第20話 絶望の淵 #1
(ほ、ほんとにやるの?)
「ほんとにやる。さ、俺をおんぶして上に運んでくれ」
作戦の狼煙はあがった。
覚悟の決まった俺に恥じらいなどない。
堂々と女の子におんぶを要求する。
(で、でもあぶないよ)
渋るオリビアに、俺は前もって用意していたことをペラペラ話す。
「ならこうしようぜ。登って礼拝堂の中を見に行くだけにしよう。
悪魔が現れてから5分は経ってるし、
あれから礼拝堂がどういう状況になってるか気になるだろ?」
(それは……気になるけど)
「それじゃあ上に登って確認しに行こう。
状況によっては、そのまま外に出て誰かに助けを求めに行かないとだしな」
(……それならいいけど)
状況を見にいく。
口ではそう言ったが、礼拝堂の中の状況は既になんとなく察してはいた。
礼拝堂の唯一の入り口は崩れて使えない。
もし逃げるとしたらここのステンドガラスから脱出するはず。
しかし、人はまだ誰も来ていない。
その意味することはまだ中で"何かが起きている"ということだろう。
(……危険ならすぐ外に出ようね)
オリビアは心配そうに俺に念を押す。
「おう。その時は俺も野望を諦めてすぐ助けを呼びに行くよ」
(野望ってなに?)
「こっちの話だ」
"助けを呼びにいく"と自分で言いながらハタと気になった。
……とても今更だが、これだけ時間が経ったというのに、なぜ誰も助けに来ないのだろう……?
この教会は街から隔離されるように離れた場所にあった。
だから少しの爆音じゃ、遠くにいる街の人には届かず気づかれない。
王国の警護兵に通報が入っていない可能性は確かにある。
しかし、ここは王都に位置する唯一の教会にして、
教会勢力の総本山。政治的に重要な場所である。
緊急時に警護隊に直接繋がるホットラインがないわけがないのだ。
助力の要請、緊急事態の連絡はすでにしているはずなのだ。
なのに一人も助けに来ない。
はっきり言って異常だ。なぜ誰も助けに来ない…?
俺は改めて、外に広がる草原を見渡す。
遠くに見える町の輪郭は最初に見た時と変わらない。
町から人が助けに来る様子は見受けられなかった。
……一人で考えても答えが出ないなこれは。
俺は思考を打ち切り、オリビアの背に身を預ける。
「じゃ、上までよろしく」
(えーーー……)
・・・・
・・・
・・
・
そして俺はオリビアの背から降りて、再びステンドガラスからの景色を見下ろした。
「戻ってきたぜ、礼拝堂……!」
そして見下ろした景色は……最悪なものだった。
(う、うわ…悪魔がいっぱいいる…)
悪魔、悪魔、悪魔、悪魔。
礼拝堂内は悪魔の山である。
前に見たティタノデビルの縮小版のような奴らがひしめいている。
ティタノデビルをそのまま1/2くらいに縮小したような、それでも数メートルを余裕で超える巨体が
礼拝堂を所狭しと埋め尽くしていたのだ。
(ほ、ほかのひとたちは大丈夫かな……?)
俺は入り口付近に目をやった。
一般市民の人たちはそっちの方に固まっていたはずだ。
「……よかった。大丈夫そうだ」
悪魔の陰に隠れて何人かの姿が見えた。
しかし、悪魔が近づくたびに阿鼻叫喚、大半は気絶して倒れているようだった。
完全にパニック状態である。(若い神官含む)
『Gyaaa……』
時折上がる咆哮に、オリビアはその度に肩をびくつかせる。
(う、うぅ…怖い…)
「手繋ごうか?」
アイスブレイク。俺は緊張をほぐすためにあえてジョークを話す。
コミュ強者タケシのタケシ式トーク術の1つである。
(う、うん…お願い)
そう言ってオリビアは俺の手を掴む
「ええぇっ!?しょ、正気かお前!?」
ツ、ツッコミ待ちの言葉をまさか受け入れられた!?
自分で言っておいてなんだけど、正気の沙汰じゃない。
俺はためらいなくオッパイを鷲掴みする男だぞ……!?!?
(う、うぅぅ……)
……まぁ、それだけ怖いということなのだろうか。
オリビアは震えながら俺の手をぎゅっと握り込む。
(タ、タケシはよく怖くならないね……)
「ん?あー、爺ちゃんが昔住んでた国の物語をよく見させられた影響かもな。
ジョーズっていう動く絵の物語なんだけど、
パニックものでは鮫は定番中の定番なんだよ。
でも鮫パニックものは見すぎて飽きちゃってさ。もはや古典だよあれは。いや、ギャグといってもいい。ただの鮫じゃ怖がらせられなくなって、ありえない大きさのビッグサイズになっていくし。
鮫で俺はもうパニックにはなることはないね」
ペラペラ…
長々と話す俺の話にオリビアは頭の上に「?」を描く。
(……タケシがなにを言ってるかわからない)
(でも、そんなことで怖くならない類のものとは思えない……)
逆に聞きたいくらいだわ。
なんでこんなにビビってるんだ?お前もあの市民のひとたちも??
・・・・
・・・
・・
・
それはそうと、先程からこの悪魔どもを観察していて、1つ気づいたことがある。
以前にも同じことを言ったが、俺は再びこのセリフを繰り返さなければならない。
「なんでこいつら攻撃しないんだ……?」
悪魔は時折、人のいる方に近づきはするのだが、
すぐにその場を離れていく。攻撃するそぶりがまるでないのだ。
意図がわからずじっと観察していると、
あのイマチュアデビルと同様、ずっと何かを探すようにウロウロしている様子なのだ。
(また何かさがしてるみたいだね)
「そうだなぁ…」
(……ほんとになにが目的なんだろう、このひとたち)
……ふむ。
「オリビア。ステンドガラスで悪魔たちがしてた会話の内容覚えてるか?」
(?なんとなくなら)
「あいつらこう言ってた。
礼拝堂を爆撃した悪魔に対して、
『礼拝堂での戦闘はあれほど避けろといったであろうが!』
ってさ。」
(……よく覚えてるね。
タケシってアホだけどもしかしてアホじゃないの?)
「相反する言葉で俺に評価するんじゃねえよ。
……話を戻すが、あいつらが戦闘を嫌がった理由は、
ここに何かあいつらが欲しいものが隠されてるからなのかもしれないな」
(……なるほど)
この武器は結構役立ちそうだな……。覚えておこう。
少しでも続きが気になったり、
良いなと思ったら作者ほんと大喜びです。
喜び勇んで自分で絵も描き始めちゃうくらいに喜びます。
作者を救ってやろうと思った方は
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