第30話 チート能力には目覚めない #3
『知りたくないですか?
謎のスキル"わからん"の正体について』
「あん?」
『私はしってます。タケツ様のスキルの正体を。
私たちを信用してくださるのなら、教えてさしあげましょう』
「……」
少し考え込む。悪魔の親分と対面した時のことを振り返る。
あの時あいつは、たかが農民である俺を警戒していた。
俺の自慢できるものなんて、クワの持ちすぎで出来た分厚い手のマメくらいだ。
だが、これを見てあの悪魔が警戒するのは考えられない。
謎スキルが起因している、と考えるのが自然だ。
「……了解だ。信用しよう。教えてくれ、俺のスキルの正体を」
当然、スキルの正体が気にならないわけがない。
渋々と俺はそう返した。
『スキルの正体については後ほど女神様が教えてくださります。』
幼女はひらりと白い布地を地面に広げる。
『さっそくですが、これから女神様にお繋ぎします。
いまは半信半疑なところもあるとは思いますが、
女神様からチートスキルをいただければ、きっとお気持ちも変わるでしょう』
「えっ……スキルもらえるのか?」
『はい。女神様はそのおつもりのようです』
「……」
ふむ。
『それでは少々お待ちくださいね』
そう言って幼女は、先程広げた白い生地になにやら準備を始める。
その傍ら、しゃがみこむ幼女の頭を見つめながら俺はじっと一人考え込む。
(……なんでこいつらはここまで俺に良くしてくれるんだ?)
そもそもこいつの言うタケ「ツ」とは一体誰なのか。
タケツと呼ばれた時、「あ、こいつ人違いしてるな」と俺は思っていた。
しかし、俺が謎のスキルを持っていることを知っているとなると、
人違いと断ずることわけにもいかない。名前を呼び間違えてる可能性も浮上する。
人違いなのかそうでないか、現状の手元の情報では判断することは難しい。
もう少し話を聞かなければ。
「なぁ。なんでお前らは俺にこんなに良くしてくれるんだ?」
素直な疑問をそのまま伝える。
幼女はさらりと答えた。
『え?タケツ様の地球での業績を、女神様が大変評価しておいでだからですよ。
転移する際に女神様からそう言う話聞きませんでしたか?』
はぁ?シチュウ?転移?
『異世界転移して早々に死んでしまったのではあまりに不憫だと思った女神さまが、
温情をかけてくださり、お助けになられたようです』
異世界転移……??
だ、だめだわからん。
ペラペラと流れ出るピンとこない会話。
知らない単語の応酬に、次々と疑問符が浮かび続ける。
「なるほどな。合点がいったよ。」
が、とりあえずしたり顔でうなずいておく。
ひとつも合点いってないけど、合点いったことにしておく。
(………だ、だめだ。足りない。もっと情報が欲しい)
こいつが人違いをしてるのか、
はたまた名前を間違えてるだけか判断しきれない。
素直に聞いてもいいのだが、もしも人違いだった場合は、
この"チャンス"をみすみす見逃して、
何も得ることができずに元の場所に戻される可能性がある。
ストレートに聞くのは危険だ。
タケ「シ」であることはひた隠し、
俺はタケツとやらについて詳しく質問してみる。
「女神が評価してるとかいう俺の業績について教えてくれないか」
『??タケツ様ご自身の業績ですか?』
「そうだ、たのむよ。」
女は不思議そうな顔をしている。
まぁ、そりゃそうだ。自分の経歴を人に聞くとか頭おかしいもん。
余計な疑いかけられるのはめんどいので
適当に理由をでっち上げておく。
「……すまない。
自分でもおかしなことを言ってるのは重々承知だよ。
でも、冷静に見えるかもしれないが、正直今とても混乱しているんだ。
死を覚悟したその瞬間に、わけもわからずこんな場所に飛ばされて、
知らない場所で色んな話を聞かされて…。
情けない話だが気持ちがこの状況についていけていないんだ。
知っている話を聞いて心を落ち着かせたい。
情けないのは重々承知だが、頼まれてはくれないだろうか?」
ペラペラとペラを回していく。
『……なるほど。そうでしたか。』
あっさりと女は納得する。所詮幼女である。
ひとつ頷くと、女は粛々と語り出す。
『タケツ様は地球で数多くの伝説を残したお方です。
ある時はプロの武術家として世界大会に優勝し、
またある時は傭兵として内紛地帯に赴き、無力な子供たちを救って歩いた、とも。
その後、政治家に転身して、世界平和のためにさまざまな偉業をなしたと聞いていおります。』
……なるほどな。
「ありがとう。ようやく頭がクリアになってきたよ。礼を言う」
一つの結論。
ここまでのはなしを聞いて、俺は一つの確信を得る。
(うん。どう考えてもそれ俺じゃねーわ)
俺のことをタケ『ツ』と呼ぶこの女。
初めは、単なるこ人違いか、あるいはこの女が
名前を間違ってるだけではないかと考えた。
そして今、この話を聞いてようやく確信する。
(完全に人違いですわこれ。誰なの?その人)
この幼女は俺のことを全く違う別の誰かと勘違いしているようだった。




