Operation#3:コード・ヴェルメリア(7)
和仁とフェリルは先ほどまで乗っていた車にもう一度飛び乗り、陸自の仮駐屯地に向かっていた。
『ここから北西の山間部で、暴竜らしき機体が確認されました』
「たぶん、この前の生き残り。場所は……ここ」
車の中では郁奈を含めた三人と、仮駐屯地の自衛官数名によるブリーフィングが行われる。三人の中央にはホログラムによって自衛官達が映し出されており、険しい表情で状態の説明を始めた。
それが終わると和仁とフェリルの視界には、郁奈から送られたこの付近の衛星写真が映し出される。だが、こんな場所でどうして。和仁のその疑問は、次に表示された衛星写真によって解決された。
「この大型トラックって」
「木更澤と三笠ので、間違いないと思う」
和仁が口にできなかった言葉を、フェリルがはっきり言い切る。やはり、残念ながら和仁の見間違いではないらしい。
『画像解析の結果、本日の試験で使用された試作粒子大銃、LFCPG―X06と、その粒子貯蔵タンクの紛失が確認されました。恐らくは、陸連に奪取されたものと推定されます』
『君達には、この試作粒子大銃と貯蔵タンクを奪還、あるいは完全に破壊してもらいたい。現状、この近辺で現場に投入できる戦力は、白銀と紅金の二機しかいない』
二度目の実戦。恐怖と緊張感のごちゃ混ぜになったものが、和仁の全身にくまなく這い回る。今日の試験ですらあれだけ緊張していたのに、まともに動かせるのだろうか。
それと同時に、以前フェリルが見せた圧倒的な戦闘も思い起こされる。旧世代機との性能差をまざまざと見せつけたあの戦い。あれと同じように動かす事ができれば、あるいは。
「リコールで返しちゃったのが、裏目に出たみたい。仮想粒子装甲展開盾は、納入されてるから大丈夫だったけど。ごめんね、二人とも」
「カナが謝る事ない。悪いのはワタシ。あの時、全滅させてたら、こんな事には」
「それも違うだろ。悪いのは全部陸連の連中だって」
半ば泣きながら謝る郁奈を、フェリルと和仁は制した。
郁奈はどこも悪くない。起きてしまった状況に対して、当たり前の対応をしただけだ。
郁奈をなだめながら、和仁とフェリルはホログラムの自衛官達に向き直った。
『一八一五、雪野二曹及び天城三曹の両名に、試作粒子大銃と粒子貯蔵タンクの奪還、あるいは破壊を命ずる。駐屯地に戻り次第、各員の人型戦闘機甲にて待機せよ』
「了解しました」
「りょ、了解しました」
フェリルに倣って和仁も返答する。それから一分も経たない内に、車は仮駐屯地の格納庫前へと滑り込んだ。
ついさっきまで着ていたランナースーツに着替えた二人は、即座に各々の戦人機へと乗り込んだ。それと同時に後部のハッチが閉じ、プシューッと空気の抜ける音──機密扉のロックを確認する。
既に機体のシステムは立ち上げられており、最新の計器が外部情報を表示していた。
『かず、聞こえる?』
音声と同時に正面モニターの一部が四角く区切られ、郁奈の顔が映し出された。画面の端には、他の自衛官の姿もちらほら見える。
「聞こえる。どうかしたの?」
『うん。紅金の装備の事。主兵装は、92式の装備を使う。フェリルも同じ装備だから、良く聞いてね』
『ワタシの白銀の装備は?』
郁奈の画面の横に、小さく白銀のコックピット内の映像も表示された。落ち着いてるな、フェリルの方は。
『この前の戦闘データを元に調整中。今は東京の雪野重工本社工場まで旅行中』
『わかった。説明をお願い』
フェリルが促すと、正面モニターが外部映像から別のものへと切り替えられた。映し出されているのは、二種類の兵装。写真と図面、それから細かなパラメータが書かれている。
『まず、99式自動大銃。弾種は15.2mm徹甲弾。反動は前に使った暴竜のアサルトライフルより大きいから注意。弾も多めに携行させるけど、残弾数には気を付けてね』
銃の説明が終わると同時に、画面は次へと移行する。
『それで、こっちが92式仮想粒子装甲展開盾二型。今日テストしたのより性能は低いけど、戦人機の携行できる火器ならまず貫通される事はない。こっちも、粒子残量から目を離さないように』
『白銀、発進準備完了しました!』
『紅金の方も、準備完了です!』
郁奈の説明が終わるのと同時に、外部マイクが整備士の声を拾い上げた。瞬時に正面モニターが外部映像に切り替わり、機体から離れていく整備士の姿を映し出す。
四角く区切られていた郁奈の映像は正面左下に寄り、その反対側には白銀のコックピット内の映像がさっきまでより少し大きく映し出された。
『どう? カズヒト。緊張してる?』
例によって、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているが、今はそれが頼もしい。
「こんなの、緊張しない方がおかしいだろ」
『大丈夫、フォローはしてあげるから。可能な限りだけど』
「『可能な限り』……ねぇ……」
つまり、自分の事は自分でなんとかしろ、と。重くのしかかるプレッシャーに、痛いほど心臓が鼓動する。和仁は胸に手を当て、深呼吸を繰り返した。
シミュレーターで何度も繰り返してきたではないか。あれと同じ事をすればいいだけだ。
『前より数は少ないんだから、そんなに気にしない。そんなにしてると、カナが泣くわよ』
『かず、わたし達の機体、そんなに信用できない?』
へっ!? と思って左の通信画面を見ると、郁奈が目をうるうるってさせていた。
「ちがっ!? そういうわけじゃなくて……」
『ふふふふ。冗談』
どうやら、演技だったらしい。でも、おかげで緊張も少しはほぐれた。
『かず、頑張ってね』
「…………やってみる」
それを聞き届けると、郁奈の映像はプツンと途切れた。
その代わりと言わんばかりに、大きなブザー音が格納庫いっぱいに響き渡る。
『白銀、紅金、発進してください』
外部マイクの拾い上げた音声が、いよいよその時を告げた。
『了解。カズヒト、アークスにジャックを。それと、スティックの操縦はできる?』
「まあ、歩かせるくらいなら」
『ジョウデキよ。付いて来て』
正面のシャッターが上がり、赤く染まったアスファルトが視界へと映り込む。その向こう側へ向けて、白銀は動き出した。
和仁もそれに続くように、正面の主計器フラットディスプレイの下からジャックを引っ張り、首元のアークスへと繋げる。途端に五感の感覚が拡張され、まるで体の先端から中心に向かって力が流れ込んでくるよう。
「頼むから、ちゃんと動いてくれよ……?」
大きく息を吐き出し、和仁はフットペダルを踏み込んだ。




