第28話 チート能力には目覚めない #1
【タケシの視点】
・・・・
・・・
・・
・
眼前に迫るは悪魔の大群。
鋭く尖った爪が、俺に向かって振るわれる。
(……あぁ、クソがっ。ロクでもない人生だったな。
結局農民のままおわるのかよ俺の人生は。)
俺は目を閉じて、運命に身を任せた。
(このままここで死んだら化けて出てやるからな…。
毎日礼拝堂に化けて出て客を激減させてやるクソガァ…)
俺がこんな目にあったのはなにもかも教会が悪い。
もしも俺を素直にスカウトしてれば、今頃俺は、
スカウトの説明会が終わった後に真っ直ぐ田舎に帰っていたはず。
こんな事件に巻き込まれることもなかったはずなのだ。
(教会がなんもかも悪い!
教会許さんマジ許さんンンンンアーーーーー!!!)
……と、目をつぶりながら格好の悪い辞世の句を詠んでいた俺だが、
今起きている「異常事態」に遅れてようやく気がついた。
(……ところで俺いつ死ぬんだ?)
一向に意識が途絶えない。
あのまま俺は悪魔に引き裂かれて死んだはず。
なのに痛みはないし、意識もはっきりしていた。
(死んだことないけど、死ぬってこんな感じなのか…?)
そうは言ってみたが、まるで死んだ実感がない。
目を開けて確認してみるか?
……でもどうせ、さっきと変わらない光景が広がってるだけだろうしなぁ。
最悪もしかしたら、悪魔が俺の目の前でニヤニヤしながら待ち構えていて、
目を開けた途端に攻撃する意地の悪い可能性もワンチャンある。
(……絶対に目は開かないからな)
どうせ死ぬんだ。
ビビリながら死ぬなんて真っ平だ。
せめて最低限の平穏な気持ちで死にたい。
(こちとらすっかり諦めてんだよ!
殺すなら焦らさず楽に殺しやがれやこのやろー!)
俺は固く目を閉ざし続けた。
・・・・
・・・
・・
・
目を閉じてから数分後……。未だ変化なし。
悪魔から攻撃が来る気配はない。
俺は未だ健在にしてピンピン。体は痛くも痒くもなかった。
体に異常がないことが、もはや異常だった。
また、異常は聴覚にも現れる。
喧しいほどに聞こえていた悪魔のうめき声は、今やすっかりなりを潜めて聞こえてこない。
あたりは静寂そのものだった。
おまけに煙の火薬の匂いも一つもしない。
せいぜい消毒剤の匂いがわずかにする程度。
もちろんこんな匂いは礼拝堂では絶対にしていなかった。
聴覚、嗅覚。諸々の情報を鑑みて、
俺は一つの結論をくださざるを得なかった。
(ここ、絶対に礼拝堂じゃねえわ)
何もかもが違いすぎた。
今立っている場所が、あの礼拝堂だとは俺にはどうしても思えない。
(礼拝堂じゃないとなると……ここはどこだ?)
い、いや。それ以前にどうやってここに移動した?
俺は自分でも気づかないうちに別の場所に連れてこられたのか??
あの一瞬で?
しかも無自覚に??
一歩も動いていないのに??
(そんなアホな……)
…我が身に唐突に降りかかった「異常」を全く理解できない。
流石に目で見て状況を確認せざるを得なかった。
俺はゆっくりと目を開く。
「……あん?」
飛び込んできたのは真っ白い部屋。
一瞬光に包まれているのかと錯覚するくらいに、ただただ白い部屋が視界に広がっていた。
バカ広い礼拝堂から打って変わり、4畳半程度の小さな真っ白い部屋にポツンと一人。
明らかに礼拝堂ではない場所に俺はいた。
「ど、どこだここ……?」
事態が飲み込めず、困惑しきる俺。
そんな時、どこからともなく声が聞こえた。
『コール : ログイン サナ・アルカナ』




