Operation#2:タイラント・プリンセス(4)
姉との再会、アジア大陸連盟軍の襲撃、戦人機での戦闘、そして美少女転校生(性格は最悪)の同居。慌ただしい出来事が目白押しだった日々に、ようやく訪れた平穏な日曜日。
今日までの溜まった疲れを吹き飛ばすかの如く惰眠を貪っていた和仁であったが、それはこの部屋の新たな住人によって物の見事にぶち壊された。
「起きろ、カズヒト」
「いひゃひゃひゃひゃっ!?」
思いっきり頬をつねられ、無理やりに起こされる。
新たな住人の振る舞いは、まさに暴君。かつて存在したソ連や東ドイツも真っ青の独裁体制が、既に和仁の部屋には敷かれているのである。
「おはよう、カズヒト」
「……おはよう」
つねられた頬をさすりながら、和仁は声のする方を見やる。そこには小さくて可愛らしい暴君こと、昨日から同居人となったフェリルミーナ、フェリルの姿があった。
できるならば、もう少し力加減をして欲しいものである。つねられた頬が未だにジンジンと痛む。
「てか、起こすならもっと痛くない方法でしてくれ」
「そっちがいつまで経っても起きないのが悪い。今何時だと思ってるの?」
言われて視界の時計を確認すると、九時を過ぎたくらい。平日ならば一次限目の授業を受けているが、日曜日ならまだまだ寝ている時間帯だ。
「まだ九時じゃねぇか。もう少し寝かせてくれよ」
「ワタシ、行きたいところがあるんだけど」
「なら、行けばいいだろ?」
「来たばっかりだからこの辺のお店よくわからない」
「なら調べろ」
「わからないから案内して」
「って人の話聞けよ!」
横暴にもほどがある。耐えかねた和仁は正面からビシッと言ってやろうと思ったのだが、その直後正視できずに顔を背けてしまった。
「カズヒトォ?」
「な、何だ?」
「何でこっち向いてくれないのぉ?」
「ななな、何でもないっての!!」
さっきまでの抑揚のない声音が一転、和仁の精神をくすぐる甘ったるい声に体の中心がぞくぞくする。
だって、だってだぞ? フェリルときたら、昨日着てきた制服一着以外、何も着る物を持ってきていなかったんだぞ! そんなわけで、今は下着の上に和仁のワイシャツ一枚着た、見た目裸ワイシャツ状態だったりするのだ。健全な男子高校生の目には非常に悪い。主に性的な意味で、性的な意味で!
しかもその下着すら、和仁がもう一度寮を抜け出してコンビニで買ってきたものある。男性用ならまだしも女性用下着だったりするものだから、店員さんの目がとても痛かった。
唯一の救いは『普段使ってないコンビニまで買いに行く』という判断力が残っていた事か。それでも、顔から火が出るくらい恥ずかしかったのは言うまでもない。
動揺する和仁が楽しいフェリルは、さらに過激な行動に出る。
「それにしても、この部屋暑いわねぇ。まぁ、夏だもん。仕方ないかぁ」
とか言いながら、ぷちっ、ぷちっ、とワイシャツのボタンを上からゆっくりと外し始めたのだ。
「フェ、フェリルさんっ!? いったい何を!!」
「何って、だって暑いじゃん?」
といって、また一つ。昨日和仁がわざわざ遠くのコンビニまで行って買ってきたブラが、カップの上端部をちらりとのぞかせた。
フェリルの瞳と同じ済んだ青色ぐわ! 白いレースぐゎあ! 和仁の目にぐさっと突き刺さる。
「わかった。わかったからそれ以上は!」
とても見たいけども、絶対に見てはいけない気がするんです。
白旗を上げた和仁であるが、フェリルはまだ攻める手を緩めようとはしない。
「何がわかったの? ワタシにもわかるようにぃ、簡潔に言ってぇ?」
「道案内でも何でもするから、とにかくそれ以上脱ぐな!」
言質を取ったフェリルの口元が、ふっとほころんだ。
これくらいの色仕掛けで根を上げるなんてけっこうウブなのね、と嘲笑を浮かべる。
「それにしても案外義理堅いのね、カズヒトって。ちょっと見直した」
「義理って誰にだよ。別に俺は…………そんな相手いないっての」
和仁的にはなんとなく倫理的にイケナイ気がしただけであって、別に誰がどうこうという気持ちはなかったのであるが、フェリルは誰と誤解したのだろう。
緊張から解放され少しばかり冷静になった頭で、ふと考えてみる。
しかし、そんな和仁の心中をかき乱すように、フェリルはえいっと最後のボタンを外してしまった。
「っておいっ!?」
大慌てで両目を覆う和仁であるが、やっぱり煩悩には勝てず指の間には小さな隙間が開いていたり。
「なななな、なんで脱いでんだよ!!」
「だって、脱がないと着替えられないでしょ。制服」
「へ?」
話に付いていけずに呆けている和仁を置いて、フェリルは丁寧に畳まれた制服を持って立ち上がった。
「別に、下着姿くらいなら見せてあげてもよかったんだけど。これ、カズヒトが買ってきたやつだし。でも残念ね、カズヒトが見たくないんなら」
見られてもよかったのかよ。なんて後悔しても遅い。和仁を思う存分弄んだフェリルは、浴室へと入ってしまった。
こんな事なら謎の良心なんて発揮せず、流されて見てしまっていた方がよかったかも。
「にしても、どこ行きたいんだよ。場所くらい言えっての」
フェリルがいなくなって手持ち無沙汰な和仁は、二人分の布団をたたみ始める。買い物となると街はあんなだし、もっと大きな街に行った方がいいだろう。幸いにも、鉄道の方には被害は出てない。
ついでに、アークスにチャージしてある電子マネーも確認。うん、往復の電車代と多少は遊べるくらいの余裕はある。
「ほんと、つまんないんだから」
制服に着替えながら自分一人しかいない浴室で、フェリルは不満げな表情を浮かべていた。




