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馬車の行く先に、噴水広場が見えてきた。煉瓦が敷かれた広場を囲むように建物が並び、店が多い。そのなかのひとつがヤンの店コーントだ。
馬車が停車すると、ニコロがドアを開けてくれる。待ちきれなくてロズリーヌは飛び降りた。
「ロズリーヌ! 危ないよ」
テオドールの不安をよそに、馬車を飛び降りたロズリーヌは振り向いて笑顔で言う。
「そんなに心配しないでください。大丈夫!」
「きみはもう、仕方がないなぁ」
眉を下げテオドールがあとからゆったりと馬車を降りたときだった。
「ロズリーヌ!」
モネルが店から顔を出した。
「お母様!」
「元気だった? 困ったことはない?」
走り寄って抱きついたロズリーヌに「もっと顔をよく見せてちょうだい」と体を離して頬を撫でるモネル。
「大丈夫。安心して、皆さん本当にとてもよくしてくださるんです」
「……その笑顔を見たら、どれだけ幸せかわかりますよ」
ふっと笑ったモネルの顔色が少し悪かった。離れていてもロズリーヌには分かった。
(お母様、少し痩せたよう。大丈夫かしら)
そこへ、店からヤンが顔を出した。
「お帰り! ロズ」
「ヤンさん! お久しぶりです。お元気そう」
「おかげさまで。テオドール様、ご無沙汰しております」
ヤンの挨拶を受け、テオドールも笑顔で答える。
「きみも元気そう。モネル、奥に案内しよう」
ヤンはモネルの肩を支えるように抱いた。
「朝からそわそわして、無理はいけないと言ったのに」
「大丈夫なのよ。ロズの顔を見たら元気になったわ」
そのような会話をしている。やはり、あまり具合がよくないのだ。
奥へ案内されながら、改築の様子を見て回る。店も少し広々とし、収納が増えていた。生花と野菜が混在して陳列されていたところも分けられ、見やすくなっていた。
住居のスペースも、壊れた壁などが修理されている。
応接が設けられていて、そこへロズリーヌたちは案内された。ニコロとジニーは紹介のあとに馬車で待機となった。
「このように家と店を改築し整えていただいて、本当になんとお礼を言ってよいやら。ありがとうございました」
ヤンが、改めてテオドールに感謝の言葉を告げる。
「こんなことしかできません。おふたりがロズリーヌを大切に育ててきてくださったから、ふたりの幸せがあるのです。ありがとうございます」
テオドールの言葉を聞いて、ほっとした様子のモネルだったが、胸を少し押さえている。
「お母様、なんだかちょっと顔色がよくないわ」
「改築後、嬉しくてついがんばってしまって。でも、大丈夫なのよ」
「店の手伝いをしたいと言ってくれてね。商品陳列をあのように整理してくれているのは彼女なんだ。さすがだなと思って。止めなかったわたしが悪かった」
「いいえ。つい調子に乗ってしまったわたしが悪いのです。数日前に風邪をひいてしまって」
やはり、体調が悪いのだ。ロズリーヌは一気に不安になる。2年ほど前にも高熱で何日も寝込んだことがあったのだ。
「お医者様にはかかったの? お母様は風邪をひくと高熱が出るから、注意しないと」
「そう、ね……」
モネルがロズリーヌに微笑んだときだった。モネルは椅子から崩れ落ちそうになった。ヤンが寸でのところで受け止める。
「お母様!」
「いけない。今朝から微熱があると言っていたのだけれど、熱が上がったんだ。せっかくテオドール様とロズが来るからと無理をしていて」
「お母様、熱があるの?」
「大丈夫よ。ごめんなさいね。少し目眩がして」
モネルの額に触れてみると、確かに熱い。具合が悪そうだった。どうしよう。ロズリーヌは焦る。
「ニコロ!」
後ろでテオドールがニコロを呼んだ。
巨体からは想像も付かないような、まるで獣のように静かに姿を現したニコロに、テオドールがなにかを告げる。ニコロはまた素早く外に出ていった。
「お母様をベッドへ運びましょう」
「テオドール」
「ロズ、大丈夫。心配しなくていい。医者を呼んだから、すぐに視て貰おう」
ヤンが頷き、モネルを抱き上げて部屋を移動した。寝室へと運んでいく。
ロズリーヌとテオドールも一緒に行くことにする。寝室も改築されたのだろう。真新しい壁と、綺麗に整頓された清潔な部屋だった。ベッドがふたつ並んでおり、編み物が途中でサイドテーブルに置いてあるほうのベッドにモネルは寝かされた。




