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第18話 オリビア #2

それから俺たちは、四つん這いになって地面を調べた。


『悪魔が攻撃に失敗した原因がこの辺りにあるかもしれない』


そう思い捜索してはいるが、中々見つかりそうにない。

……勘が外れたか?そろそろ打ち切るしかないかー……


(ふんふんふーん)


どうしようかと悩んでいたそんな時。

前触れもなくオリビアから何やらよくわからない声が聞こえてきた。



(ふーん、ふんふーん。ふふーん)

な、なんだ?突然どうした?こいつ


(ふふふーん、ふーん)

……???


(ふふーん)

(ふんふーん)


その謎の声を聞いてるうち、俺は遅れて理解する。

オリビアの意図を察して俺は愕然とした…!


「オ、オリビア、まさかお前……!」


(なに?)


「い、今のはまさか……いや、まさかとは思うが…」


(?)


「鼻歌、なのか……?」


(?そうだけど)


い、今のが鼻歌ぁ!?

それにしては音程がっ、リズムがっ、

な、何もかもが独特というかなんというかっ


(ふーんふんふーん)


グッ……!いじり倒してやりたいが、

楽しそうに歌う横顔を見るともうなにも言えねぇ!

俺は黙って作業を続けることにした!


「……」

(ふんふーん、ふんー)


「……」

(ふんふふふふーん、ふーんー)


「……な、なぁオリビア。

これだけは聞かせてくれないか?」


(うん?なに?)


俺は改まった様子でオリビアに向き直る。

「お前いつの間に……」


「?」


「いつの間に…念話使えるようになったんだ……?」



「なんか普通に念話で会話できちゃってるけどさ」

(うん)


「なんか普通に下手な鼻歌聞こえちゃってるけどさ」

(え?下手じゃないよ?)


え?下手だよ?

……い、いや。今はスルーだ。



「さっきまで会話できたのは、アリアが念話で中継して

くれてたおかげなんだよな」


(そうだね)


「じゃあ今お前はどうやって念話で喋ってるんだ?」


(じぶんでやってるの)


「………自分で念話を使ってるってことか」


(うん)


"自分で念話を使っている"

この時点で既に俺は嫌な予感をひしひしと感じていた。

いや、まさかそんな。お前はこっち側のはずだろ…?



「前から念話は使えたのか…?」


(ううん。使えなかったよ?)



俺の口調は恐る恐るなものへと変わっていく。


使えなかった、とオリビアは過去形で言った。

この瞬間、俺の中の予感は確信に変わる。

頭の中にあった「もしかしたら」の可能性は、

この瞬間、確固たる事実に変わってしまったのだ。


「い、いや、それは…だって、おまえ」


でも信じたくない。信じたく無かった。

自然と言葉はしどろもどろになってしまう。

オリビアを信じたい、その一心だった。

俺は縋るように質問を続ける。


「アリアから教えてもらったんだよな?そうだろ?」


視界が暗くなっていく。

オリビアを信じたい。オリビアは俺の味方だと信じたい。

俺は祈るように尋ねた。


(教えてもらってないよ?)


平然と宣うオリビア。

そしてオリビアは、決定的な一言を言ってしまった。



(アリア様がやってるの見て、覚えたの)



ギャァァァァァァァァァア!!!!

出たああああああああああああああああ!!


(!?う、うわタケシどうしたの!?

突然バク転なんかして?!)


「出たああああああああ!!

見ただけで技を盗んじゃう天才特有のやつううううう!!!!」


「『え?こんな簡単なことできて当たり前でしょ?』っていう

天才特有の天才的センスうううううう!!!!」



やってるのを見てやり方覚えただぁ?!

教えてもらわずに見て覚えるゥ?!

なにその天才ポジション!お前そっち側なの!?

お前は俺と同じ平凡な農民ポジションじゃなかったの!?!?



(裏切られた!裏切られた!)

信じてたのに!!!


俺は怒りのままに連続バク転を決めまくる!

ァァァア信じてたのにぃぃぃいい!!


オリビアは俺の尋常ならざる様子にただ困惑するばかりだった。


(わ、わたし天才じゃないよ??)


「うるせえ!天才はみんなそういうんだよ!!」


うぅぅ…しんじてたのにぃ……

お前は平凡な農家の娘だって信じてたのにぃ……

俺は一人膝を抱えてしゃがみこむ…。

うぅぅ…


(タ、タケシ?)


「うぅ…オリビアなんて嫌いだぁ…」


(……っ)


"嫌い"。


その言葉を聞いた途端、

オリビアはたじろぐように、後ろへ後ずさり。


(タ、タケシ……?)


「あァン?!なんだ天才!!」


(タケシ……私のこと嫌いになっちゃったの……?)


縋るように俺を見つめるオリビアの眼差し。

その瞳は不安そうに揺れていたのだ。


「ガハァッ……!」


(ま、間に受けてる!俺の冗談半分な「嫌い」発言を

素直に真に受けている……っ!)


申し訳なさがグサグサと俺の心を突き刺していく……っ!


オリビアは伏し目がちに続ける。


(タケシごめん……。私気づかないうちに嫌なこと言っちゃったんだよね。ごめんね…)


「い、いや」


(……タケシは私のこともう嫌いになっちゃったかもしれないけど、

私タケシと仲悪くなりたくないよ…。)


切々と語るオリビア。

俺の心は人でも殺したかのような罪悪感に襲われた。


(わたし子供の頃突然喋れなくなって…。

それから人とあんまり喋れなくなっちゃったから

少しズレてるとこがあるみたいで……。


何かわたし無自覚に失礼なこと言っちゃったなら謝る…ごめんね…)



———あぁ、やっぱこいつ喋れなかったんだな。


そんな気づきとともに、ここまで言わせた自分をぶん殴りたくて仕方ない。


(ごめん…)


も、もうだめだ!

これ以上オリビアに謝らせたら

俺は申し訳なさで死んでしまう!

俺は頭を下げて謝罪した…!


「うそです……。

今まで言ったの全部うそです…。

嫉妬して踊り狂っちゃっただけです…。」


(……そうなの?)

「うん……」


(そっか。よかった……)

「あぁ…」


「……」

(……)


そして居た堪れない沈黙が訪れる。

えっ、何この空気…?


夕方の河川敷で、不器用に本心を打ち明けあって、照れ合う青春カップルのように、

俺たちはやや照れで俯き合う。


(……あっ。それじゃあ

さっき言ってたのも嘘ってことなんだよね)


「え?どれのこと?」


(『下手な鼻歌聞こえちゃってる』って言ってたやつ。)


「あぁ、あれか」


(全部うそ、ってことはあれも嘘なんだったんだね。よかっ…)


「いや、あれは本心だな」


(え?)

「えっ」


見つめ合うこと数秒、別種の沈黙が辺りを支配する。


「……」

(……)


そのうちどちらともなく顔を背け、

俺たちは再び作業を再開したのだった…





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