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Operation#2:タイラント・プリンセス(2)

 シミュレーターにのめり込みすぎていたせいで、既に学食のラストオーダーの時間は過ぎてしまっていた。仕方がないので、フェンスを乗り越えてコンビニで夕食を確保する事にする。

 夕方以降の外出は校則で禁止されているのだが、代々引き継がれている伝統の抜け道があるのでその点は心配ない。監視カメラの死角をかいくぐり、二人は学校の内外を仕切るフェンスまでたどり着いた。今回は郁奈の時みたいにならないよう、和仁が先にフェンスをよじ登る。

 続いてフェリルも、慣れた感じで簡単にフェンスを乗り越えた。よく考えてみれば、女の子でも自衛官なんだから、これくらい朝飯前か。

 そしてコンビニで弁当とお茶を確保した二人は、再びフェンスを乗り越えて学内への帰還を果した。

 しかしその間、二人は一言も言葉を交わしていない。和仁の方は何度か挑戦しようとしたのだが、フェリルの話しかけるなオーラをついに突破できなかったのである。そのため和仁は少しでも気を紛らわそうと、昼間フェリルに言われた事を思い返していた。




「カナから聞いてる。よろしく、カズヒト」

 明らかに外国人っぽい絶世の美少女が和仁の知り合いであった事に、教室内は完全に凍り付いた。なにせ、和仁の所属する国立呉先端技術高等専門学校人機科の男女比率は、一対〇。フェリルをのぞけば全員が男という状態なのである。

 そんな野郎だらけのむさ苦しいクラスにようやく女の子(それもくっそ可愛い)がやってきたと思えば、既に知り合いがいると言うではないか。みんなの視線が非常に痛い。

 クラスの全員から反感を買った和仁は、まさに針のむしろ状態。本人に買う気が無かろうと関係ない。先生がいなくなれば、嬉々として死刑すら執行されそうな雰囲気である。

『あいつ、情報科の南條さんとも仲いいんだろ?』『あぁ、幼馴染みらしいぜ』『マジかよ!?』『そういや実習試験の日に、むっちゃ美人の人一緒にいたって』『くそ、なんで天城ばっかり』『裁判の開廷を要求する』

 空気どころか、今まさに刑が執行されそうな雰囲気になっていた。今すぐにでも寮の自室に籠城したいが、残念ながらそういうわけにもいかない。

 一次限目の開始前からくたびれモードの和仁をあざ笑いながら、和仁以外の視線を独り占めにしてフェリルは最後列の自分の席に着いた。

 和仁に死刑執行したくてたまらないクラスメイト達であるが、さすがにフェリルの目の前でそのような真似をするほど冷静さを失ってはいない。少しでも自分の評価を上げようと、今まで見た中で一番真面目に授業を受けていた。

 無論、実際には水面下で和仁をどんな刑に処すかの緊急会議が開かれているのだろうが。その証拠に、今も和仁には殺気混じりの視線が全方位から向けられている。

 確か、前に情報科の女子に告白しようとしていた生徒は、シャワー中にアークスの隠しフォルダにしまっていた秘蔵のエロ画像とエロ動画を削除されたあげく、告白しようとした女子にそのデータを送りつけられる刑に処されていたっけ。直結型アークスの和仁にはその手は使えないため、今頃は別の刑を考えている事だろう。

 和仁がそんな未来の自分の悲惨な姿を想像してげんなりしている中、新着メールを知らせるアイコンが現れた。差出人は…………見た事のないアドレスである。

 この頭の痛い時間にいったい誰がと思いつつ、メールを開くと、


集合場所 図書室

集合時間 一二五〇

遅刻厳禁


 堅苦しい、漢字ばかりもとい漢字しかない本文が表示された。そして最後の方には、雪野フェリルニーナの名前が添えられている。

 いったいどこからアドレスが流出したのや……郁奈しかいないよな。まったく、人のアドレスを勝手に教えるなんて個人情報を何だと思っているのか、あののほほん姉は。

 それは後で問いつめるとして、図書室に呼び出してどうするつもりなのか。まあ、どのみち教室に残っていたら公開処刑は確実なので、安全地帯という意味でもフェリルと一緒にいる方がいいのは疑いの余地もない。

 時間は、午前の授業が終わってすぐ、で合ってるよな? 漢数字が四つ並んでいるんだし、とイマイチ自信の持てない和仁であった。

 そして四時限目の授業が終了し、フェリルが教室を出た途端、

「天城てめぇ!」「待て! 逃げるな!」「お前ばっかりずりぃぞ!」「大人しく死刑になれ!」

 嫉妬を通り越して逆恨みに駆られた|気のいいクラスメイト達《暴徒共》が、目の色を変えて襲いかかってきた。

 だが、そっちがそう来る事はわかっていた。なんやかんやで、実行部隊は一部だけ。取り囲まれる前に包囲網を脱出し、和仁は図書室に向かうのだった。

 どんな話をされるのかとびくびくしながら入った図書室であったが、先に来ていたフェリルはあくまで淡々としていた。

 要点をまとめると、




 1.民間人による人型戦闘機甲の操縦並びに攻撃行動は犯罪行為。

 2.それを回避するために、カズヒトはそれ以前に自衛隊に入隊した事になった。

 3.カズヒトの脳波に最適化された紅金(イロカネ)のシステムをフォーマットして元

に戻すにけっこうな額の予算と時間が必要だから、カズヒトは暫定的に紅金(イロカネ)搭乗者(ランナー)になった。あとついでに適性が他の操縦者(ランナー)と比べて格段に高い(郁奈談)。

 4.人型戦闘機甲の搭乗者(ランナー)は最低でも曹以上の階級だから、そこら辺の法律の問題で階級は三曹。




 と、こんなところか。明日は仮駐屯地に行って、必要書類を受け取るらしい。それが終わると、学食に案内させられた。

 直結型アークスつけた銀髪美少女なんて見慣れないものが入ってきたのだから、学食中の視線が集まったのは言うまでもない。

「はぁぁ、どうなんのかなぁ……」

 寮までの道を歩きながら、和仁はため息をこぼす。

 自衛隊。改めてその名前が、両肩に重くのしかかってきた。

 本当に、自分なんかでいいのだろうか。フェリルのように、自分よりも紅金(イロカネ)を上手く扱える人間はいくらでもいるはずだ。その人が乗った方が、絶対にいいはずだ。

 そうこう思い悩んでいる内に、寮まで戻ってきていた。いい加減、塗装し直した方がよさげな階段を上り、和仁は自室へと向かう。

 と、それはそれとして、

「ところでさぁ」

「ん?」

「フェリル、いつまで付いてくんの?」

 和仁は、いつまでも付いて来るフェリルに問いかけた。

 和仁の部屋があるのだから、ここは当然男子寮である。男女がそれぞれの寮に入るのは、一昔前までと違って禁止まではいかないものの、厳しく注意されている。

「あれ? カナから聞いてない?」

 それに対してフェリルは、はてと首をかしげた。

「何を」

「ワタシ、カズヒトと相部屋になったって」

「っぇ…」

「えぇぇぇえええええええええッ!?」

 和仁が叫ぼうとしたところに、誰か別の声がかぶさってきた。聞き覚えのある声に、和仁はちらりと視線を上げてみる。

 そこには和仁の部屋の前で、大口を開けたまま固まっている紗千の姿があった。

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