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この店で働くようになり、ヤンの手ほどきで植物の様々な知識を勉強することができた。しかしロズリーヌとしては、自分が商品を作り出すなんてことはできないと思うのだ。
「あの、香りが飛んでしまっているのです」
すぐ香りが飛んでしまうのは、作りが甘いせいだ。こんなもの、売り物にならない。テオドールはポプリに鼻を近付けた。長い睫毛に囲まれた目を閉じて香りを嗅ぐ仕草が美しくて、ロズリーヌは思わず見とれた。
(本当に、美しいかた。まるで白薔薇のよう)
銀が混じった金髪と琥珀色の瞳。ロズリーヌには、テオドールは人間として力強く花弁を広げて美しく咲き誇っているように感じる。
「まだ、かすかに香っている」
「……さすが、鼻がよろしいですね」
ロズリーヌは顔が赤くなるのを感じた。恥ずかしくて肩に力が入った。
「きみも鼻がとてもいいと思うが。こんな風に上品な香りを、花弁を混ぜ合わせ作り出すことができるのだもの」
テオドールが優しい笑顔を向けてくれる。
「改良の余地はあるだろうが、少し考えてみたらどうだい」
「は、はい……」
「俺でよければ、相談にも乗るよ。うちに、調香の書物があったはず。今度、屋敷に招待しよう」
(な、なに。どういうこと)
言葉の意味がよく理解できず、ロズリーヌは口をパクパクさせた。空気が足りない。
「そ、そんな、畏れ多いことです……」
考えてもいないことだったから、ロズリーヌは両手で頬を覆った。
「しかし、ロズ。お前も大人だ。夢のために、仕事のことを考えるのはいいことだと思うよ。公爵様のお言葉をありがたく頂戴しよう」
「は、はい」
「夢か。どんなのだろう。聞かせてくれる?」
柔らかく揺れる白薔薇が、微笑む。決して強制ではなく、柔らかく、優しく。ロズリーヌは、小さな声で答えた。
「自分の……花に携わるお店を持ちたいと、思って、います」
最後のほうは尻すぼみになってしまった。こうしてはっきりと自分の夢を語るのは初めてだった。母やヤンになんとなくそのようなことを言ったことはあったが。
「テオドール様。ロズリーヌはもうすぐ誕生日なのです」
ヤンさんが、こちらを見て眉毛をちょっと上げた。
(ヤンさんたら、そんなことお話しなくてもいいのに)
「おや。もうすぐ誕生日ですか。いつ?」
案の定テオドールがそんな風に聞いてくる。
「あと一週間で二十二となります」
ふむ、と考え顎に拳を当てたテオドール。なにか思いついたようにぱっと表情を明るくした。年上で大人の男性だが、こうしたところは少年のようで、イメージの差にドキドキするなと、ロズリーヌは気付かれないように息を飲み込んだ。
「ロズリーヌ、きみの一番好きな花は?」
「は……ええと、薔薇です」
「なるほど。ありがとう」
好きな花を答えただけ。うんうんと頷く彼の真意は分からなかったが、ロズリーヌはとりあえず笑顔を返した。
「閉店時に邪魔をして悪かった。それでは失礼する」
「帰り道、お気をつけて」
「ありがとう。ロズリーヌ、きみもね」
店の外に控えていたお供の男性に合図をし、テオドールは店を出ていった。
「はあ」
緊張を吐き出すよう、熱いため息をつくと、ロズリーヌは閉店の札をかけ、店の戸を閉めて施錠した。
「公爵様は、ロズがお気に入りなんだなぁ」
「ヤンさんったら。違いますよ。テオドール様は誰にでもお優しいかたです」
なんだか冷やかされているようで、ロズリーヌは口を尖らせた。
「身分違いも甚だしいですし、あまり調子に乗ってはテオドール様に失礼だし」
(あんなに素敵で身分の高いかた、お話できるのは嬉しいけれど、図々しく振る舞うのは控えなければ)
ロズリーヌは表情を引き締めた。
「そうかなぁ。いや、まぁいい。もういいから、早くお帰り」
「はい。では、お疲れさまでした」
帰りの支度を整えて、ロズリーヌは店をあとにした。




