が持ってるスキルは1つ、
神官などの特別な立場の人は2-3つ程度と
聞いたことがある。
文字通り桁が違う。明らかに普通じゃない。
『容量はどれくらいなんですか?』
【1000ペタくらいね…】
『……そ、それ、神界のスキルの神力全部はいってませんか?!』
【……】
幼女と女神の会話は俺にはどんな怪談よりも恐怖させる。
(こわいこわい!俺の体どうなってるの?!)
ペタとかよくわからん単位出てきてるし!
俺の体パンクしたりしないよね?大丈夫だよね???
『タ、タケツ様、体の調子が悪かったりしませんか?!』
幼女は慌てた様子で俺の体をペタペタ触る。
「と、とくに調子悪かったりはしないな」
『さ、些細な変化でも教えてください。
突然体が爆発したり、身体中の汗腺から火を吹き出したりとか…』
「お、起きてねえよ!そんなん死んでるわ!!」
女神が沈黙から口を開く
【……タケツ様はスキルを1つも持っていません。
膨大な神力をもっていても、
それを実行するための機構はもっていないのて、
暴走することは無い…と、推測します。】
女神は冷静に告げる。
「そ、そうか。なら安心し…」
『で、でも!』
会話に横入りして、
幼女は心配そうに俺の体をさすりながら言う。
『タケツ様は「わからん」というスキルを持っているんですよね??
もしかしたらそのスキルが
大量の神力を読み込んで、暴発することもあるんじゃないですか……?』
うわあああそうだったああああ!!!
そういえばまだ、俺のわからんのスキルの正体わかってなかったんだったああ!!
死ぬんだあああ俺死ぬんだああああ!!!
【……私もそこが心配だったわ。】
【だから二人に待ってもらってる間に
神力を測定した後、タケツ様のスキルも一緒に測定してみたの。】
【でもやっぱりスキルは検知されなかったわ。
タケツ様はスキルは持たずに、神力だけをもってる。
そこは確定しているともらっていいわ】
幼女は安心したようにホッと息をなでおろす。
『よ、よかった。
それなら暴走の危険はなさそうですね。』
そうねよかった……、と同意すると、
女神は改まって説明する。
【話は脱線するけど、
タケツ様の謎スキル「わからん」の正体の件は、
やっぱり水晶の不具合ということになりそうね。
不具合というよりは仕様かしら?
あまりに膨大な神力で水晶の処理が終わらなくて、
その結果、この黒い腕輪と同じようにエラーが起きたんだと思う。】
【これが……謎スキル「わからん」の真相ね!!】
ドン!と効果音をつけたくなる勢いで女神は告げる。
【…ちょっとだけすっきりしたわね】
『ですね』
2人はすっきりした様子で語っている。
……。
「……真相っていうけど、
じゃあ、なんで俺にこんな大量の神力はいってるんだ?」
【……】
『……』
おい!黙るな!
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一人ですっきりしている女神様。
しかし女神の声は暗い。
【ただこうなると、下手にスキルを与えるのは危険なのよね…。】
なに?
【いまのままタケツ様にスキルを与えたら、
膨大な神力がスキルに一斉に干渉して、
それこそ暴走するリスクがあるわ……】
『そうなると……もしかしてあれですか?』
【あれしかないわね】
女神と幼女は二人で何かを理解しあってる。
「あれってなんすか」
【タケツ様の膨大な神力を……一度真っ白にします。】
えっ。
【あの例えでいうなら、メモ帳の中身を全部消して、
また新しく入れ直そうと思います。】
「え?い、いや、それやると廃人になるって言ってなかった?」
【言いましたね。】
【念のためもう一度説明しますと、
人の生まれ持った性質、知性や学習能力などは神から授けられたスキルです。
当然これらのスキルにも他のスキルと同様に、
神力という名のメモ帳があり、
そのメモ帳にはそれらのスキルの詳細な実装内容がかかれています。】
「だから、メモ帳真っ白にすると
そいつらが使えなくなって廃人になる、ってことだろ?」
【そうです。
ただ、これらの基本スキルは後からも植え付けることが可能なんです。】
ほう?
【弊社が現在開発中の、とあるパッケージがありまして…、
その名も】
【『お手軽勇者量産パック』です!
タケツ様のメモ帳の中身を空っぽにした後、このパッケージをまるっとインストールさせます!!】
・・・
・・
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"お手軽勇者量産パック"
後の諸悪の根源。
この狂ったパッケージが人の世の理を狂わせ始めることを、
この時は誰もきづいていなかった…。




