※タケシの独り言
16歳の思春期男子は繊細なんです。
プライドの塊なんです。
そんな青少年タケシの鬱憤が書かれていますが、
本編に関係ないタケシ個人の愚痴みたいなものなので
よまなくても大丈夫です!
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走りながら、俺は1人自問自答する。
戦ったことなんて一度もない俺が、
なぜこの戦いに肩入れするのだろう?
普段の俺なら、間違いなく部屋の片隅に隠れ、
ことが終わるのをじっと待っていたはずだ。
それなのに。
(それなのに…どうして俺は今、走っている?)
どうして俺はこの戦闘に積極的に参加する?
……なんでもいい。
客観的でいて、体裁のいい理由がほしかった。
とにかくおあつらえ向きな理由がほしかった。
俺は思いつくままに2つの理由、
もといメリットをあげてみる。
『1つ。ここで活躍できれば、
王国の俺へのマイナスイメージを払拭できるから』
『2つ。一番強い人のそばにいるのが一番安全だと判断したから。』
「……」
俺はチラリとアリアの顔を伺う。
2つ目について、俺にはとある確信があった。
(おそらく…いや、間違いなく、この場ではこの女が一番強い。)
念話で俺に語りかけていた段階で、
この女は敵の位置も攻撃のタイミングも全て把握していた。
神官も、制裁を行うマッチョたちでさえも
察知することができなかった攻撃を、
この女だけは事前に察知することができていたのだ。
腰に帯刀された使い込まれた鞘を一瞥し、
この女は確実に強いと、改めて確信する。
(だから俺は…この戦いに肩入れしている?)
走りながら俺は自問する。
この女のことだ。戦いが始まれば
それに参加するに決まっている。
だが俺としては、一番強い者のそばにいて、
安全をキープしたい。
うむ。だから俺は、戦闘に仕方なく参加しているのだ。
だから仕方なしにアリアの横を走っているのだ。
うむ。実にそれらしい理由だ。
「?タ、タケシ?
なんでそんなに私の顔じっと見るの??」
しかし、アリアのアホそうな顔を見て、
再び"あの感情"が俺の中の何かを駆り立てていく。
……あぁ、ダメだ。この理由じゃ
俺は俺自身を騙しきれない。
なんでもいいから体裁の良い理由が欲しかった。
"この感情"に別の名前をつけて
心の片隅に追いやってしまいたかった。
見て見ぬ振りをしたかった。
しかし、愚鈍なフリはもうできない。
どれだけ理屈をこねようとも、俺はもう
"この感情"を完全に自覚してしまっていた。
地面にべばりついて取れないガムのように、
胸の奥底でみっともなく粘着するこの感情こそが、
俺が今走り出している理由。
これこそが戦闘に執着する最大の理由にして、
どうしても自覚したくなかった3つ目の理由だった。
「……」
俺は魔法が放たれた直後の光景を思い出す。
あの時俺は確かにこの目で見てしまった。
魔法が放たれた数コンマ秒後、
放たれた魔法が俺に当たるか当たらないかのその刹那、
こいつは目にも見えない速度で腰にある剣を抜刀し、
魔法をはじいて俺を "守ってくれた" のだ。
(こいつは俺の命を救った。こいつが守ってくれなければ、
間違いなく頭が吹き飛んでいた。)
そこまではいい。そこまでは全然いいのだ。
しかしこの女は、あろうことか俺を守ったことを
一つも話さないし一度も誇示しなかったのだ!
それがなによりも、俺の中で引っかかり続けていた!
(なんで言わないんだ……!?
そこは見せびらかして自慢するところだろ!
これじゃまるで……!)
…これじゃまるで、俺が守られて当たり前の
ひ弱な存在のようではないか。
泣いてる子供がいれば、誰だって声をかける。
道に迷っている子供がいれば、誰だって助けてあげる。
なぜなら相手は子供だから。
子供は守って当たり前の存在だからだ。
大人はその行為に見返りを求めない。
保護者と被保護者。
そこには決して超えられない壁がある。
『アリアから見た俺は、守る対象でしかない』
俺とアリアの間にある絶対的な隔たりの存在が、
俺には何より許せなかった。
ぁぁぁぁ……もういい。
冷静ぶって長々と言葉にするのはもうやめだ。
今の気持ちをはっきり言葉にしよう
(く……く、く……)
(悔しいいいいぃぃぃぃ……!!!)
悔しいいいいい!!
あ、あのやろう!あのやろう!
助けて当たり前って面で、俺を助けやがったぞあのやろう!?
俺を子供か何かと思い込んでんのか!?
チクショォォォオオオオオオ!!
要約しよう!
俺はこいつに子供扱いされたことが何よりもゆるせなかった!
「お前と私は違う」と線引きされたと思うと、
悔しくて悔しくて仕方がないのだ!
【タッタッタッ】
俺は激情に任せて駆ける速度をより一層早める!
止められない、止められるわけがないのだ!この情動は!
死ぬかもしれない?そんなことはわかってる!
素人の俺が行ってどうにかなるわけがない?
わかってるつってんだろ!
それでもいくんだよ!
行って俺が守られるだけの存在じゃないことを、
横で走ってるこいつに思い知らせないと気が済まん!!
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(あぁ、バカだ…なんてバカなんだ俺はッ)
素人の俺が行って何ができるわけがないだろうに。
残されたまともな理性が、上からこのアホな俺を見下ろしている。
『さすが16歳。まるで感情のコントロールができていない。』
『素人が行って何ができるわけでもないのに』
『愚かだ。なんて愚かなんだこいつは。』
『身の程をしらないガキそのものじゃないか』
バカだバカだと、自分を客観的に馬鹿にしてみる。
しかしそんなものじゃ俺の激情は収まらない。
そんなもので収まるなら苦労はない。
『悔しい悔しい悔しい!』
『守られるだけの存在なんてなりたくない!』
『守られた分は返さないと気が済まない!』
悔しさがとめどなく胸を切り裂いて溢れていく。
あぁ……もういい。もう考えるのはやめだ。
(俺はバカだ!大馬鹿だ!
それでいいんだもう!)
余計な考えを振り切るように、俺は全速力ダッシュで駆け出した
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「え?なになに?なんでさっきから無言でみてくるの?
タケシこわいわよ?お、怒ってる??」
「……」
激情にかられながらも、ふと、考える。
(俺は心のどこかで、こいつとは
対等でありたいと思っているのかもしれないな)
だからこれほど悔しくなってしまうのかもしれない。
まぁただ単に、俺が負けず嫌いなだけかもしれないが。
激情に激情を重ねた結果、俺はそんな結論に達する。
アリアのアホそうな顔を眺めながら、
そんなことを考えていた。
「……???
あ、あの、何も言わずにそんなに長く見られると
なんか照れてくるんだけれどっ!?!?」
「……いやぁ、あまりにブスだから
思わず見入ってましたわ。」
「!?」
「顔にススついてるからとった方がいいですよ」
「!?!?サ、サイテー!!」
「……」ゴツン!
女子二人から総スカンを食らう。
オリビアに叩かれた頭をさすりながらも、
少しだけ気持ちが晴れやかになるのをかんじた。
(……あぁぅ!お、俺はなんて器が小さいんだっ)
俺は今自分がしたことに愕然とした!
お、俺は今、この悔しさを、アリアを小馬鹿にすることで
少しだけ発散してしまったのだ……!
な、なんて…なんて小さいんだ俺はァァァア!!
………悩める16歳の悩みは
あっちに行ったりこっちに行ったり
ふらふらと彷徨い続ける。
結局答えは見いだせないまま、俺は走りつづけた。




