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ロズリーヌの赤い薔薇  作者: 蒼山 螢
1章 クラシック
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 ロズリーヌも母を追いキッチンへ入った。食器を用意する。


「玉ねぎのスープをたくさん作ったのよ」


 モネルは大きな鍋の蓋を開けた。既に火にかけてあり、温かい。食欲をそそるいい匂いが濃くなった。


「この間、ヤンさんからいただいた玉ねぎを使って。ありがたいわね」


「お母様。今日またお野菜をいただいたの。あとね、パンも美味しいお店のものが格安で買えたの」


「まぁ、嬉しいこと。お腹が空いたでしょう。お疲れさま。早く食べましょう」


 ウキウキと準備をするモネルを見て、ロズリーヌも心が明るくなった。


 ダイニングテーブルに置かれた燭台の蝋燭に炎が灯される。

 パンを入れたバスケット、玉ねぎのスープからは湯気が立ち上り、食欲を刺激した。


 今日、店であった出来事などを、モネルに聞かせ、ふたりで笑いあう。母とのこの時間がいつまでも安らかでありますよう。そう思いながらロズリーヌは燭台の炎を見つめた。


「お母様、今日ね、テオドール・フォルチュ様がいらしたの」


「あら、また来てくださったの。それは光栄ね」


 モネルはテオドールの名を聞くと目を輝かせた。


「それでね、わたし、前にポプリを作ったでしょう? お母様が袋を縫ってくれた」


「ええ、わたしもまだ枕元に置いて香りを楽しんでいるのよ」


「ヤンさんがね、それを売り物にしたどうかって」


 おや、という表情をしたモネルだった。


「テオドール様がね、それに賛同して改良して作ってみたらって。相談に乗るし、その、参考になる書物があるはずだから屋敷に、招待するって……」


 モネルは口を手で覆って驚いている。


「勘違いしないで欲しいのだけど、お母様。わたしはいつも店の者としてきちんと対応をしているつもりです。なにもおかしなことはしていません」


「……なにも言っていないわよ」


「だって、お母様、そんなに驚かなくたって」


 モネルは、娘がなにかはしたないことをしたのかと疑っているのではないかと思ってしまった。


「はしたないことをしたとは思っていないけれど、その、そうね……ちょっと、公爵様がロズを見初めてくれたらなぁって、思ったわ」


 まるで少女のように上目遣いでこちらを見るモネル。仕草は可愛らしいのだけれど、ロズリーヌはその考えに賛同はできない。


「お母様。それは聞かなかったことにする。テオドール様はただ、お花にご興味がおありで、これは仕事の話なのよ」


「ごめんなさい。はしたないのはわたしのほうね。あなたを思って言ったことなの。怒らないでちょうだいね」


「怒っていないわ」


「家がこうじゃなければ……あなたも、良縁があったかもしれないのに」


 モネルが目頭を押さえる。


(お母様)


 体を壊し家にいるようになってから、モネルはこうして娘の不遇を嘆く。ロズリーヌは不遇だと思っていないのだけれど。しかし、母の思いも分かるので、ありがたく受け取っておこうと思う。別に気分を悪くすることではない。


「お母様が心を痛めることはないの。大丈夫よ。わたしはじゅうぶん幸せです」


 自分が笑顔でいれば、モネルも明るい気持ちになるだろう。そうであって欲しい。


「身の上を嘆くより明日のことを考えるほうが楽しいよ」


 ロズリーヌは千切ったパンを口に放り込んだ。


 夕食で、ロズリーヌはワインを飲んだ。ヤンがワイン好きなのでたまにくれるものが家に数本あるのだ。

 ガルデ国は果実酒の生産も盛んだ。高価なものから庶民でも手に取りやすい安価なものまであり、安くても美味しいものが飲める。


 果実からの栄養を摂取でき、女性たちのあいだでは美肌効果があると言われている。


 ロズリーヌは酒好きではないけれど、ほろ酔い気分になるのは悪くない。香りも好きだった。顔も真っ赤になるので小さいグラスに1杯程度。しかし、今夜は2杯、3杯と飲んでしまった。仕事中にいろいろあったからだろうか。帰宅して安堵しモネルと話しているうちにワインが進んでしまったのだ。


 夕食が終わる頃には、足がふらつくほどになっており、片付けを明日にまわし、自室に行って眠ることにした。



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