第3話 スキル授与式のその後 #1
タケシ、2人の女の子と知り合いになる
あれから色々あった…。
神官達から関節を外されたり、
地面にねじ伏せられたりもした。
しかし最終的には、
「あとで話したいことがあるのじゃが……時間は大丈夫か?」
と、俺にもあの貴族女と同様の
"お声がけ"をしてもらうことができたのだ……!!!
(お声がけ……そう、あのお声がけだ!
王国はきっと、俺のスキルを賞賛して、
官吏としてスカウトしてくれる気満々に違いない!)
気分上々士気上々。
俺はご機嫌にこれからの予定を立てた!
(この後は王国の騎士に即採用だろ?
それから1ヶ月後には姫様直属の近衛隊隊長。
そして姫様に見初められて結婚、行く行くは王の座だ!)
妄想は入道雲のように高く高くそびえていく。
(すごい!スカウトってすごい!
妄想がどこまでも広がっていく!
やってやるぜ立身出世えええええ!!!)
・・・
・・
・
………と、1人盛り上がっていたのが数時間前の俺。
そして今の俺は案山子。
無表情で教会の前で無心に立つ案山子と化していた。
あれからどれくらい経っただろう?
妄想でできた心の入道雲はすでに霧散し、
俺は雲ひとつない青空を見上げていた。
時を遡ること数時間前、儀式が全て終わった後のこと。
「ごめんねちょっと外で待っててね」と
シスターのお姉さんに外で待ってるよう言われ、
いう通りに俺は外で待っていた。
儀式が終わってぞろぞろと人が出てきたが
スカウトされたと思われる連中は、未だ一人も出てきていない。
察するに、儀式中にスカウトした人達は教会に残されて
今後についての話をいろいろ聞かされているのだと思う。
そしてその話が終わるまでの間、
俺は外で待機させられているようだ。
さて、つまりそれはどういうこと?
(な、なんで俺だけ呼ばれてないんだ?!
お、俺もスカウトされたんじゃなかったのか!?)
16歳の身空、俺は己の不遇を嘆いた。
スカウトした連中向けの説明会、なぜ俺だけ呼ばれていない!?
(さっきは意味ありげに
『見たこともないスキルだ!これは神の子に違いない!』とかいってたじゃん!
『お前が第二の勇者になれ!』とか言ってたじゃん!)
(俺も呼ばれて然るべきなんじゃないのかーーー!!!)
青年の悲しみは深い。
深い悲しみは、一言も言われてないことを捏造し虚言を生み出し始める。
気持ち的にはすでに王都の騎士に採用されたくらいの気持ちでいたのだ。
この待遇の差は割と精神的にでかい。
(世の中思い通りにいかないことばっかりだ……)
怒るのにも体力を使う……。
怒りすぎて疲れ果てた頃、俺は気まぐれにちらりと横を見た。
「……」ボ-
俺の横で同じように棒立ちで立っている女の子が1人。
彼女も俺と同様、儀式の後シスターさんに
待ってるように言われた女の子だ。
……。暇だし話しかけてみるか…。
垢抜けてない感じ、どうせ農民だろうしタメ語でいいだろ…
何でもいいから何かでストレス発散をしたい。
そんな衝動にかられ、俺はその子に話しかける。
「よう」
「……」
無言。少女は何も言わずに俺の瞳をじっと覗き込む。
「おまえも農村から来たのか?」
「……」コクリ
「そうか。俺も農村からきたんだよ。」
「……」コクリ
改めてその子を観察する。
黒よりの濃い赤のガーベラの花弁に似た髪色。
癖っ毛気味なセミロングの髪を、
後ろで小さく2つに結った女の子。
少し小柄なその少女は、こくりこくりと頷いて相槌を打ってくれた。
「お前全然喋らないのな」
「……」
少女は無言のまま、困ったような笑顔でこちらを見た。
……まぁいいや。俺の話したいことを一方的に話させてもらおう。
心がささくれだったその時の俺は、
そのままぶっきら棒に話を続けた。
「王都はすげーよな。人がこんなにいるんだもん。
俺の村にはこんなに人いねーからびっくりするわ」
「……」コクン
「王都観光はもうしたか?」
「……」フルフル
「王都の商店街は世界中のいろんなものが集まるんだってさ。超行きたいわ」
「……」コクコク!
「おっ!お前もか!
農民なら絶対一度は行きたいよなーあの場所。」
「……」コクコク!
それから俺たちは差し障りのないとりとめない会話を続ける。
なんでもない内容。とりとめのない雑談。
そんな会話が、不思議と俺の心を安定させていった。
(そういえばさっきの神官達との会話……)
少女との雑談の最中、
ふいに先ほどの神官達とのやりとりが脳裏をかすめた。
(もしかしたら、話の流れによっては
そのまま殺されたこともあったのかもしれないんだよな…拘束もされてたし…)
改めて振り返り、俺はあの時どれだけ危険な状況にいたか認識する。
そんなことにすら、さっきまでの俺は気づいてなかった。
それすらわからないほどに心が臨戦状態、緊張状態にあった、
ということなのだろう。
……流れ行く雲を眺めながら、少しずつ平常の自分が戻ってくる。
極めて穏やかな気持ちで俺は少女と二人、空を見上げた。
「いい天気だなあ…」
「……」コクコク
今日もいい天気だなぁ。
あぁ、平和って尊い…。
「こんな天気の日は
一日中ハンモックに揺られて昼寝でもしてたいよなぁ…」
「……」
同意しかねるのか、少女はうーんと唸るような顔をした。
「ん?…まぁ、農民の俺たちにはそれも難しいか。
農家は基本休みなんてないしな。
一日中寝転がるのは無理かもしれない」
コクコク
少女は今度はニコニコと同意するように頷く。
農家が相手にするのは生き物だ。生き物の世話に休みなど発生しないのである。
「気持ちのいい天気だけれど…
こんな天気も続くと農家的には実はあんまり良くないんだよな。実際のとこ」
「?」
「ここのところずーっと晴れ続きなんだよ、この辺り。
雨が降らないもんだから畑が干上がっちゃって大変なんだわ」
「!」コクコクコク!
「ん?
その反応は……お前のとこも雨降ってないのか?
もしかして俺の村と近いのかな」
ピッ!
少女は手をピンと伸ばして、西の方角を指差した。
たぶん彼女の村はそっちの方角にあるのだろう。
俺の村とは真逆の場所だ。
「その方角は…もしかしてイチカラの出か?」
「……」コクリ!
「め、めちゃくちゃ遠いじゃねーか」
イチカラから王都までの距離は1週間の移動じゃ足りない。国境付近にあるとても遠い町だ。
そんな遠くの場所でも日照りかよ……ていうか、
そんな場所からここまで来るのはめちゃくちゃ大変だったろうに。
スキル授与式は王都の教会でしか開かれない。
だから、僻地の人間は移動費や滞在費諸々かかって大変だと聞いたことがある。
「それは長旅ご苦労さんだったな。」
「……」
「というか、そんな遠くでも
雨降ってないのかよ。いよいよやばいな」
「……」コクリ
もしかしてここ最近の日照り続きって
かなり広範囲で起きてるのか…?
去年は冷害で国全体の生産量が少なかった分、
今年はなんとしても生産量を確保しなければならない。
それは農民的には割と生死に直結してくる問題だ……
が!まぁ、俺はもう農民卒業だし?別に関係ないねやったね!
・
・
・
???「……」ジ-
そんな時である。
???「じ、実は私のところも日照り続きなのよねー?」
突然後ろから声がした。
「……あん?」
突如聞こえる謎の声。
突然のことで思わずヤンキーのような口調で俺は振り返る。
「わ、私は反対側、東の方から来たの。
東の一帯もずーっと日照りつづきだわ」
キラリと光る太陽。
眼に映るのは、光を遮り逆光で切り出される女のシルエットだった。
我が物顔で俺たちの会話に横入りしてきた女の声、
逆光で顔はよく見えないが、それでも俺はすぐさま直感する。
さらり。
嫌でも視界に入る長い綺麗な金髪。
風で髪が揺れるたび、フワリと香る上品な香水の香り。
そこにいたのはスキル授与式で見かけたあの金髪女だった。
「……」
「……」
突然話しかけられて頭がついてこない。
農民×2は無言のまま彼女を見つめた。
「……」
3人向かい合って黙り込む。
見つめ合うこと数秒、堪え切れないように金髪が呟いた。
「……な、なんか言ってよ」
照れ気味である。
『わたし変なこといってないよね?!』と言わんばかりに不安そうである。
「あっ。えーっと」
俺は動揺を隠すように頭を掻く。
見るからに貴族出身の出で立ちである。
貴族様が平民に気軽に話しかけてくる
なんて普通はありえないことだ。
何か貴族様の気分を害することでもしただろうか?
内心戦々恐々である。
「……」
農民ガールは感情の読めない表情のまま、黙って金髪女を見つめている。
……と、思ってたら、
救いを求めるようなハの字眉で俺を見つめてきた。
この子はほんとに喋らないな。
「あー………そうなんですね。東も大変ですね。」
仕方なしに俺は口を開いた。
貴族様を無視したとあっては後からどんな目に合うかわからん。仕方ない。
「そう!そうなのよ!」
金髪女は満足そうに笑った