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テオドールはロズリーヌの肩を抱く。告白のあと、やたらと触れてくるようになったので、いちいち顔が赤くなるし心臓がドキドキする。
「迷惑なんてあるものか。なにも持っていなくても、きみが体ひとつで来てくれればいいんだ。俺の望みは、ロズリーヌ、きみ自身なんだ」
「だって、その、わたし、テオドール様に釣り合わないです」
「なぜ」
「わたし、貴族の娘じゃないですし……没落貴族の子孫ですよ? いまはただの花屋店員の庶民です……」
「うちは別に貴族から妻を迎えなくてはいけない決まりはない。国と領土の法律にもないよ。いまの当主は俺だよ。好きな女性と結婚したい」
じっと見つめられて、たまらず目をそらす。
「貧乏で、ちんちくりんです……」
「なにを言っている。きみは、どれほど自分が美しいのか分かっていない」
ケーキが甘すぎておかしくなったのではないだろうか。ロズリーヌはケーキをちらと見る。
「テオドール様は、素敵なかた……ですし」
「俺が素敵? それは、俺を好きってこと?」
(どうしてそうなる)
テオドールに憧れていたことは事実だ。ただ、それと好きだという恋心とは別だと思っていた。
姿を見かけ、声をかけられるだけで心が躍り、話せるだけで、嬉しかった。
この気持ちに名前をつけるべきなのだろうか。
しかし、気持ちだけで走っていいときではない。
「あの、母のことが」
肩を抱く手は離れていかない。この状態ではうまく話せるか分からないが、伝えなくてはいけない。
「母は、あまり体が丈夫ではありません。ここにひとり残しては行けません。だから、わたしは、あの」
この結婚を受けることはできない。テオドールになにもできないのだ。
(きちんと、お断りをしないといけない)
続きを言おうと思ったとき「なんだ、そのことか」とテオドールが明るく言った。
「え?」
「お母様のことももちろんきちんと引き受けるよ。お体が弱いことももちろん知っている」
「そ、それならば、尚更」
ロズリーヌは体に力を入れて、テオドールから体を離した。しかしまた肩を抱かれる。なおも離れようとするロズリーヌの腕を引き寄せるテオドール。正面から見据える琥珀色の瞳は、真剣だった。
「それは、俺がきみを諦める理由にならない」
いままで優しく柔らかな表情しか見たことがなかったけれど、こんなに真剣で強い彼をロズリーヌは知らなかった。驚くロズリーヌに気付いて、彼はふっと力を抜く。
「ロズリーヌ。俺は真剣なんだよ。きみのその、お母様を思う優しい気持ちをないがしろにすると思った? 今頃、ニコロがきっとそのへんのこともお話していると思うよ」
「そ……う、なのですか」
最初からそのつもりだったのだ。説明するために、ロズリーヌとモネルの母娘を離したのだろう。
どうしてそこまでしてくれるのか分からない。自分の、なにがいいのだろう。
「安心して、俺のところへ来るといい」
テオドールのその言葉は、ロズリーヌの堅くなった気持ちを確実に柔らかくしていく。
「どうして、そこまでしてくださるのですか」
彼の優しさが、自分には重い気がして。ありがたいし、嬉しいのだけれど。
ロズリーヌがまだ不安そうに聞くから、テオドールはにっこり微笑んで、綺麗な指でロズリーヌの頬に触れた。
「ロズリーヌのことが、好きだから」
ほかに、なにが必要だというのか。そんな声が聞こえてきそうだった。
これはきっと、母とふたりでがんばって生きてきたご褒美なのだろう。きっとそうなのだ。
憧れていた男性から告白と求婚をされ、母娘で面倒を見てくれる。
なんの不安も無いはずなのだ。
頬に触れていた指が顎へ移動し、上を向かせる。
ロズリーヌは、テオドールが顔を近付けてきたのが分かったので、そっと目を閉じた。それが、返事だった。
額にそっと触れたテオドールの唇は、柔らかくて温かかった。




