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居心地のよすぎる邸

 

 薄いコットンをボイルして柔らかい風合いを出した透け感のある布地を幾重にも重ねた、ふんわりとした膝上丈の白いワンピース。

 デザインはシンプルだが裾や袖ぐり、襟元にコットンレースが仕込んでありよく見ると凝っているのがわかる。腰回りがゆったりしたコクーンシルエットなのにシャラが着ると華奢さをより際立たせているようだ。



「これ、ほんとうにもらってもいいの?」


「ええ、あの長袖の制服ではここでは暑いでしょう?娘のお古ですが着心地はいかがですか?」


「丁度いいです!それにめちゃくちゃかわいい……!」


 シャラは鏡の前で角度を変えてシルエットを何度も確認している。

 カランシアの乳母であるハンナの娘のお古ということらしいが着古した様子は全くなく、まるでシャラの為に仕立てたようなぴったり感だ。


 白のシルクサテンのバレエシューズも子供用ということだがシャラに合ったサイズ。ふくらはぎくらいの短くてシアーなナイロンソックスを履くとワンピースとのコーディネートもバッチリ。


 浮島ではまず着ないようなナチュラルな素材感がシャラには逆に非日常的な特別さを感じられてうきうきする。


 昨日のカランシアも全身白のコーディネートだった。汚れを気にせず真っ白な服を日常的に着ることができるのが貴族の特権というのもあるがこの地方では白だと真昼の暑さも和らぐことから機能的な意味もあるらしい。


「まるで娘が幼い頃遊んでいたおしゃれな着せ替え人形のようですよ。素敵ですねぇ」

 ハンナがにこにこしながら何度もウンウンと頷いている。


「ハンナさんありがとう!とてもうれしいです!」


「気に入ってもらえてよかったですよ。朝食の準備もそろそろできるでしょうから食堂に降りましょうかシャラさん」



 この邸の使用人はとても親切だな、とシャラは昨日から感心しっぱなしだ。居心地が良すぎて正直迷子になっているというよりもリゾート地に来た旅行客のような気分さえする。

 人間の暮らしは非効率的で不便極まりないというのが魔女からの一般的な評価だがここは全く違う。


 食堂に向かう廊下から窓の外を見ると洗濯物をメイド二人掛かりで干している光景が見える。

 青空の下で、朝の涼やかな空気の中で清潔なシーツを丁寧に広げている様子は爽やかで気持ちがよい。


 魔女が惜しむ手間や時間を、逆にゆっくりと慈しんでおこなっているようにシャラには思えた。


 何でも手早くさっさと済ませる、というのだけが正しいというわけではないんだわ。とフルブレックファストと呼ばれる盛りだくさんの朝食を目の前にシャラは更に感心した。


「わー、これ魔女の朝ご飯?」

 カランシアが驚いている。朝ご飯はかなりのボリュームだ。


「豪華版魔女の朝ご飯ね。普段はトーストに紅茶だけ、とかもっと質素だけど」


「極端なんだねぇ。焼いたトマトにマッシュルームとベーコン、揚げたトーストにマーマレードとスクランブルエッグと、これは豆かな?こっちの黒いのは?」


「ブラックプディングね。て、私も食べたことないわ!晴見浮島の魔女の伝統食をまさかここで初めて食べるなんて~」

 昨夜の夕食も驚いたけどどんだけもてなし上手なんでしょう?ここの料理人さんは。ハンナさんに止められるけど本気でお礼を言いたいわ~。




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