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自分が酷いことを言ったせいなのに、どの顔をして言っているのかと思い、俯いた。すると、テオドールが頬に触れてくる。体がぐっと近付いて、腰を抱かれた。
「あ……すみません。その、いま走ったから」
ジャンと打ち合わせをしてから、お化粧を直していない。口紅も取れているだろうし、ポプリを取りに走ったから、髪も乱れているだろう。
「ロズリーヌ」
「あっ」
玄関ホールだというのに、テオドールはきつく抱きしめてきて、ロズリーヌの細い体を壁に押しつけた。
それからまるで貪るように唇を吸ってきた。
「……ふぁ」
空気を求め苦しそうな呼吸をしたら、やっと離してくれた。
唇は離しても、体は離そうとしなかったので、ここへ誰かが通りかかったらどうしようかと、ロズリーヌは気が気ではなかった。
「ごめん、その、我慢できなくて」
もう、行かなくてはいけないのに、ニコロや御者を待たせているのに。
触れられれば、ぬくもりが嬉しいと思ってしまうことが憎い。テオドールの匂い、唇のぬくもり。愛おしかったのだ。
(この気持ちが、自分のものじゃないと思いたくない)
テオドールの胸元をきゅっと握った。その手を、大きな手が握る。ロズリーヌは少しだけ握り返した。顔をあげて、視線を合わせた。テオドールは、疲れた表情のなかにも、熱っぽい視線で見てくる。
「悩ませて、悲しませて悪かった。帰ったら、これからのことをきちんと話そう」
ふっと微笑んで、ロズリーヌから体を離した。
手を振り、玄関を出ていく。ロズリーヌは追いかけた。テオドールはすぐに馬車へと乗り込んだ。そして馬のいななきとともに馬車が出発する。玄関から出ると、太陽が眩しい。
「気をつけて」
聞こえないかもしれないけれど、声をかけた。馬車窓からテオドールが顔を出し、手を振っている。
これからのことを話そう。前向きか、後ろ向きか。心がどちらへ向くのか、いまは分からない。テオドールがどう考えているのかも。
ふたりの前世の記憶が負の要素にしかならないなら、きっと別れが待っている。
自分は、どうしたいのか。
ポプリ事業だけに意識を向けて、大事な問題から目を背けている。
(分かっているのに。見たくない。怖い)
天気が良く、青空が広がるフォルチュの庭。緑と、植えられた花たちのコントラストが美しい。調和の取れた景色。こんなに美しいのに、心のなかが醜い気持ちでいっぱいだった。
(わたしのなかのロザーナが、死ねばいいのに)
いますぐ青空に醜い気持ちと記憶を飛ばしてしまいたかった。
見上げた空が美しすぎて、ロズリーヌは目眩を起こし、その場に座り込む。
遠ざかっていった馬車はとっくに見えない。そこから、動けなかった。




