第20話 唯一の対抗手段 #2
遡ること数時間前。
あの時アリアから"その話"を聞いた時、
俺は真っ先にこう思った。
(こいつもしかして魔力めちゃくちゃ強えーんじゃねえか?)
その話が出たのは、
オリビアが教会の古代文字なる大昔の魔法装置を壊した後のこと。
『魔法の道具が壊れることはあるのか?』
とアリアに聞くと、
『そうそうない』と言った後にアリアはこう補足したのだ。
『でも空を魔力の強い龍が飛んだりすると
魔力計測機が壊れることはあるわね』
"魔力の強い龍"は魔力計測機もとい、"魔法"を狂わすことがある、そう言うのだ。
そして俺は、オリビアが起こした諸々の事象を振り返る。
古代文字の魔法装置を触って壊したこと。
念話で神官と繋ごうとした時、
念話が狂ってオリビアに繋がってしまったこと。
魔法のブローチを持っているだけで壊したこと。
明らかに邪悪な気配を放つ古代文字の書かれた石を見ただけで破壊したこと。
……そして、魔法で攻撃しようとする悪魔の頭が破裂したこと。
すべての出来事は、
「オリビアは空飛ぶ龍と同じくらいに魔力が強い」
と考えれば、自然と繋がるのだ。
こいつの潜在的な巨大な魔力が、魔力の存在を狂わしたのだ。
「オリビア、お前…」
『お前魔力強いのか?』
そう聞こうと思ったが、なんとなくそれだと解答は得られない気がした。
何か起きるたび、オリビアはいつも新鮮に驚いていた。
おそらくは、この魔力は"後天的"に身についたもので、
オリビア自身その性質をコントロールできていないどころか、未だに自覚していないのだろう。
それに…
(ここで下手なことを聞いて、自覚されるのは危険だ…)
オリビアの魔力の高さに気づいたその時、
俺の中で1つの"妙案"が芽生えていた。
この計画を実行するには、オリビアに自身の魔力の高さを、
そして悪魔を無自覚に倒していた事実を、察させるわけにはいかなかった。
俺は慎重に内容を変えて質問する
「……お前一体どんなスキルを神様から授かったんだ?」
(……)
数秒の沈黙の後、オリビアは答えづらそうに答えてくれた。
(……魔導王)
やはり。オリビアは魔導師だった。
……………え?王?魔導王?いま王って言った?
さりげなく俺の嫉妬ゲージが振り切れる単語が耳に聞こえたが気がしたが、
気のせいに違いない。そう思うことにしよう。
「そうだったか」
(……うん)
オリビアは頷きながら、どこか話したくないオーラを出していた。
心中を察し、俺はこの話を切り上げるように、
土いじりに戻る。
……「魔導師」のスキル。
このスキルを授けられたことで、オリビアの魔力は
アホのように増えてしまったと思われる。
加えて、今までのオリビアの様子を見るに、
オリビアはそれを自覚していないようだ。
(さて、これであの悪魔への対処方法は整ったな)
いずれにせよ、これでようやく
あの悪魔が爆発した理由も、
あの悪魔の爆発の"させ方"もわかった。
要は、あの時と同じように、オリビアにただじっと見つめさせればいいのだ。
それだけで悪魔は同じように爆発するはずだ。
……しかしとんでもない魔力だな。
あんな強そうな化け物の魔力を狂わせるなんて相当である。
そうなると素朴に気になるのは、
オリビアはこれほどのスキルを持ちながらも
何故王国から不遇な扱いを受けているのだろう…?
オリビアは俺と同じように教会の外で待たされていた。
きっとこいつも試用期間ありでの雇用に違いない。
悪魔の魔法を暴発させられるほどの魔力的センスをもちながら何故そんな不遇な扱いなんだ…?
(……あ、そうか)
が、シスターさんが廊下で言っていたことを思い出し、俺はすぐに合点がいった。
オリビアが不遇な理由、
それはきっとオリビアが魔導師のスキルを持ちながらも、
"喋れないから"に他ならならなかった。
シスターさんは、古代文字を見ながらこう言った。
「戦闘に不向きな古代文字の研究は支援金が出ない」と。
軍事国家であるこの国が、
敵の目の前で悠長にお絵描きをしないと使えない魔法の
研究を推奨するわけがない。
王国が支援し優遇するのは戦闘に特化した魔法。
ならば、戦闘に向いた魔法とは何だろう?
その答えを俺はすでに知っている。
答えはアリアがこれでもかというくらいに見せつけてくれた。
アリアが悪魔との戦闘において何度も使っていたあの魔法こそが、きっと戦闘向けの魔法なのだ。
それはすなわち『詠唱魔法』
アリアが使った詠唱魔法は、書く必要もなく、喋るだけで使えていた。
その速度の速さは恐ろしいほどに戦闘に特化している。
だから軍事国家である王国は詠唱魔法を支援するし、
この国は詠唱魔法を使える者を優先する。
……ならその逆は?
古代文字に支援金を出さない王国が、
詠唱魔法を使えない、あるいは
"唱えることすらできない"者を優遇するだろうか?
……その答えこそ、今のオリビアの待遇なのだろう。
だから俺はこの話を掘り下げない。
だから俺はこの話をすぐに切り上げる。
オリビアからすれば、自分の将来に胸躍らせて、
わくわくしながらスキルを授かった結果、
見事に素晴らしいスキルを得たというのに、
自分の持って生まれた性質、喋れないせいで
目の前のチャンスが消えて無くなってしまったのだ。
その心中は察してあまりある。
掘り下げられるわけはなかった。
・
・
・
・
(……まぁ、それはそれとして)
それとは別に、掘り下げない理由がもう1つ……。
俺はゲスな表情をうかべながら、これからの作戦を思索する。
オリビアの性質に気づいてからずっと、とある作戦が頭の中にあった。
正直、オリビアが無自覚であればあるほど、
俺には都合が良い。
そして俺は動き出した。
悪魔の倒し方も、俺が随分前にチラッと話した
"1つ目の目的"を達成する計画も、
たった今、すべての準備は整ったのだ。
俺は計画を始めるべく、オリビアに近寄り言い放つ。
「あーーーー、なんか知らんが
すごい魔法に目覚めたきがするわーーー!」
(……えっ)
「あーーー体内からなにやら知らんが
すごい力が目覚めてくるのを感じるワーーー!
今なら悪魔を見ただけでたおせそうだわーー!!」
(ど、どうしたの?)
「なんか今なら悪魔倒せる気がする!!
オリビアついてこい!そして俺の勇姿をじっくり見ててくれ!
悪魔倒してくるから!!」
(え?え?え???)
「いいか?じっっくりみるんだぞ!?」
(えっ……えーー……?)
そして俺はオリビアの手を引いて動き出す!
作戦の火蓋はきっておとされたのだ!
作戦名、
「オリビアが無意識に倒した悪魔をまるで
俺がすごい魔法で倒したかのように見せかけて
手柄をぶん取り、王国からの俺のイメージを良くしよう!!」という
クズ極まった作戦が、この瞬間はじまった…!!
……しかし人間、悪いことはするもんじゃない。
意地の悪い作戦のしっぺ返しが、割りとすぐに返されることになることを、
当然ながらこの時の俺は知らない……。




