第9話 波瀾の幕開け #2
「こ、殺される?」
「……正体不明の謎のスキルを我々の管理下におけるなら好し。
それが叶わないなら後顧の憂いは断つ、
というのが教会の…いや、"王国"の意向だよ」
王国、と言い換えるあたり、
すでに話は上まで通っているぞと言いたいのだろう。
……しかしなぁ。
「えっ…えーー…?わかってますか?
私のスキルの名前"わからん"ですよ?そんな大げさな」
「僕もそう思うよ…。
僕自身、本当はこんなことはしたくない。
でも王国は「神すらも詳細を把握できないスキル」という点で
君を脅威として判断したらしい。
君の返答次第では、然るべき対処をするつもりだよ、王国は」
お、おおげさな…。
"わからん"だぞ、わからん。
絶対にたいしたスキルじゃないと思うんだが……
「ちなみに、君が断った瞬間、
王国からの制裁が今すぐに始まる。」
「えっ」
「……文字通り今すぐに、ね。」
神官はさりげなくチラリと目線を左にずらす。
釣られて俺も視線の先を見やると、
神官達の後ろの方に、なにやら武装をした騎士2人の影がみえた。
「ウホゥ」
「ウホゥ」
そこにいたのは紛れもなくゴリラ。
ゴリラ&ゴリラ。甲冑をきたムッキムツキの
ゴリラが二体、そこにいた!
(ヒ、ヒェェェェェ!もしかしてあのゴリラみたいなやつが制裁者か!?
え?ていうかこれまじ?
まじで制裁…というか俺を殺すつもりなの!?)
ここにきて、ようやく俺は
"王国の意向"を理解し始める。
神官は申し訳なさそうに言う。
「……すまない。
こうならないように動いてはいたんだ。
けれど、どうすることもできなかった…。」
神官は悔いるように目を伏せる。
「教会の中だけならいくらでも誤魔化せたけど、
気付いた時には既に王国のかなり上まで
君の話がいってしまっていたんだ……。
こうなると我々にはもうどうすることもできなかった…すまない……」
神官は正面きって俺に謝罪する。
……こうも正面から謝罪されるとどうにも
怒りの矛先を見失ってしまう。
(これまじ?まじなやつ?
まじで拒否ったら殺されるやつ?)
あ、やべえ。小便もれそう。
【バシッ!バシッ!】
「大丈夫よタケシ!」
アリアは安心させようとしてるのかドスドスと俺の肩を叩く。
いたいですやめてください
「敵の位置はすでに把握済み!
いつでもいけるわ!」
し、し、刺激するようなこと言うんじゃないよおおおおおお!
いけるってどこに行くつもりなの!?
頼むからおとなしくしててくれえええ!!
・
・
・
「ごほん………
あーーー、そろそろ結論は出たかね?」
神官……いや、大司祭がわざとらしく咳払いをはく。
ちょっと、冷静、ち、沈着冷静に。まずは現状を分析しよう。
向こうからしたら、
俺は将来何をしでかすかわからない大悪人のようなものだ。
本来ならば、今のように神官が内情を
話すのも許されることではないのだろう。
しかし、現状はそれを見て見ぬふりしてもらえている。
大司教が内情を話す神官を止めなかったところを
見ると、そこは間違いない。
それだけでも、かなりの温情をかけてもらっていると言えるだろう。
教会側には俺の人権を無視してまで、
問答無用に殺すつもりはないように思えた。
(さて、それを踏まえてどう答えたものか…)
俺が教会所属の冒険者になること、
それは言うまでもなく決定事項だ。
問題はそれをどう伝えるか、である。
今までのやり取りの後、
「はい、わたし教会所属の冒険者になります!」と言ったら
王国はどういう風に思うだろうか?
俺ならこう思う。
「あぁ。こいつは殺されるのが怖いからとりあえず従ったんだな」と。
(それじゃあまりに印象が悪すぎる…)
恐怖で人は支配はできても、恭順はさせられない。
「こいつは将来的に逃げかねない」と思われたら、
今は殺されなくても将来的には殺されそうだ。
たかが俺ごときに殺し屋を連れてくるくらいに、
警戒心が強いのなら、王国は到底見逃してはくれないだろう。
ここで良い印象を与えなければ死。
あるいは、将来的に死。
少しでも良い印象になるように答えなければ……う、うーーーん……
そんな時である。
(タ…シ!)
ん?
(タケシ!タケシ!)
おや。
(タケシきこえてる?おーい!)
やだこわい。頭の中から声が聞こえる。
(おーい!タケシー!)
頭の中に木霊する謎の声。
あまりの緊急事態に俺の頭はおかしくなったのだろうか?
己の疾患を疑い始めたそんな矢先、はたと気付く。
この声は……アリアの声か?
さりげなくチラとアリアを伺う。
アリアは目線は変えずに小さく咳払いをした。
(タケシ、もしも聞こえてるなら
頭の中でバイディレクって唱えてもらえない?)
バイディレクゥ?
【PiPiPi】
その途端、頭の中で軽快な音がなった。
(あ、繋がったみたいね!
タケシ、聞こえてるわね?いま念話で話しかけてるの!)
念話ぁ……!?
お、お前なぁ!ひとが生死をかけた考え事してる最中に
脈絡もなくトンデモ技術つかうなよ!
びっくりするだろこのあほ!
(……お前?このあほ??)
ハッ!も、もしかして心の声が
聞こえているのかでございますかこれ?!
う、嘘でございますお嬢様、ど、どうぞお許しください!
(ふーん…。
色々言いたいこともあるけど、今は一旦おいておくわ)
ははー…ありがたき幸せ…
(それよりもタケシ。
はやく回答しないとまずいかもしれないわよ!
はぁ?
まずいことなら既にまずいことになってんだよ!
なにがまずいのかちゃんと言えや!
…………でございます。
(ステンドガラスに1人、誰かが隠れてるわ。
魔力の気配的に相当強いとおもう。
今にも攻撃しだしそうな雰囲気だわ)
……ふむ?
そいつらがさっき神官が言っていた「制裁」を行う連中だろうか。
でも制裁を行う奴らは、神官達の後ろにいるあのマッチョ達のはず…。
伏兵として隠れているのか?
俺一人を抹殺するためにわざわざ??
釈然としないものを感じながら、俺はさりげなーくステンドガラスを見ようとする。
(どれどれ、ステンドガラスのどのあたりにいんの?)
(わっ!み、みちゃダメだってば!
不審な動きしたら速攻で魔法打たれるわよ!?)
は、はい。
(とにかくやばいのよ!気配がどんどんつよくなってるの!
だから早く答えちゃいなさい!)
やばいつったってなー。まだ考え中なんだよ。
そもそも何がやばいの?そこの大司祭の爺さん見てみろよ。
まだもうちょっと待ってくれそうだぞ?
(いやいや!
そこのお爺ちゃんは待ってくれそうだけど、
魔法使いの方はもう待つ気がないみたいなんだってば!
今も打つ気満々で魔力を…あっ)
ど、どうした?
(ていうかこれもうカウント3秒前?や、やばいよ!)
な、なに?!なんでそれをはやく言わないんだこのボケ!
(はぁ!?ぼ、ぼけ!?!?……あっ。)
(これ…もう間に合わないかも)
キャーーーー!!!
考えてる余地なし!
俺は地面に飛び込むように土下座!
腹一杯に空気を吸い込み、大きく叫んだ!
「大司祭さま!俺を教会所属の冒険者として働かせてください!!!!」
・・・・
・・・
・・
・
この時、この瞬間。
タケシが土下座したまさにその裏で、
実はとある騒動が王国領内で起きていた。
しかし、この教会にいる者の誰一人がその事件に気づかない。
否。"気づかないようにされていた"
「———俺を教会所属の冒険者として働かせてください!」
だが彼らはすぐに気づかされることとなる。
丁度それは、タケシが土下座をしたまさにその時発生した。
【ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ】
「えっ」
「なっ……!?」
「えっ…!?ば、ばくはつ?」
突如、教会に爆音が鳴り響き渡った。
開幕の祝砲。
世界を揺るがす物語は、
爆音とともに"再開"される。
新たな神話はこの時この瞬間から始まった。
後世、ここで起きた事件のことを
「始まりの神軍」と人々は呼んだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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