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いや違うんです。本当にただの農民なんです  作者: あおのん
第7章 vs 八柱将(サタケ)
100/120

第93話 天才は人生楽そうでイイっすよねェ

・・・

・・


そして人目のつかない林の中へ…。


「おいこのバカ」

「はい…バカです…」


怪我した脚でなんとかオリビアを移動させる。

ようやく我に返ったオリビアは、

遅れてやっと現状を理解したのであった。


(ま、まさか練習だけで

こんな大騒ぎになるなんて……)


我に返ったオリビアはすぐに魔力の練習?

とやらをやめてくれた。

心底申し訳なさそうにオリビアは繰り返す。



(ごめんね…おもかったよね。

脚、いたくない…?)


「…………まぁ大丈夫だよ」



さっきまでの俺は怒りと驚きで大憤怒も大憤怒。

一言二言、いや三言四言文句を言うつもりでいた。

いた、のだが。


(ごめんなさい…ほんとにごめん…)


シュンとするオリビアを見てその気も失せる。

さっきまでの怒りは既に霧散していた。


(ごめんなさい…)

「いや、うん…まぁ気にすんな」


なんとも言えない沈黙が支配する。

朝の日差しが木々の隙間から差し込み、

静かに風が通り抜けた。


「……」


報酬を拒否したこと。

サナがつかう魔法文字を真剣に観察していたこと。


……魔人との戦いで活躍できなかったことを

こいつはずっと気にしていた。


こいつはあの日からずっと

あの時感じた無力感を引きずってきたのだろう。

そんなものはアリアやサナ、俺でさえ気づいていた。


何も力になれない自分を変えるため、

何も力を持たない自分を変えるために

その結果、失敗してしまった結果を

一体誰が責められようか。


(朝6時に早起きして、みんなにバレないように

こっそり練習とか超偉いやん…)


心の底から、オリビアを

応援したい気持ちで一杯だった。

そんな俺が怒るはずがない。



「……まーーー、それはそうとさ」



しょんぼりムードを強引に変えるべく、

俺は話題を変えていく。


「さっきの魔法の練習すごかったなー!

俺のハイセンスな魔法センサーがそりゃもう

振り切れて一周回ってゼロに

なるくらいにビンビンだったよ!

いつの間にあんなことできるようになったんだ?」


気を取り直して、明るい調子で話しかける。

しかし…。


(あっ、う、うん。

昨日、買い出しに行った時に

本屋さんで魔法の本見つけてね?

それを試しにやってみてたの)


……はぁ?


「……じゃあ、あれはいつもやってる

わけじゃなくて、今日初めてやったってこと?」


(うん)


今日初めてであのレベル?

しかも伝説の勇者が感心するレベル?


「……」


【+20000ポイント! 嫉妬ゲージ増加!】


何かしらの内部ポイントが上昇するのを感じる。

俺は頬をピクピクさせて話を続けた。



「ほー……。初めてであんなに上手く行くなんて、

よっぽどわかりやすい良い本を買ったんだなぁ…。

俺もやってみたいからちょっと見せてくれよ…。」


(う、うん!やってみて!これだよ!)


そして提示された本は……


【【はじめてのまほうれんしゅう】】


……子供でも読める字で書かれた本のタイトル。

つーか、後ろひっくり返したら、

対象年齢6歳って書いてありやがるし…。


「……」


世の中には、初等教育の教科書読んで

独力で中等教育レベルまで理解する奴がいるらしい。

もしかしてそんな感じなの?


「……」

(?た、たけし?)


【+20000ポイント! 嫉妬ゲージ増加!】


……まぁまぁ。

子供向けだからこそ、相当な良書なのだ。

猫でもわかるくらいのわかりやすさが、

きっとこの絵本みたいな本には詰まっているのだ。


じゃないと、俺と同じ農民の出のオリビアが、

こんなあっさりできるわけがない。


オリビアの才能が飛び抜けてるとか、

俺よりも遥かに優秀だとか、

俺よりも才気あふれる選ばれし人間だとか、

俺よりも天才だとか、俺よりもすごいだとか、

そう言うことでは決してない。

決してないはずなのだ。


「……ちょっとよこせそれ」


再現してやる。

オリビアと同じことを再現することで、

あれくらいの芸当は誰にでも

できることを証明してやる!!!


・・・・

・・・

・・


「おらぁ!」

「うらぁぁぁ!!」

「おらーーー!!!」


・・・・

・・・

・・


数分後。


「これで勝ったと思うなヨォォォォォおお!!!!」

(え、えーー……)


はい、さっぱりできませんでしたーーー

俺はオリビアに向かって泣き叫んだのだった。


「はー、さすが魔導王のスキルを

持ってるだけはありますわ流石っすね!!

これから魔導王先生って呼ばせてもらいますわ!!

いやほんと頭が上がらねえっス!さすがっすね!!

オリビアさん。まじ魔法のセンスの塊っす!!

まじ叶わないっすわーーーーーー!!!」


嫉妬全開である。

はー羨ましい妬ましい。

才能あるやつはイイっすよねぇ。

大して努力しなくても上手く行くんすもん。はー。


「さささ。大先生!

きっと向こうも多少落ち着いたでしょうし

そろそろ戻りましょう!」


(え、あ、う、うん)



そして俺は腰をへの字に曲げてへりくだり、

嫉妬フルチャージで病室に戻ったのだった…。





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