表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

ここ暫くの経緯

今まともに書き上がってるのはここまでです。次話は半分出来上がってるので早ければ今夜、少なくとも明日中には投稿できるかと思います。

 




 マルグリット=ロザーリア=トリア=コリン=カークランド。


 それが現在の私の名前である。公で口にするフルネームは、これ。他にも大量にミドルネームがあるけれど、基本的にはこれがフルネーム扱いだ。私が[知っていた]名前では、マルグリット=ロザーリア=カークランドだったけど。





 そう、私には、まさかの前世の記憶がある。





 思い出したのは僅か数ヶ月前。

 最近身長が伸びてきたな、と思ったら(お医者さんにとっては)原因不明の高熱と凄まじい頭痛に苛まれて数日寝込んだ。あまりの痛さに体力が切れるまで気絶もできず、ぼろぼろ泣きながら悲鳴を上げる幼い私に父も母も使用人も自分達の方が死にそうな顔をしていた、気がする。正直記憶が薄い。完全に前後不覚だった。


 気絶も許されず、蘇った記憶に付随する高い精神年齢で何とか根性で水と僅かな果物だけはと無理矢理胃に流し込んでいたものの、本当に辛かった。周りを配慮する余裕なんて一切ないしんどさで、数日のことだったらしいけど何ヶ月も苦しんでいた気がする。そのくらい辛かったし全く周りも把握できなかった。


 漸く落ち着いて息も絶え絶えながら父と母の名を呼ぶと、泣き崩れながら抱き締められた。……前世の自分より少し歳を重ねただけ、まだ二十代の両親には本当に申し訳ない。二人共隈を作っていたし、顔のラインも少しシャープになっていた。

 さもありなん、幼い娘が痛い助けてと絶叫しながら涙を流し、日々痩せこけていく姿は若い夫婦には相当ショッキングだっただろう。父は出仕せずに、母はほぼ不眠不休で張り付くようにして私の手を握っていたらしく、その後逆に二人が軽く体調を崩したくらいだ。



 恐らくだが、体が成長し、脳が耐えられるようになったから記憶が戻ったのではないか、とは思う。それでもまだ幼い子供が数日ほぼ絶食し、食べたものの大半を吐き戻したせいで内臓が弱った上に腕や足の皮が余るほど痩せてしまったし、何より、母譲りのハニーブロンドが真っ白になってしまった。過剰な負荷が原因だろうが、何がどうなったのか、一時的な白髪ではなく、今も伸びた部分全てが白い。この勢いだと、多分今後もこのままだろう。




 お手洗いの鏡に映るそんな自分を覗き込んで、小さく溜息をつく。

 両親やお医者様、メイドや料理長に懇願されるまま頑張って食べた食事と運動のおかげで落ちた体重や筋肉は何とか戻った。まだ疲れやすいけど、餓鬼かと見紛う窶れぶりは跡形もない。

 最初は冗談抜きで膝から力が抜けてベッドから転がり落ちたくらいで、あの時はまたお母様が悲鳴を上げるわ泣くわで大変だった。いや私も軽率だった、反省はしてる。心の傷になってるとわかってたのに無思慮な行動だったと思っている。だからお父様、早急に私専属の使用人をなんて用意し出すのはやめて。



 ただ、アルビノでもないのに真っ白な髪はひどく人目を引くし、瞳の色も少し変わってしまった。ゲームのグラフィックと一致するようにはなったんだけど。中身がこうな分、外見くらいは両親の子供だと自信を持って主張できる容姿がよかったなあ、と今更思う。自分の顔と思えないから尚更だ。




 気は進まないが、あまり篭っているわけにもいかない。お手洗いから出ると、家からついてきてくれたお母様付きの侍女が待っていた。一応切り上げたつもりだがそれでも長かったらしく、彼女は心配そうにこっちを見ている。


「大丈夫、お腹が痛かったりしたわけじゃないわ」

「……申し訳ありません、どうしても心配で」

「いいの、あんなことの後だもの、当たり前よ」

「お加減が優れない場合は、すぐに仰って下さいませ。退出のお許しも頂いておりますから」


 記憶の有無に関係なく、立場に見合う教育を受けていたせいかこまっしゃくれた喋り方の私にも怯みも恐れも蔑みもしない彼女は流石お母様の侍女だ。真っ白になってしまった髪といい、本能的な忌避感を拭い去れない人は多いんだけど。そう言えばさっき顔合わせした子供達も全員表には全く出さなかったな。可愛げはないけど頼もしいし、付き合いやすくてありがたい。流石私と同じような教育を受けているだけある。



 とことこと歩く長い廊下は、うちのものではない。



 行政関係の場所とは離れているんだろう、そこまで人通りのない廊下は、この国の王宮のもの。そして私がさっきやっぱこいつらかーと諦めの目をさせられていたのはこの国の時代を担う人材達。




 ……それに引き合わされた私もまた、その一人だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ