容量泥棒
「僕は“僕”の秘密を知らない」の中編版です。
2章
「ただいま」
学校から帰ってくると、父さんはリビングでコーヒーを飲んでいた。
「おかえり」
「薬の方はどう?」
「順調だ。お前は気にするな。それより、なんでお前の部屋はああも汚い?片付けと掃除をしろ」
「そこまで汚くないよ。まだ足の踏み場はあるし」
「基準がおかしいんだよ、さっさと掃除しろ。7時までに片付けれなかったら晩飯無しだぞ」
「はいっ、わかりました。すぐに掃除します。」
僕は急いで自分の部屋の片付けを始めた。
こうして本の整理をしていると、昔探してたものが結構見つかる。机の周りを片付け終わると次は押入れの周りを片付け始めた。しばらく使いそうにないものは押入れにしまった。
「痛っ」
頭に何か降ってきた。
なんだこれ?
落ちてきたのは、振るとカラカラ音が鳴る赤ちゃん用のオモチャだった。
こんなので遊んだことあったっけ?
まぁ、もう使わないだろう。
僕は椅子を持ってきてその上に登り、押入れの上についている小さな扉付き収納スペースにそのオモチャをしまった。その時ピンク色の服が目に止まった。気になったので、その服を引っ張り出し広げてみた。女の子の赤ちゃん用の服だった。
収納スペースの奥を覗くと他にも女の子用のグッズが沢山入っていた。
俺に女兄弟なんていないんだけど、なんであるんだろう。それ以上は深く考えずに扉を閉めた。時計を見ると6時半を回ったところだった。
軽く掃除しておくか。
僕は簡単に掃除機をかけてリビングに戻った。
リビングへ戻ると今日のメインディッシュ、ハンバーグが机の上に置かれていた。
「もう終わったのか?」
「終わったよ。やれば早いんだ」
「じゃあ毎日やれ。よし、できた、食べるぞ。」
「「いただきます」」
父さんが作ったハンバーグを頬張った。上手い、やっぱり父さんの作る料理は絶品だ。ふと、先ほどの女の子ものの服のことを思い出した。
「ねぇ、さっき片付けしてて見つけたんだけどさ」
「うん」
「押入れに女の子の服とかいっぱい入ってたんだよね。あれ何か知ってる?」
その時お皿の割れる音がした。
顔を上げると父さんは皿を持った形のまま固まっていた。
床にはお茶碗の破片が散乱している。
「えっ、ちょ、父さん大丈夫?掃除機持ってくる」
僕が掃除機を持ってくると父さんはお茶碗の破片を1つづつ指で集めていた。
「すまんな、落としてしまって」
「いいよ、それより大丈夫?なんか様子おかしかったけど......」
「大丈夫だ。気にするな」
掃除し終えると夕食に戻った。だけど父さんの様子はなんかおかしかった。手が小刻みに震えている。何か思い出したら嫌なことでもあったのだろうか。
「ごちそうさまでした」
いつもより早くご飯を食べ終えると風呂に入って自分の部屋に戻った。
布団に入ってスマホの画面を開けるといきなりメモ帳のページが開いた。
メモ帳なんて使った覚えないのだけれど、
なんだこれ?
そこにはこう書かれていた。
『俺へ パソコンのパスワードを教えてほしい。スマホだと画面が小さい。もっと大きな画面で動画が見たい。スマホの容量が死にたくなければパソコンのパスワードを教えろ。 俺より』
これは、別の人格の僕の仕業か?
こんなメモは書いた覚えがない。
とりあえずスマホの容量を確認した。
毎月5ギガあって、今月はそんなに使ってないから....って、えっ!?
「あと0.2ギガしか無いんだけど!?」
絶対別の人格の仕業だ。
今までの出来事を振り返ってみた。確かに先月も、先々月もその前もずっと、あんまりスマホ触ってないのに気づけば低速モードになっていた。
くそぉ...やられた...
自分が認知されたからって堂々と言ってきやがって...
スマホの容量のためなら仕方ないか...
僕はそのメモ帳にパソコンのパスワードを書いた。
今日はもう寝よう、疲れた
僕は布団を頭までかぶり深い眠りに落ちた。
毎日1話ずつ投稿していきたいと思いますので、最後まで読んでいただけると幸いです。
ご意見・ご感想などをいただけると、投稿の励みになるので、送っていただけると嬉しいです。