Operation#3:コード・ヴェルメリア(10)
三回目の声の聞こえた瞬間、和仁の意識は強制的にコックピットの中へと押し戻された。状況がわからずきょろきょろと見回す和仁の目の前で、計器が次々と光を失ってゆく。
そして最後にはコックピット内部のライトも消え、真っ赤な非常灯だけが周囲を不気味に照らし出した。
「なんだ、どうなってんだよ……」
意識を機体の外側に持っていこうにも、全く反応がない。スティックをいくら動かしても、それは変わらず。
だが、それは一瞬の事であった。まず、正面の主計器フラットディスプレイに火が灯る。
だがしかし、どうもこれまでと様子が違う。主計器フラットディスプレイ以外の全ての機器が沈黙したままで、非常灯すら通常のライトに切り替わる様子がない。
すると主計器フラットディスプレイから全ての計器類の情報が消え、白文字のテキストメッセージが表示された。
『システムを再構成しています』
次にその下にバーとパーセンテージが表示され、瞬時にバーが右端までたまる。
テキストメッセージはパズルのようにバラバラになって画面の端に消えてゆき、再び集まって別のテキストメッセージを構成した。
プロ――ム【O――r―l―w.―xe】は―常に―――トールされまし―。
搭載―能:アク――エータ出―強化
:粒――器出力―化
:―源優先―ログ――
「何だ? プログラムを……インス……トール?」
何かのプログラムがインストールされたようだが、肝心のプログラム名が文字がかすれていて読めない。
もっとも、読めたとしてもどんなプログラムなのかは、判別がつくとは思えないが。
そして最後、テキストメッセージは再びバラバラに飛び散り、フラットディスプレイの中央に赤いもやもやとしたものが浮かび上がった。
『Cord:Vermelhor start』
もやもやは、はっきりとした輪郭を結び、英語と思われるテキストメッセージを浮かび上がらせる。
その瞬間、和仁の意識は急速に紅金へと吸い込まれていった。
日本の新型機を取り押さえる戦人機のランナーは、ようやく動きを止めた目標に一息ついていた。おおよそ戦人機とは思えないような滑らかな動きは、驚嘆に値する。もっとも、動きから察するに戦い方すら知らない素人のようであったが。
もし今乗っている機体が陸連の国々で生産されているライセンス生産であったならば、間違いなく自分は死んでいただろう。いや、例え本国で製造された正規品であったとしても、この状況に持ち込めるかと言われれば難しい。
なにせコイツは本国で生産された正規品をベースに、第三世代機開発用のデータを採取するため大幅な改修がなされているタイプなのだから。言うならば、二.五世代機、と言ったところである。
そして自分以外の誰かがこの機体のランナーであったとしても、こうはいかなかっただろう。日本の開発した最新鋭の人型戦闘機甲、まったく恐ろしい性能だった。静音性・運動能力・耐久力のどれをとっても西側の第二世代機を上回る。
コンセプトが対人型戦闘機甲戦を想定したものなので、現在先進国各国で配備が急速に進められている第二世代機のセンサー類にひっかかりにくいというのは承知していたが……。特に空中装甲、日本では仮装粒子装甲であったか。映像資料等視聴したことは何度かあったものの、実際に見たのは初めてであった。もし資料すら見た事がなければ、反応すらできなかったかもしれない。
不意に想像してしまい、ランナーはふっと口元に薄ら寒い笑みを浮かべる。それはそうと、これをどうやって運搬したものか。戦人機を拘束できるような装備はなく、応援を呼ぼうにも残りの部隊はもう一機の新型と交戦中だ。
自分以外に支給されているのは通常仕様の機体ではあるが、本国で製造された物である。以前奇襲攻撃を仕掛けた時に投入したアジア大陸連盟の機体よりも、性能はずっと高い。
ランナーの腕も、自分ほどではないにしても申し分ないと言える。そうそう、やられるようなヘマはしないであろうが、向こうはランナーの腕も相当なものときている。被害を出さずに撤退するのは難しいだろう。
そうやって思考を巡らせていると、不意に戦人機のセンサーが反応を示した。どうにも、熱センサーが取り押さえている戦人機の温度変化を捉えたようだ。この期に及んで、まだ抵抗する気だろうか。いや、これが日本人の好きなコンジョウロンや、ブシドウとかいうものなのだろう。
この際、腕の一本や二本は目をつむろう。そう思い、ランナーは日本の新型機の腕をねじ切ろうとした。
「なにッ!?」
だがランナーの想像とは裏腹に、強烈な衝撃が戦人機に襲いかかってきた。後方に吹き飛ばされる中、懸命にバランスを取る。
辛うじて転倒を避けたランナーは、いきなり動き出した日本の新型機を見すえた。
「どれだけクレイジーなランド・ファイターを作れば気が済むんだ、連中は……」
そこにはただならぬ気配をまとった戦人機が、悠然と佇んでいた。




