父さんの研究
(「僕は“僕”の秘密を知らない」の中編です)
毎日投稿目指して頑張ってます。
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「優!起きろ!」
大きく体を揺さぶられて目が覚めた。
「なに...?」
「薬ができた。今から飲めば今日中に人格を消すことができる。早く服を着替えて書斎へ来なさい。」
父さんの目の下には大きなクマができていた。寝ずに研究していたのだろうか。
「何ぼーっとしている、早くしろ!」
「はい...」
僕は小さく返事をするとすぐに服を着替えた。
書斎へ行くと白衣姿の父さんが机の前に立って待っていた。
「ここへ来なさい。」
そう言われて父さんの横へ行った。
すると、父さんはカーペットを勢いよくめくった。そこには木のタイルに馴染んだ鉄製の四角い扉があった。
「なにこれ!こんなのあったの!」
父さんは僕の発言になにも言わなかった。
扉を開けると地下へと続くハシゴが続いていた。父さんの後に続いて降りていくと薄暗いトンネルに出た。懐中電灯で照らしながら奥へと向かうと壁にぶち当たった。
ピコンっ
謎の機械音とともに壁からカメラが出てきた。父さんの顔に光が当たるとスキャンを始めた。顔認証だろうか。
「ようこそ、どうぞお入りください。」
機械の声がトンネルに響くと壁が横にスライドして開いた。
中は真っ白な研究室が広がっていた。
様々なコンピュータが迷路のように高く積み上げられている。中へと進んでいくとやがてパソコンみたいな機材が置かれたエリアにたどり着いた。
父さんが電気をつけると、目の前に巨大な瓶にホルマリン漬けになった僕が3人沈められていた。皆眠っているように目を閉じている。
「えっ、なにこれ!?」
「お前のクローンだ。しかもただのクローンじゃない。特殊な細胞でできているんだ。空気に触れると蒸発してしまうんだ。」
「えっ!そんな細胞があるの?ってかクローンって違法じゃ...」
「だからこうやってコッソリと研究していたんだ。」
そう言うと父さんは液体が入った小瓶と、コードがいっぱい繋がれたヘルメットを持ってきた。
「いいか、今から人格の処理方法を説明する。まずこのヘルメットをかぶって薬を注射器で打つ。薬が効いている間はお前の意識は無い、まぁ寝てる感じに近い。薬がしっかり効けば、それぞれの人格があそこにある肉体に1つずつ移動する。全て移動したらヘルメットを取って、この注射をお前に打って薬の効果を無効にする。そうすれば目覚める。」
「本当に大丈夫なの...?」
「大丈夫だ。」
父さんは大きく頷くと僕にヘルメットを被せた。“僕”が入った大型の瓶の横の画面に4つの波が心拍みたいに映し出された。
「この後は?移した人格はどうするの?」
「今彼らをつけている液体を抜いて空気に触れさせる。」
「それって、殺人になるんじゃないの?」
「これは仕方ないことだ...。これ以外に方法は無い。」
「そんな...」
「あれ以来、俺はこの研究に人生を注いできた!母さんは、お前を頼んだと遺書に残して死んだんだ。あなたならあの子を助けられるって...。俺はお前を助けなければならない、助けたいんだ!十数年の月日をかけてようやくここまで辿り着いた、俺は何としてもこれを実行する。」
そう言うのと同時に父さんが僕の肩に注射器を刺した。
「痛い!」
急いで父さんを振り払った。しかし注射器の中は空っぽになっていた。
打たれたか...
だんだん視界がぼんやりとしてきた。声は耳の中で反響してグワングワン聞こえる。
「大丈夫だ。すぐに終わる。」
その言葉を最後に僕の意識は無くなった。
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